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第十四話 言いがかり

ブロック大会から、数年後・・。

ある日の稽古。


智久は、道場の不破大輔先生に呼び止められた。


「ちょっと話いいか?」


何かあったのか。しかし、智久には全く心当たりがなかった。


すると、不破は険しい顔で詰め寄る。


「安倍、お前、晶と揉めたのか?」


「え?」


突然出てきた名前に、智久は困惑した。


「晶? 揉めるどころか、何年も話してませんけど?」


すると、不破は、少し言いづらそうに口を開いた。


「この前、晶が俺のところに来たんだよ」「龍彦の同級生の鹿介っているだろ?」「あの子に、安倍が“挨拶が無い”って絡んできたって話してたぞ」


寝耳に水だった。


鹿介とは、確かに大会で会った。黒田道場の監督として来ていた。


まだ空手を続けていた事が嬉しくて、少し話したのは覚えている。


だが、絡む?そんな事をする理由がない。


鹿介は、子供の頃から何度も遊びに連れて行った。家に泊めた事もある。苦楽を共にしてきた存在だった。


仮に「挨拶しろよ」と言ったとして、それがそこまで問題なのか。


そもそも、今さら晶と関わる気など、智久には全く無かった。


道場は分裂した。もう赤の他人だ。


変な因縁をつけられるのは、正直うんざりだった。


「とにかく、あまり接触するなよ」


不破は、そう言って話を終えた。


夏も終わりに近づいた頃。区の大会が開催されていた。


黒田道場は、出られる大会には片っ端からエントリーしていた。当然、この大会にも姿を現した。


晶は、空手衣も着ずに、上下真っ黒のスウェット姿で、試合コートの間をうろついていた。


智久は、空手部の撮影があったため、場所確認のため観客席から下へ降りていた。


ついたてのある待機場付近で辺りを確認していると、右側から晶が歩いてくるのが見えた。


不破に言われた通り、関わらない方がいい。


智久は視線を逸らした。


だが、視界の端から、黒い物体が近づいてくるのがわかる。


関わりたくない。そう思い、わざと反対方向へ顔を向けた。


そして数秒後、正面に向き直った瞬間――


晶の顔が、目の前にあった。


鋭い目つきで睨みながら、至近距離まで近づいてくる晶。


思わず智久は口を開いた。


「……何?」


すると晶は、怒鳴るように言った。


「何じゃねーんだよ! てめぇ表出ろ!」


周囲の目もある。


智久は晶を連れ、その場を離れた。とにかく人目につかない場所へ向かう。


そして、会場外の便所横。


智久は、その場に腰を下ろした。


「おい、座れよ」「文句あるなら聞いてやるから」


すると晶は、怒りを露わにした。


「なんで俺がお前の言う事聞かなきゃならねーんだ!?」


……お前?


智久は、心の中で呆れた。


年上に対する言葉遣いではない。


「あのな、表に出ろって言ったのは晶だろ?」「何か言いたい事があるから絡んできたんじゃないのか?」「何年も会話してないのに、なんで今さら絡んでくるんだ」


すると晶は、不敵な笑みを浮かべた。


「あん?」「理由?」「なんで、こんな空手の会場に犯罪者がいるのかなと思って絡んでやったんだよ」


智久は、一瞬意味がわからなかった。


「犯罪者?」「俺、逮捕歴も前科も無いぞ」


すると晶は、さらに声を荒げた。


「ああ!?」「てめぇ捕まってんだろうが!」「うちの近所の奴、殴って警察呼ばれたんだろうが!」


――何言ってんだコイツ。


智久は、本気でそう思った。


「いや……だから、何の話だ?」「全然意味がわからないんだが」


話を整理すると、こうだった。


近所に住む、智久の会社の後輩がいた。名前は井出。


その井出が会社を辞める際、近所で「空手やってる先輩に殴られた」と話していたらしい。


その話を鵜呑みにした晶が、それを理由に絡んできたのだ。


井出は、以前、蓬田と虻川の不倫話を智久へ持ち込んできた男だった。


智久の紹介で会社へ入ったが、素行が悪く、何度も注意されていた。

そして、智久から注意を受ける。


その際、井出は何を思ったのか警察を呼んだ。


多少、揉みくちゃになったが殴ったり、蹴ったりなど一切無い。


当然、警察も事情を聞いただけで帰っていった。


その後、井出はしばらく大人しくしていたが、また別件のトラブルを起こし、智久の知らないうちに退職していた。


妻から「次に転職したら離婚」と言われていた井出は、苦し紛れの言い訳に智久を使ったのだろう。


「井出の事か」「あいつ、会社辞めたよ」


そう言うと、晶はさらに怒鳴った。


「お前が辞めさせたんだろうが!!」


智久は、深いため息をついた。


何も事情を知らないくせに。よくそこまで他人事に首を突っ込めるものだ。


しかも、井出の退職は、晶には何の関係もない。


――エビデンス。


晶には、それが無かった。


宮林事件の時も、そうだった。


根拠も裏付けも無いまま、人の胸ぐらを掴みにいく。


噂話。想像。思い込み。


それだけで、人を断罪している。


そこで智久は、ふと気づいた。


……この感じ。


あの時と同じだ。


伊豆川と黒田。


黒田は、親子だからまだ分かる。だが、晶と伊豆川は親子ではない。


なのに、性格が異様なほど似ている。


まるで、晶と伊豆川が親子のようだった。


――厄介な奴に絡まれた。


智久は、くだらない挑発に乗ってしまった事を後悔した。


だが、その頃にはもう――


晶の感情は、さらにヒートアップしていた。


この作品には、作者自身の経験をもとにした描写が含まれています。


ただし、登場人物名・団体名・設定・時系列などは、作品として再構成したフィクションです。

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