勇者と騎士、そして痛恨の『誤爆』ターゲット
氷の霧が、ニヴルヘイムの死の森の夜風に吹かれてゆっくりと晴れていく。
エルフの女騎士は息を潜め、霧の向こうからゆっくりと姿を現す影を凝視していた。
彼女の頭の中では、恐るべき古代のボスモンスターか、高位の悪魔術師の姿を想像していた。
しかし。
ついにその姿が霧の残骸から歩み出てきた時、エルフの目は困惑に丸くなった。
モンスターではない。黒いローブを着た老魔術師でもない。
ボサボサの黒髪に、異世界の奇妙な服(星陵高校の制服)を着た人間の青年だった。
極めて平坦で、今にも眠りそうな顔をしているが……その足取りは、世界で最も危険な森の中とは思えないほどリラックスしている。
リュウナは足を止めた。
そして、大口を開けたまま凍りついた四体の賞金稼ぎの氷像を見つめる。
(プッ……なんだよあの顔? なんであんなアホ面で凍ってんだよ?)
リュウナは、中二病の威厳を崩さないように必死に笑いをこらえた。
彼は次に視線を下へと向け……粘着性の魔法の網に捕らわれ、無防備に横たわる銀髪のエルフの少女を見た。
その抜群のプロポーション――特に、戦闘には全く不向きなクロップド丈の鎧とスカート――を見て、リュウナの目はわずかに見開かれた。
が、慌てて冷酷でミステリアスな表情を作り直す。
エルフの少女は警戒した目でリュウナを睨んだ。
「あ、あなたは誰……? この氷の魔法を撃ったのは、あなたなの?」
恐れと驚嘆が入り交じった、少し震える声で尋ねる。
リュウナはすぐには答えない。
わざと風に髪をなびかせ、ドラマチックな間を作った。
「そこで待っていろ、お嬢さん」
リュウナは、歴戦のクールな勇者を気取って、わざと低い声で言った。
(よし。ここは目立つ絶好のチャンスだ!)
リュウナは内心で歓喜した。
(遠隔から彼女を解放して、さらにオーバーパワー感を演出してやる。あの魔法の網、たぶん俺のスキルで盗めるはずだ。俺の職業の凄さを見せつけてやる!)
リュウナは右手を掲げ、エルフの女騎士へ向けてエレガントなポーズで狙いを定めた。
目を鋭く細める。
「スティール(盗め)!」
リュウナは自信満々に叫んだ。
――シュンッ!
軽くて、柔らかい布製の『何か』が、突然彼の右手の中に転送されてきた。
少女を包む魔法の網は全く消えていない。極寒の影響でヒビ割れてはいるが、まだそこに張り付いている。
(よし、成功だ。なかなかや――ん?)
リュウナは瞬きをした。
そして、今しがたエルフから『盗んだ』ばかりの物体を見下ろす。
それは白かった。
レース素材だった。
非常に薄い。
そして中央には、小さな銀色のリボンがついている。
瞬間、リュウナの目が眼窩から飛び出さんばかりに見開かれた。彼のクールな顔が一瞬にして崩壊する。
(ま、待て……これ……パンツじゃないか!?)
リュウナの脳内でパニックが爆発した。
(クソシステム!! なんでこっちの布を奪うんだよ!? 俺は網を盗むつもりだったんだぞ、下着じゃなくて!!)
時を同じくして。
地面に倒れていたエルフの女騎士は、スカートの下に、夜風の非常に……極めて涼しいスースーとした感覚を覚えた。
彼女の視線がゆっくりと下へ移動し、そして……自分の白いレース布を握りしめているリュウナの右手へと移動した。
再び、ニヴルヘイムの森に死の静寂が降りてきた。
先ほどよりもはるかに息苦しい静寂だ。
コオロギの鳴き声さえもピタリと止まった。
リュウナは隣の氷像と同じように固まっていた。右手はパンティを握りしめて前に突き出したまま。
彼はエルフを見つめ、エルフはリュウナの手の中のパンティを見つめている。
一世紀にも感じられる、恐怖の三秒間だった。
「あー、その……これは……」
リュウナが口を開くと、トウモロコシの粒ほどもある冷や汗がこめかみを滝のように流れ落ちた。中二病のセリフは完全に消え去っている。
「純粋に、技術的なエラーでして――」
エルフの少女の顔が、首すじから長く尖った耳の先まで、茹でダコのように真っ赤に染まった。
彼女は屈辱の涙を瞳に浮かべ、ギリッと歯を食いしばる。
「死ね……この、ド変態があぁぁぁッ!!」
――バキィィィッ!!
爆発的な怒りと羞恥心の力で、凍って脆くなっていた魔法の網をエルフが粉砕した。
彼女は電光石火の速さで立ち上がり、地面の白銀の剣を拾い上げると、先ほどの傭兵たちに向けたものの百倍は凶暴な殺意を放ちながら、リュウナに向かって突進してきた。
「ま、待ってくれ! 頼むから弁明を聞いてくれ、エルフさん!」
リュウナはパニックで叫び、大慌てで踵を返すと、命からがら森の奥へと全力疾走で逃げ出した。




