第20話 反発者
すっかりエルフ教に染まってしまったニーニャ。
彼女は言うことを聞かない私たちに痺れを切らせて叫んだ。
「みんな、手を貸して!聞き分けないんだから、アルバ様の所に無理やりにでも連れて行くのよ!」
その声に反応し、周囲にいた人々が私たちを囲みだす。嘘でしょ、これみんなエルフ教の信者なの?
私はイザークに視線をやると、彼も周囲を見ながらも手を出せずに困っていた。それはそうだ、相手はエルフ教信者と言う名の一般人である。これを全て倒していくのはちょっと今後のことも考えるとまずい。
それでも、このまま着いていってアルバ様の元に行くのは得策ではないっていうのも分かる。イザークに私を連れて強引にここから逃げてもらうしかないだろうか…?
そうやって考えていた時だった。
私たちを囲う人々の向こう側に、見たことのあるヤギを見つけた。こちらの様子を野次馬しているようだが、あれはアイベックスだ。何だってカトライア大陸にいるんだ?しかし、何でも良い。
「アイベックスってことは…ライナルト!いるんなら助けに来てよ!」
「何言ってんだ、この嬢ちゃんは」
アイベックスがいるならライナルトもいるかも。彼に何かできるか分からないが、藁をもすがる気持ちで叫んだ。
「ライナルトー!」
「あんた、ライナルトの知り合いなの?」
私の叫びはライナルトには届かなかったが、一人の女性に届いた。初めは姿が見えなかったが、エルフ教をかき分け私達のもとに来たのは、すらりとした長身の美女だった。女性はエルフ教の女性たちと違い体に布は纏っていなくて、頭を隠すように布を被っていた。それはちょうどムスリムの人の被るヒジャブのようだった。
「聞こえてる?知り合いなのか聞いてるんだけど」
「し、知り合いです」
驚きすぎて反応できなかったが、再度の問いに首を縦に振る。すると美女は「そう」とだけ呟き、振り返った。
「アイベックス!」
私の知ってるアイベックスと違い、凛々しい表情でアイベックスは人垣を飛び越え私達の前に着地した。そして、構えて周りを威嚇する。
「セシリア、邪魔をするのか」
エルフ教徒たちは美女に非難の声を上げる。
セシリアと呼ばれた女性はその抗議には耳を貸さず、ニーニャの手を私の腕から外した。
「この子達は私が連れていく」
「そんな勝手は許されんぞ!」
「あんた達の大事なアルバ様には、セシリアが勝手に連れていったって報告しておきな」
セシリアは腰元に備えていたナイフを抜くと、男を威嚇した。そうやって彼らを黙らせると、私とイザークに目だけで行くよう促し人だかりの中から連れ出してくれた。アイベックスが威嚇するとエルフ教の面々はたじろぐ。どうやらこのアイベックスはかなりできるアイベックスのようだ。
助けが入ったのだと安心して、エルフ教のことをこっそり観察してみる。不服そうなドワーフ族や舌打ちする人族、ニーニャ以外の獣人族もいた。多種族が集まっているものだ。
セシリアの家は、オルヒデーエの外れのボロ屋だった。彼女は私たちに水を出すと席へと着いた。やっと落ち着いて話ができる。
「助けていただきありがとうございます」
「別に。ライナルトの知り合いみたいだったから」
ライナルトのことを知っているようだ。アイベックスを従えてるところを見ると、もしかして魔族なんだろうか。聞いてみたいけれど、ライナルトが魔族って知らないかもしれないし無難に質問することにした。
「ライナルトとはどういう関係なの?」
「…恩人なの。住んでたとこを追われたんだけど、カトライア大陸まで逃がしてくれたのが、彼」
人助けなんてしてたのか、ライナルト。
しかしよくよく考えてみたらセシリアは美女だ。そりゃ、あの海賊も頑張るだろう。
「しかも頼る宛もない私の護衛に、一番腕の立つアイベックスを残してくれた」
「それがこの子なんだ」
自分の話と分かったアイベックスが、力こぶを作り強いアピールをしてくる。そういう関係だったのか。あの魔族はどんだけ顔が広いのやら。
「それで、エルフ教でも無いのに何だってこの町に来たのよ」
セシリアは咎めるような表情だった。どうやら助けてはくれたけど、私達のこともあまり好いてはいないようだ。
「どうしても来なくちゃいけない理由があって…セシリアはエルフ教じゃないの?」
「誰がエルフ教になんて入るもんか。私はエルフ嫌いの人族なのよ」
あ、やっぱり魔族ではないのか。
荒い口調で、憎々しげに顔を歪めて見せる。彼女は『エルフ教』ではなく『エルフ』が嫌いと言った。しかしエルフ教にも入るつもりが無いようだし、敵ではないと認識しても良いと思う。だから私の後ろで隙無く観察するイザークは、警戒心を少し緩めて良いんじゃなかろうか。
「とにかく早く出ていった方が良い。私が庇えるのも、多分今回限りだ。アルバに話がいっただろうから、次はもう庇えない」
「そうは言われても、目的達成しないことには帰れないんです」
セシリアは言うことを聞かない私に気を悪くしたようで睨んできた。
「エルフ教に染められる危険を犯してまでしなくちゃいけないことなの」
「そうだ。今回の件は感謝するが、この後のことは勝手にさせてもらう」
イザーク師匠、言い方!言い方!
セシリアは私たちが引く気がないのを悟ると「勝手にしな」とため息をついた。
「ごめんなさい、折角助けてもらったのに」
「私が勝手にしたことなんだから、別にいい」
「セシリアはどうしてエルフ教が嫌いなの?」
「ちょっと。私はあんたがライナルトの知り合いだから助けてやっただけだ。あんまり踏み込んでこないでくれる?」
怒られてしまった。
でも、私はセシリアは信頼が置けると感じた。なので協力してもらいたいのだ。
「私達、エルフ教を止めにきたんです」
「は?」
「その為には少しでも、何でも良いから情報がほしいんです。まさか仲間もこんな早く洗脳にかけられてしまうなんて思わなかったし、エルフ教のこと甘く見すぎていたんです。どんなことでも良いのでエルフ教のこと教えて下さい」
町での聞き込みも、先程の感じでは無理だろう。きっとエルフ教は町中にたくさんいる。そうであるなら、今頼れるのは目の前のセシリアだけだ。
「ちょっと待ってよ。勝手に話して勝手に人のこと巻き込まないで。あんた達、エルフ教を止めるなんてできると思ってるの?」
「できるできないでなく、やるんだ」
イザークの揺るぎない宣言に、セシリアはアイベックスに助けを求めるよう視線を送った。しかしアイベックスは肩を竦めてみせるだけだった。
「…好きにしたらいい。止めはしない」
引かない私たちを見てセシリアも折れた。
これは協力してもらえるってことだろうと勝手に解釈して私は質問することにした。
「それで、エルフ教の教祖アルバってどんなエルフ?どうやって信者を洗脳しているの?」
「アルバは突然この町に来た。エルフってだけあって美人で、妙に魅惑的なエルフだよ。」
セシリアはアルバについて教えてくれた。




