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第21話 悲しい種族

 アルバはとても魅力的なエルフだったようだが、それは特別他のエルフよりも造形が整っているとかそういう訳ではないようだ。


「そもそも種族によって美醜の感覚は違う。見た目だけでアルバは支持を集めている訳ではないだろう」

「そうよね。獣人族は強さに魅力を感じるし、ドワーフは指の長さを見るもんね」

「エルフの見た目ってのは人族には人気があったけどね、昔から。それにしても、これだけ色々な種族を問わず虜にするってのは何かあるんだろう。ただ、それがどうやっているのかは私には分からない。どいつもアルバに会った途端、すぐにアルバを慕いエルフ教に入ってしまうんだ」


 怖いな。何か食べさせられたりとか、そういうことは無いんだろうか?

 しかしセシリアが知る限り、何も食べずともどんな場所でいつ会おうとも、アルバと一度会ってしまうとそうなってしまうんだとか。


「やっぱり見た目に何かからくりがあるのかな?それとも話術?匂いとか話し方かもしれない。セシリアはどうしてアルバの魅力に落ちてないの?」

「…さぁ?ただ、私はアルバに会う前からエルフのことが嫌いだ。憎んでさえいる。だからじゃないか?」


 一瞬だがセシリアは言葉に詰まった。アルバを思うよりも、もっと強い気持ちがあればその洗脳には罹らないってことなのかな。さっぱり仕組みは分からないけれど、もう会ってしまうだけで不味いようだ。それってちょっともうズルいんじゃないか?どう対応したらいいのやら。


「大体、エルフの癖に魅力を振りまくとか気を引くなんて、異常だ」

「異常?」

「…あんた、獣人やドワーフのことは知ってるのにエルフのことはあまり知らないな」


 う。また常識知らずって言われるかしら。ちょっと身構えたけどセシリアは「それもそうか」と1人納得していた。


「エルフは身内贔屓だし、他種族にはあんまりその実態も知られていないかもしれない。あれは悲しい種族よ」

「悲しい…?」

「エルフが家族愛、身内愛が強いってことくらいは知ってるだろ?」


 それは、聞きました。セシリアは苦々しい表情だが話してくれた。


「エルフは繁殖願望っていうのが薄い。だから子供がなかなか生まれない。一族はエルフを絶やさないようにその分仲間を大事にするんだ。それが家族愛とか身内愛…ひいては『同族殺し』の罪深さに繋がる」

「なるほど」

「エルフはそうやって家族愛が強い分、異性への愛っていうのに残念ながら理解が薄い。潔癖なエルフも多く、そういった話に嫌悪感を抱くものも多いくらい。ただエルフも全く子どもを生さない訳にはいかないから、数百年に一度…そこまでの間に1人も繁殖期に入らなければ若い男女を一組選出して子を成すっていうのが昔からの習わしなんだ」


 そう言えばルークスリアは人王から「王子の嫁に」と言われ大激怒だったな。最も、あの場合は別の理由って言うのも大きいだろうけれど。

 それにしたって、エルフの考え方は現代日本出身の私からは理解し難い。義務によって子を産むことになるのよね。あぁでも、セシリアはちょっと詳しすぎないだろうか。排他的なエルフのこんな内情を理解しているって、一体どうしてなのか…セシリアを観察してみるけれど、分かる訳がなかった。


「異性への愛、男女の愛を理解できない悲しい奴ら…それがエルフなんだ」


 セシリアはもう、私に言い聞かせるというよりは独り言のようだった。そして、最後ポツリと呟いてこの話は締められる。


「エルフが恋をすると世界の終わりが始まる…そういうちょっと変わった種族なんだよ」


 セシリアの言う言葉の真意は、残念ながら私には読み取り切れなかった。


「それじゃ、理由は分からないけどアルバと会ってしまったら洗脳にかかっちゃうのよね。会わなければどう?遠くから見てみるとか」

「危険だろうな。ただ、行動できることが少ない今、可能ならアルバを見ておきたい」


 とりあえず一度遠目から見るだけ見てみて、様子を探ってみようか。危険は百も承知だが、エルフのことは知っていてもエルフ教についてはセシリアもあまり知らないようだし。情報が少なすぎる。信者との交流なんか見れたら、どうやって術に嵌めてるのか分かるかもしれないって淡い期待もしている。


「…本当に行くんだね」


 セシリアは心底呆れたようだった。だがナイトのためにも人魚の涙が必要なのだ。何とかできなくても、せめてカラクリを解き明かせればクレマンと交渉できるかもしれないし。


「…私なら洗脳にかからないことは証明されてる。だから私と、あとは…気付け薬が残ってたはずだから、それでも噛みながら遠目からなら、もしかしたら何とかなるかもね」

「協力してくれるの!?」


 セシリアがため息混じりに提案してくれた。何だかんだで面倒見が良いようだ。


「勘違いするな。これ以上エルフのせいで犠牲が出るのが嫌なだけだ。明後日、エルフ教の集会が開かれアルバからの施しがあるはずだから。それを見られるところまでなら、付き合う」


 アルバは定期的に施しなるものをしていて、その際は自らが姿を現し信者と会うようだ。

 そもそもエルフ教は『人類皆平等』が理念としてあるようで、まず信者から全財産を献上させる。そこから、信者に必要な分を定期的に分配するって流れらしい。

 しかし信者は全財産を貢いだ後もアルバに貢ぎ続ける。何も持たない信者はどこからその資金を調達するのか。それが盗みや強奪になるようだ。何てこった、自分の財産を渡すだけなら何てことない個人の自由だけれど、盗賊みたいな真似をするなんて。


「あとは布教による新しい信者の確保かな。それによって、また新たな信者の財を献上させられるから」

「ああ、だから布教活動があんなに激しいんだ」


 私は以前、トルペで出会ったエルフ教信者の2人組のことを思い出した。ナイトに詰め寄ってきて、異常な雰囲気だったことを思い出す。


「それじゃ、明後日の施しを見に行きましょ。どこか良い場所を知ってる、セシリア?」

「ちょっと待って、確か町の地図をアイベックスが一度手に入れてたから」


 私たちは明後日に向けて、地図を眺めながら作戦会議をした。

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