「色」
リンクが届いたのは、夜の十一時半だった。
「nakama.gg/invite/…」
「入れよ」とロックは書いた。「うちの連中はみんなここ。これがないと話にならない」
Nakamaという名前だけは、ハルトも知っていた。週に二、三回以上ゲームをする人間なら、誰でも使っている。ボイスチャンネル、チャット、クラブや大会のサーバー。アプリを落とし、パスワードを考え、招待を押した。
サーバーの名前はシンプルだった。「T.I.M.B.E.R.S. Global」。右側にメンバー一覧、四万人以上。名前の横には、地域のタグが並んでいる。WEU、EEU、NA、SA、SEA、JP、KR。日本だけじゃない、世界じゅうの人間がここにいた。左側にはチャンネルが、長い帯のように下へ続いている。
#ルール
#大会のお知らせ
#LFT
#LFP
#チーム編成
#ロール申請
最初に目に入ったのは、色だった。どの名前にも、それぞれの色がついている。
「これ、何?」とハルトはロックに打った。
「レベル」と返ってきた。「今説明する。じゃないとお前、ここで溺れるから」
赤はOpen。サーバーに入った人間は、最初に全員この色をもらう。誰でもエントリーできる、オープンな部門。昨日ゲームを入れたばかりの人間から、五千位前後、ときにはそれより上の連中まで、何でもありだ。
灰色はImmortals。こいつらはもうどこかで戦ってきている。ティア4、地元の街のカップ戦、地域の大会。
濃い灰色はSemi-Pro。セミプロ、分厚いティア2。手強い相手とも当たり、ときにはマップを奪うこともあるチームだ。
水色はProfessional。ティア2からティア1。大きなイベントのオープン予選、クローズド予選を抜けてくるチーム。本戦では八位から十位あたりが精一杯だが、そこにたどり着くだけでも大したものだとされている。
いちばん少ないのが青だった。Competitive。頂点、ティア1。ニュースになるチームたち。
ハルトはメンバー一覧をスクロールした。青い名前は、ほんの数十人しかいない。そのひとつが「Rock」だった。少し下に、同じく青で、あの少年の名前。
「ロールって、どうやってもらうんだ?」と彼は聞いた。
「モデレーターのフォーム」とロック。「#ロール申請で。自分のこと、チーム、ゲームIDを書いて送る。向こうが確認して、色をつける」
「チームがなかったら?」
「じゃあ赤のまま。入ったやつはみんなそう。お前みたいに」
ハルトは自分の名前を見た。赤。横に小さく「JP」。同じ赤い名前が、画面の下まで何千と続いていた。
彼は#LFTを開いた。
Looking for team。チーム募集中。投稿が次々と流れてくる。どれも同じ書式だった。
「LFT|ロール:デュエリスト|19歳|Immortals、地元リーグ2シーズン|所属歴:ミックス『Sakura Rising』」
「LFT|ロール:スモーク|22|Semi-Pro|所属歴:ミックス『KZN Eclipse』『NOVA』。ティア2以上希望」
「LFT|フレックス|17|Open、成長したいです。毎日プレイ」
隣の#LFPは、その逆だった。チームが選手を探している。「サポート募集、Immortals以上、夜オンライン、東京」「IGL募集、Semi-Pro、予選経験者優先」
「ぜんぶミックスだよ」とロックは書いた。「このへんのレベルは、正直誰も見てない。いきなり跳ねて、ランキングの上のほうに出てこない限りはな」
「じゃあ、意味ないのか」
「ある。ダチはここを見てる。自分のこと書けよ。俺が代わりに話すより早い。ここじゃそれが普通」
「何を書けばいい」
「そのまんま」
ハルトは入力欄を開いた。カーソルが点滅している。
まわりの投稿を見た。シーズン、リーグ、チームの名前。彼には、そのどれもなかった。あるのはクロークと、四十八枚の番号札と、十フレームのパソコンと、五千位の数字だけだ。
(まあ、いい)と彼は思った。
「LFT Manager|22|ランク約4900|どこでも働いたことなし、知り合いもいない|ゲーム歴は長い、試合は見える|挑戦したい」
気が変わる前に、送信を押した。
メッセージは、ほかの投稿のあいだに浮かんだ。赤い名前のひとつ。デュエリストとスモークのあいだで、Managerと書いたのは彼ひとりだった。一分もしないうちに、新しい投稿に押し上げられて見えなくなった。
その下に、リアクションがひとつついた。青だった。
ハルトはノートパソコンを閉じた。
四万人のサーバーのどこかで、誰かがもう、彼のプロフィールを開いていた。
(つづく)




