エリシアからの初共鳴(レゾナンス)
ランクBの炎の剣の微かな熱を、賞金稼ぎのリーダーの鼻先からわずか二センチの距離に突きつける。
冷や汗と溶けた氷の水が混ざり合い、奴の粗野な顔を濡らしている。
ハンターとしての誇りは、穿いている『イチゴ柄のパンツ』が白日の下に晒されたことと共に、完全に消え去っていた。
「ひぃぃっ! お、お許しを! それをどけてくれ!」
リーダーの男は震える声で叫んだ。
「質問に答えろ、ミスター・ストロベリー」
俺はわざと低く冷酷な声を作って繰り返した。
「誰がお前たちを差し向けた?」
男はゴクリと生唾を飲み込み、恐怖に引きつった目で俺を、そして背後に立つエルフの騎士をチラチラと見た。
「い、依頼主の……本名は知らない! 任務の書状は王都の秘密の仲介人を通して送られてきたんだ!」
パニック状態で口走る。
「だ、だが、その書状にあった封蝋は……ナーヴェル公爵家の紋章だった!」
俺の背後で、エリシアの肩がビクッと震えた。
顔を伏せ、関節が白くなるほど両手を強く握りしめている。
俺はその反応を視界の隅で捉えつつも、視線を捕虜に戻した。
「ナーヴェル家、ねぇ? なんでお前らみたいな下っ端のクズをわざわざ雇う必要がある? それに『指一本触れるな』なんていう条件が付いていたのはなぜだ?」
「そ、そいつは極上の『資産』だからだ!」
男は恐怖で目を固く閉じながら叫んだ。
「聞いた話じゃ……ナーヴェル家の跡取り娘は、独身のままではいられないらしい。そのエルフのお嬢さんは、中枢派閥の大貴族との政略結婚から逃げ出したんだよ!」
「もし体に傷がついたり、ましてや傷物にでもなったら、花嫁としての『商品価値』が台無しになっちまう! だから俺たちは、傷一つつけずに連れ戻すために大金を積まれたんだ!」
胸を締め付けるような静寂が森に降りた。
俺は男の顔を少しの間見つめ、その目に嘘がないことを確認する。
そして小さく鼻を鳴らすと、左手を上げ、デコピンの要領で少しだけ力を込めて男の額を弾いた。
――パチンッ!
「うぐっ……」
極度のショックと精神的疲労により、リーダーの男は再び気絶した。
俺は炎の剣を地面に突き刺し、振り返ってエリシアを見た。
いつもは強気で口の悪いエルフの騎士が、今はひどく脆そうに見えた。
彼女は顔を背け、暗い森の奥を見つめている。まるで両肩に重い十字架を背負っているかのように。
(なるほどな。家の政治的な道具にされるのが嫌で家出してきたってわけか)
俺の脳が高速で計画を練り始める。
(俺はこの死の森からの出口を知らない。案内役が必要だ。それに、タツヤやヒロ、あのクソ女神のところへ行く前に、まずは雑魚モンスターを狩ってレベルを上げる必要がある。このエルフは、俺の初期計画にはうってつけの『完璧なパートナー』だ)
俺は深く息を吸い込んだ。
背筋を伸ばし、目を隠していた前髪をかき上げる。
ゆっくりとエリシアに近づき、再び『闇の王子』のオーラを全開にした。
「守ってくれるはずの者たちに裏切られ、道具として扱われる。全く、腐りきった世界だと思わないか?」
俺はドラマチックなハスキーボイスを作って語りかける。
エリシアがゆっくりと振り向いた。
その銀色の瞳が、複雑な感情を交えながら俺を見つめる。
「人間のあなたに、私の何が分かるっていうの……」
「かもな」
俺は斜に構えた笑みを浮かべた。
ダンスに誘う貴族のように、右手でエリシアに向かって優雅に手を差し出す。
「俺も、友達だと思っていた奴らにこの地獄に突き落とされた。役立たずのゴミだと見なされ、世界から見捨てられたんだ」
エリシアはハッとしたように目を見開いた。
目の前の奇妙な男もまた、自分と同じように『見捨てられた犠牲者』なのだと初めて気づいたような顔だった。
「エリシア・ナーヴェル」
俺は威厳のある声で名前を呼んだ。
「当てもなく一人で逃げ惑い、実家の犬どもに追われ続けるくらいなら、俺と一緒に来ないか? 運命に見捨てられた二つの魂が、反逆の道を歩む。この世界をひざまずかせてやろう」
「俺のそばには……お前が必要だ」
(よし、もらった!)
俺は内心でガッツポーズをした。
(めちゃくちゃカッコよく決まっただろ? さあ、俺の無料の案内役になってくれ!)
だが、どうやら俺のその言葉は、彼女の耳には単なる「ガイド役の勧誘」としては響かなかったらしい。
ナーヴェル公爵家という恐るべき敵を前にしても微塵も怯まず、保護を申し出てくれた恩人。
――『俺のそばには……お前が必要だ』
その一言が、エリシアの脳内で極端なまでに美化され、まるで『命がけのプロポーズ』のように変換されてしまったことなど、この時の俺が知る由もない。
エリシアの顔が、瞬く間に茹でダコのように真っ赤に染まった。
先ほどのパンツ強奪事件の時よりもはるかに赤い。彼女の胸の奥から、早鐘のように激しい心音がここまで聞こえてきそうだった。
「な、ななな、なんて大胆なことを言うのよ、この私に向かって!」
エリシアは慌てて顔を背け、抑えきれない小さな笑みを必死に隠している。
「で、でも……あなたがそこまで私にすがるのなら、一人ぼっちじゃあまりにも可哀想だし……し、仕方ないわね! 一緒にいてあげるわ!」
俺は満足げに頷いた。
(よしよし、見事に釣れたな)
しかし。
まさにその次の瞬間、俺の目の前で、青いシステム画面が目を眩ませるような金色の通知の嵐と共に弾けた。
【システム通知】
アノマリーの条件を満たしました!
[パッシブスキル:共鳴 Lv.1] がアクティブになりました!
共鳴対象:エリシア・ナーヴェル
好感度(Lux):30 / 100
[共鳴効果が適用されました]
・【GIVIN】排出率アップ:大当り確率が5%上昇(現在:55% SSR / 45% 外れ)。
・好感度ボーナス Lv.1:パッシブ・マナ自動回復が解放。共鳴対象から半径5メートル以内にいる間、使用者は20分ごとに1 MPを回復します。
俺はそのテキストを読んで目を限界まで見開いた。
息が止まる。
(な、なんだってえええっ!?)
内心で歓喜の悲鳴を上げた。
(俺のガチャ……ハズレ確率が減ってる!? しかもマナの自動回復までついた!? マジかよ! これ無限リソースじゃねえか! この女、俺にとって歩く『幸運の女神』だったのかよ!!)
突然ショックを受けた顔で固まってしまった俺を見て、まだ照れくさそうにしているエリシアが、恐る恐る腕をつついてきた。
「ど、どうしたの……? 急に黙り込んで」
恥ずかしそうに尋ねる声は、普段よりずっと甘かった。視線をさまよわせながら、自分の銀色の髪の毛先を指でいじっている。
「こ、これからどこに向かうつもり……リ、リュウナ?」
俺は我に返った。
強烈にこちらを意識しまくっているエリシアを見つめる。
なぜ彼女の好感度が突然跳ね上がったのか、俺には全く理解できなかった。
が、生粋のガチャ廃人として、最も重要な鉄則だけは理解している。
――『バフ要員(幸運の女神)は死ぬ気で囲い込め』だ。
俺は再び、この上なくミステリアスな笑みを顔に貼り付け、エレガントに顎を撫でた。
「当然だろ、エリシア。今この瞬間から……お前は俺から絶対に離れないことだ」
(俺のマナ回復を途切れさせないためにな!)
かくして、この極めて都合の良い『壮大な勘違い』のもと、偽りの闇の王子と、見事に勘違いしたエルフ騎士の波乱万丈な旅が正式に幕を開けたのである。




