理想と現実、そして屈辱のイチゴ柄パンツ処刑
氷像の場所へ戻る道中、約三十分が経過した頃。
茂みがガサガサと揺れ、低級モンスターである『角狼』が彼らの行く手を阻むように飛び出してきた。
エリシアは騎士の直感で即座に銀剣の柄に手をかけた。
しかし、一つの手が彼女の肩を制止した。
リュウナは気だるげな歩みで彼女の前に出ると、先ほどハズレガチャで手に入れたばかりの炎の鉄剣を右手に握りしめた。
「ここで待っていろ。俺が出る」
リュウナはわざと低く重い声を作り、角狼を鼻で笑いながら見下した。
「この剣の試し斬りにはちょうどいい。闇の王子が牙を剥く時が来たようだな」
エリシアは呆れたようにため息をついたが、一歩下がって彼に任せることにした。
昨夜、あの大規模な吹雪の魔法を引き起こした男だ。角狼一匹など、彼にとっては準備運動にすぎないだろう。
角狼が唸り声を上げ、リュウナに向かって跳躍した。
「俺の地獄の斬撃を喰らえ……ハァァッ!」
リュウナは渾身の力で剣を振り下ろした。
しかし、彼は一つ決定的な事実を忘れていた。
彼には『剣士』クラスが持つようなパッシブスキル【剣術補正】がないのだ。ただの彼にとって、その鉄剣はあまりにも重すぎたし、バランスも最悪だった。
角狼を両断するどころか、リュウナの振りは大きく空を切り、剣の重さに引っ張られて体が前のめりに倒れ、あわや地面に顔から突っ込みそうになった。
斬撃を軽々と躱した角狼が、無防備なリュウナの顔面に向けて牙を剥く。
(ヤバッ! めっちゃ重い!!)
リュウナはパニックで内心叫んだ。
――シュパッ!
リュウナの背後から白銀の閃光が走り、一太刀で角狼の首を刎ね飛ばした。
リュウナの隣には、剣を振り抜いた姿勢のまま、ものすごくジト目(冷ややかな目)でこちらを見つめるエリシアが立っていた。
リュウナは慌てて姿勢を正し、何事もなかったかのように制服の埃を払う。そして、わざとらしく大きく咳払いをした。
「コホン。よくやった、エリシア。お前のスピードもなかなか悪くないな」
リュウナはミステリアスな顔つきで前髪をかき上げた。
エリシアは信じられないものを見るような目で彼を見た。
「あなた……今、普通に噛まれそうになってたわよね? 剣なんて全く使えないじゃない!」
「勘違いするな」
リュウナは顔色一つ変えず、罪悪感の欠片もない平坦な顔で言い訳を放った。
「わざと外したのさ。お前の戦闘時の反射神経をテストするための、俺のシナリオ通りだ。パートナーとして、いざという時に頼りになるか確認しておく必要があったからな」
エリシアは、急に痛んできたこめかみを指で揉んだ。
「……もう好きにしてちょうだい、偉大なる闇の王子様。さっさと行くわよ」
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しばらくして、彼らは元の場所に到着した。
四体の賞金稼ぎの氷像は、手を伸ばし口をあんぐりと開けたという、極めてマヌケな姿勢のままカチコチに固まっていた。
「さて、尋問を始めるとしようか」
リュウナはニヤリと笑った。
エリシアは、彼が強力な炎の魔法か、複雑な解凍の呪文でも使うのだろうと想像していた。
しかし、リュウナが次にとった行動は、またしてもエルフの少女を絶句させるものだった。
リュウナは四体の像に近づくと、のんびりとした動作で、氷の足元にあの炎の剣をコトンと立てかけた。
その後、後ろに下がって大きな岩の上に胡座をかき、大あくびをした。
「ふぁ〜あ……さて、溶けるまで待つか」
リュウナはくつろいだ様子で言った。
エリシアはポカンと口を開けた。
「は、それだけ!? その安っぽい剣の微かな熱だけで、この分厚い氷がゆっくり溶けるのを待つつもり!?」
「当然だろ。これは『スローロースト(低温調理)』という手法だ。敵の精神を破壊するのに極めて効果的なんだよ」
リュウナは適当なデタラメを並べた。本当は他に魔法なんて一つも使えないだけなのだが。
そして案の定。
氷の塊が完全に溶けるまで、一時間近くもかかってしまった。
その間、エリシアは岩の上でうとうとと居眠りしているリュウナを見て、ただ首を横に振るしかなかった。
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――パリーン!
最後に残っていた氷が砕け散った。
四人の賞金稼ぎたちは、ジャガイモの袋のようにドサッと地面に崩れ落ちた。彼らの体は激しく震え、唇は真っ青になり、丸一日口を開けっぱなしだったせいで顎は完全に固まっていた。
「う、うぅ……さ、さむいぃ……」
リーダーの男がかすれた声で呻く。
彼らの脳が現状を処理するよりも早く、銀色の影が彼らの背後に回り込んだ。
――ドゴッ! ドゴッ! ドゴッ! ドゴッ!
剣の柄尻を使ったエリシアの正確な四発の打撃が首筋に入り、弱り切っていた四人は再び一瞬で気絶した。
エルフの少女はパンパンと手を払って埃を落とした。
「終わったわ。これでうるさくならないでしょ」
「おい、俺はまだこいつらに質問してないぞ」リュウナが抗議する。
「まずは武器と防具を剥ぎ取るのよ。縛るのはそれから」エリシアが素っ気なく答えた。
「いいアイデアだ。俺に任せろ」
リュウナは満面の笑みを浮かべた。両手を広げ、彼の口から魔法の言葉がリズミカルに紡ぎ出される。
「スティール! スティール! スティール!」
――シュン! シュン! シュン!
瞬く間に、賞金稼ぎたちの剣、短剣、金貨袋、そして胸当てに至るまでがテレポートし、リュウナの目の前にうず高く積み上げられた。
青年は、隠し金庫を破ったゲーマーのように大喜びで笑い声を上げた。
三十分後。
リーダーの男がゆっくりと目を開けた。頭がズキズキと痛む。
体を動かそうとしたが、自分たちが太い木の幹にぐるぐる巻きに縛り付けられ、気絶したままの三人の部下と背中合わせにされていることに気づいた。
「目が覚めたか、ハンターさん?」
男が顔を上げる。
目の前には、戦利品の金貨袋からコインをチャリンチャリンと数えながら、余裕の表情で座っているリュウナがいた。その隣では、エルフの女騎士が威圧的な視線で見下ろしている。
「お、お前ら……! 俺たちに何をしやがった!」
男は怒鳴った。だがその瞬間、彼は妙にスースーする冷たい風を下半身に感じた。
視線を下へ向けた男の顔から、一瞬にして血の気が引いた。
鎧、インナーアーマー、そして長ズボンに至るまで、すべてが消え失せている。
彼と三人の部下は、最も内側に着ている下着――つまりパンツ一丁の姿で木に縛り付けられていたのだ。
そして、冷酷な賞金稼ぎとしての彼のプライドを最も粉々に打ち砕いたのは……。
彼の穿いているパンツが、キュートな『ピンク色のイチゴ柄』だったことだ。
ちなみにお隣の部下は、『キスしている黄色いアヒル柄』だった。
「ブッ――!」
エリシアは顔を背け、笑いをこらえるために肩を激しく震わせた。
「ふ、服を返せ、このクソガキィィィッ!」
茹でダコのように顔を真っ赤にしてリーダーが叫ぶ。彼の尊厳は完全に木っ端微塵にされていた。
リュウナは立ち上がり、炎の鉄剣を手にゆっくりと近づいた。
彼は、微かな熱を放つ剣の平を、リーダーの男の鼻先にピタリと押し当てた。男は恐怖でゴクリと生唾を飲み込む。
リュウナの顔に、完璧な『闇の王子』の笑みが再び浮かび上がった。
「シーッ……俺たちは今、服の交渉をしているんじゃないんだぜ、ミスター・ストロベリー」
リュウナは低く、脅すように囁いた。
「さあ、吐いてもらおうか……お前たちを雇って、このエルフのお嬢さんを狙わせたのは誰だ?」




