第13話 人魚の涙
私たちはその後、エルフの若い衆に呼ばれルークスリアとウォーレン老と再会した。
ウォーレン老はまた狩りに出ていたようで、戻ってきた時にはホッピングラビットを数羽捕まえてきていたようだ。今日の晩に振る舞おうと、ニコニコ教えてくれた。
「マーガレット、無事でよかった!」
ルークスリアは驚いたことにポロポロと涙を溢した。
「どうしたの!?」
「すまない。わらわがそなた1人で行かせたばっかりに」
いやいや、あの時はすでにイザークともカルヴィンとも合流してたし。でもルークスリアはとても心を痛めてくれていたようで、何度も「良かった」と呟き涙を拭っていた。
「無事に救出できたようで何よりですな。計画が上手くいったようで良かった」
「老、助かった。礼を言う」
イザークがウォーレン老に礼を述べる。そういえば、ウォーレン老にも知恵を借りたんだとか言っていたっけ。
まずウォーレン老は竜王への探りを入れたらしい。
「冒険者ギルドが竜王と接触をしたがり鳩兵隊を派遣していたのでな。まずそこで様子見をしてみようかと」
ここで探りを入れたのは竜王が見ることのできる未来はどこまでなのかということだ。
ウォーレン老はギルドから鳩兵隊が派遣されるのに合わせて私へと鳩参謀を送り出してくれたようだ。あの時鳩参謀も言っていた、私との接触が叶えば『分かっていて敢えて呼び込んでいる罠の可能性』と、『この接触が竜王の望んでいる未来に繋がる可能性』と、『竜王は全ての未来を把握してる訳ではないという可能性』の3つが考えられると。
ウォーレン老は3つ目の全ての未来を見通せる訳ではないのではないかと予想していたらしい。だから、ギルドからの手紙という大きな出来事に合わせて鳩兵隊を派遣して、私に手紙が届けられないかと。まぁ、結局どれが正解であったのかはイマイチ分からないけど。
そして鳩参謀が戻ってきたので、今度はギルドがローレン・ハリントンを派遣するタイミングに合わせてプライディアに乗り込んできてくれたらしい。そうか、こちらも敢えて日を被せていたのか。少しでもこちらからの情報が竜王に渡らない方法を考えていたようだ。
「本当はわらわも行きたかったのだが、老が止めてきてな。本当に薄情ですまない…」
「良いよ、大丈夫だよ。それにルークスリアはエルフの女王様なんだし。何かあったら大変だもん」
「僕ももう少し早く着いてたらイザークさんに着いていったのに。残念っす」
ハイノが明るい声で話に加わってきた。イザークたちが出発した後にハイノはラスタリナに来たようだ。
「そういえば、ハイノは何かあったの?」
「冒険者ギルドがグラトナレドに来たんすよ。一応、魔族が出没したエリアっすから。マーガレットさんのお友だちって獣人さんが逃がしてくれたっす」
チャドか。彼はグラトナレドに様子見しに行くと言っていたもんな。チャドはハイノのことを初めかなり驚いたようだが、理解してくれたみたいだ。ハイノはまた戻ってくることを約束し、グラトナレドを出たのだとか。
「テキトーな人族の姿に変身して紛れて過ごしてたんすけど。さすがにずっと変身してるのは面倒だったんで元の姿で匿ってくれそうなラスタリナにまた来たんす」
なるほどねぇ。そんなことになっていた訳だ。
私もプライディアであったことは軽く報告をして、ついに本題に入ることにした。
「それで、竜王が言うにはハイノに聞けば活路が開けるってことなんだけど」
「プレッシャーっすね、それ。と言うか、その魔女の秘め事って各種族の王にそれぞれ渡されるものってことだったっすけど、どうして魔族に人族の秘め事が渡されたんすかね。当代の人王は秘め事どうしてるんすかね?」
「それは…魔女の気まぐれか何かじゃない?それより、『強欲の指輪』で力を得た者に対処するにはどうすれば良いのか。これについて考えてみてよ」
早くナイトに会いに行きたいので、私はついつい急かすようにハイノにお願いをした。
みんながハイノに注目する。ハイノは「うーん」と考え始めた。
「こんなまどろっこしいことしなくても、『傲慢の書』を覗いてみれば一発っすよね」
「だから、私は魔女の秘め事なんて使う気はないの。こんなもの、使ってみて良いことなんて一つもないよ」
「そうっすか。まぁ、僕から言えることって言えば、『人魚の涙』がもしかして使えるんじゃないかってことっすかね」
え?人魚の涙?
それって、確かトルペ港で闘技大会が行われた時の優勝賞品だった美容品のこと?
予想外の単語が出てきて困惑していると、ハイノは待ってましたとばかりに知識を披露し始めた。
「『人魚の涙』って言うのは、カトライア大陸にある魚人の治める国、エンヴィレナに住む人魚の娘が感涙した時に落ちる滴が固まったもののことっす。正確に言うとただの人魚の娘ではなくて、一代に1人、王族の中から現れるそうっすよ。その『人魚の涙』は、どんな宝石にも優る輝きを持ち、希少価値が非常に高くて高額で取引される代物っす」
カトライア大陸はまだ行ったことの無い場所だ。魚人も、会ったことがないな。
「『人魚の涙』は確かに美容品として市場では価値が見いだされているっすけど、それは平和な今の時代の需要によってそうなってるんす。本来あれは、状態異常を回復する効果のあるものなんす」
「状態異常の回復?」
そんなRPGみたいな話なの?
ハイノが言うには何かしら変化してしまったものを元の状態に戻すのがこの涙の真価のようだ。
「もちろん、できてしまったニキビを消したり美肌を取り戻したりするのもそうっす。逆を言えば、初めからあったものは消せないんすけどね」
「後天的になったものを消し去るってことね。例えば生まれた時からある痣には塗っても効かないってことかな?」
「そうっす!だから、もし新魔王が秘め事ってやつの力を使って強大な力を得たのだとしたら、『人魚の涙』を飲ませればその効果を消してしまうことができるんじゃないすかね」
ハイノは説明を終えると、「あくまで予想っすけど」と付け加えた。
しかし後天的に付与されたものを元に戻すっていうことなら、ピッタリだと思う。ということは、私たちはまず『人魚の涙』を手に入れないといけない訳だ。
「そうだルークスリア、人王が確かルークスリアにプレゼントしようとして手配してたはずだよ。プレゼントとかもらわなかった?」
「いや、そういった話になる前に魔族や魔女の騒ぎがあったのでな。特に受け取っては…」
残念だ。エルフの姫に贈るために王族騎士団のヒューバート・モージズ・スローンは闘技大会で優勝したって言うのに。
「と言うことは、どこかで買えないかな」
「さっきも言ったっすけど、かなり希少価値の高い代物っすから。例え商業都市のゾンネンブルーメでも売ってないと思うっす」
うーん、と言うことは魚人族に直談判しに行くとかか?
「次の目的地が決まったな」
イザークが静かに言う。また大陸を移動するのか。結局、全ての種族を巡っている気がするな。
私たちはカトライア大陸を目指すことになった。




