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第28話 アルバの秘密

 さて、以前ダーリエにて私とルークスリアの計画は無惨にも失敗に終わった。今回は前回の二の舞にならないようにしなければ。


「なに。あの時はしてやられたが、今度こそは成し遂げるぞ、マーガレットよ」

「そうだね!」


 正直自信はない。私もただの現代日本の女子高生だし、ルークスリアもまだまだ駆け出しのエルフの女王様だ。

 イーラの言葉を思い出す。私がこの世界に来て何をしたのか。奴は私に何を求めているのか知らないが、何もしてないと言ってきた。思い出すだけでムカムカする。

 子猿くんを見てみる。子猿は退屈そうに欠伸を噛み殺していた。いつもニヤニヤしてるイーラとは似つかないのに、何故か面影が見えるようだ。


「見てなさいよ」


 私は子猿くんに言ってみる。イーラに、少しでもギャフンと言わせてやるんだから。

 私とルークスリアが話し合った計画はこうだ。アルバが入浴し始めたらルークスリアが邸を出ていくと騒ぐのだ。エルフ教の人たちはアルバがルークスリアを気にかけていることを知ってるから止めにはいるだろう。そうして邸の人々の注目をルークスリアに集めて、私が脱衣場に侵入。『色欲の衣』を奪うという計画である。

 万が一衣が見つからなくても、コッソリ逃げればまだ次のチャンスがうかがえる。

 私たちは夜まで待った。



  ***



 アルバの入浴には警備に二人着く。彼女を狙って誰かが侵入するのを阻むためだ。そこに私は駆け込んだ。


「大変です!ルークスリアが邸を出るって騒いでます!」

「なんだ?」


 二人は眉間にシワを寄せながらジロリと睨んでくる。


「あのエルフが出ていくって言ってるんですよ!」

「そんなの、他の奴等で何とかしてるだろ」

「弓も構えて、かなり抵抗してるんです」


 困惑したように「そんなこと言われても」と二人は目を合わせていた。そりゃ、持ち場なんて簡単には離れられないよね。


「他の者なら私も慌てないですけど、アルバ様が気にかけているあのエルフですよ?易々と出ていかせるわけにはいかないじゃないですか」


 私はもう一声とばかりに、わざとらしくならないよう気を付けながら伝える。


「それに、ここでもしあのエルフを止められたら、アルバ様からの信頼もきっと厚いでしょう」


 渋っていた警備たちの表情が変わる。下心を含んだ表情でお互いに目を見合わせた。だいぶ心動かされているところに止めとして「ここは私が交代するので」と送り出せば完璧である。

 エルフ教信者は誰もがアルバの特別になりたがっていた。少しでもそのチャンスがあれば必死にしがみつく。私は何とか浴場で一人になることに成功した。

 ここ数日この邸にいて観察していたが、アルバは決して誰も脱衣場より先には近寄らせなかった。警備も脱衣場入り口に張り付かせていたくらいで、今ならそれが『色欲の衣』を守るためだったんだと分かる。

 私は緊張しながら脱衣場の扉を開けた。中はある程度広いが簡素な作りの個室であった。入り口と反対側に浴室に繋がる扉があり、その奥から水音が聞こえる。まさに入浴の最中なのだ。

 あぁ、イケナイことをしている!

 美女エルフの入浴中に忍び込むなんて!私はドキマギしながら早く済ませようとあさりだした。

 脱衣カゴには清潔なバスタオルはあれど肝心の衣がない。私は棚を1つ1つ確認するがなかなか見当たらない。


「ウソでしょ…」


 広くもない個室だ。簡単に見つけられると思っていたのに。私は焦りを誤魔化しながら探した。

 出直さなくちゃダメか?でも何度も邸の人々の注目を集める理由が作れないし。でもでも見つかったら元も子もない。

 ガサガサと探す私に、子猿が「キーキー」言いながら耳を引っ張ってきた。


「しー、静かにして。見つかったらまずいのよ」

「誰に見つかったらまずいの?」


 今は邪魔しないでと子猿を手で払っていたら、耳元で艶めかしい声が囁いた。ハッとして固まる私に、クスリと笑う声と同時に吐息が掛かって思わず震えた。


「イケナイ泥棒さんだ」


 アルバが私の後ろにいた。呆気なくも簡単に、私たちの計画は失敗してしまった。固まる私の頭には、イーラの「お前、結局何かしたのか?」と問う声が響いていた。


「あの…ルークスリアが邸を出ようとしていて」

「…そう」

「少しでも人手を集めようと声をかけて…でも、ここの警備が疎かになったら困るから私が」

「それで」


 強引に言葉を遮られた。強めの口調に緊張し振り返れば、アルバの美しい顔がすぐ近くまで迫ってきた。


「ここで何をしているの?」


 それは…

 言葉も出ない。アルバはまだ浴室から出てきたばかりで髪も体も濡れていた。肩に羽織るように『色欲の衣』をかけている。まさか浴室内でも手元に持っていたのか。どんだけ警戒しているんだ、そりゃ見つからないはずだ。

 水が滴りいつも以上に艶かしく感じるアルバの視線は以前、私がルークスリアを批判したとき以上に冷え冷えとしていた。彼女の顔がどんどん迫ってくるので、私は後退する。

 何か言い訳は。何か。


「ルークスリアはアルバ様のお気に入りなので、心配されるかと思いまして、それで…」


 言葉を探してみるが、動揺から上手くしゃべることができない。と言うよりも、言い訳のしようがない。

 私が震える声で話していたら、ついには押し倒されてしまった。バランスがとれなかった私は床に頭をぶつけて倒れこむ。そこに覆い被さるようにアルバがのしかかってきた。

 そこで不思議な光景が目に入る。

 ない。


「お前、僕の魅了にかかっていないね」


 アルバの前髪から滴り落ちた滴が頬に伝う。

 私は追い付かない頭で状況を理解しようとした。それでも、訳が分からなかった。

 ないのだ。彼女の胸が。

 いや、胸はある。引き締まった胸板だ。

 確かにアルバはスレンダーだったし、ボディーラインが露になるような衣服は身に纏っていなかった。それでも、そこには女性らしい控えめ目な膨らみではなく、まっすぐな胸板しかなかった。

 それなら、もっと下。下半身には…


「ぎゃー!!」

「うるさいな」


 あ、ある!…かも!

 いや、見てない。ちゃんとは見てない。

 …でも、ある。ちゃんとあると思う。男性のものが。


「お、男!?」

「騒がないで。耳が痛いから」


 アルバは面倒そうに立ち上がり、タオルを取って体を拭いた。私は目線の先をどこに向けたら良いのかと、焦りながら背を向ける。


「また効かないのか。案外『魔女の秘め事』っていうのも大したことないな」


 その言葉にハッとした。アルバは『魔女の秘め事』のことを知っているんだ。私は身支度を整えた彼女…いや、彼を見る。


「その衣をどこで手に入れたの」

「驚いたね。王でない者がこれの存在を知ってるなんて。さては前代魔王の手先?」


 アルバは口調が変わった。私の前ではもう演じる必要がないのだろう。


「言っておくけど、これは別に魔女の秘め事だからって理由で持ってるんじゃないからね。姉さんの形見だから持っているんだ」


 姉さんの形見?

 私は今までの情報を整理してみる。

 王のみ持てる魔女の秘め事。今は亡き前代王のルークスリアの母。秘め事を知らないルークスリア。姉の形見。


「あなた、ルークスリアの叔父さん?」

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