『スティール』の悪用と初めてのジャックポットガチャ
――ドスッ!
リュウナの体が激しく投げ出され、湿った悪臭のする地面に叩きつけられた。
転送の黒い光が薄れ、彼が取り残されたのは、まるで鉤爪のように歪んだ枯れ枝を持つ巨大な木々がそびえ立つ森の中だった。
ニヴルヘイムの死の森。
暗く、不気味で、肺を締め付けるような重い空気が漂っている。
あのクソ女神に再び悪態をつく暇さえなく、茂みの奥からガサガサと粗暴な音が聞こえてきた。
――グルルル……。
――キエァァッ!
尖った耳と黄色く光る目を持つ、小柄で緑色の生き物が三体飛び出してきた。
ゴブリンだ。
彼らは錆びた短剣を握りしめ、リュウナをまるで新鮮な肉切れでも見るかのように見つめていた。
「クソッ……着陸したばかりだってのに」
リュウナは毒づきながら、無理やり立ち上がった。
彼の筋力(STR)と敏捷(AGI)はたったの一桁だ。逃げ切ることは不可能。素手で戦うなど自殺行為に等しい。
リュウナの目は、まるでゲーム内のマップを解析するプレイヤーのように素早く周囲をスキャンした。
右へ三メートル、先端が鋭く尖った折れた木の枝がある。
左へ五メートル、大人の拳ほどの大きさの川の石がある。
一体のゴブリンが跳躍し、短剣をリュウナの首へと振り下ろしてきた。
リュウナは右手を、あの木の枝の方へと伸ばした。
「スティール(盗め)!」
――シュンッ!
瞬きする間に、その先端の尖った枝はテレポートし、リュウナの右手の中にすっぽりと収まった。
リュウナは躊躇うことなく、宙を舞うゴブリンの体へ向かってその枝を突き出した。
――ズブッ!
「ギギャァァッ!」
一体目のゴブリンが枝に貫かれて絶命した。
残る二体のゴブリンが激怒する。彼らは左右から同時に襲いかかってきた。
リュウナは枝を手放し、左手をあの川の石へと伸ばした。
「スティール!」
石が瞬きと共に彼の手の中に現れる。
リュウナはその石を、左から来たゴブリンの頭に思い切り叩きつけ、頭蓋骨を砕いた。
同時に、右のゴブリンがリュウナの制服の腕をかすり傷を負わせる。
ヒリヒリとした痛みに顔をしかめながら、リュウナは最後のゴブリンの膝を蹴り飛ばした。
そして、その顔面に向かって手を伸ばし、叫んだ。
「スティール!!」
彼はその辺の「物」を狙ったのではない。
ゴブリンの『牙』の一つをピンポイントで狙ったのだ。
――メキッ!!
システムによってその牙は一瞬にして強制的に引き抜かれ、ゴブリンは激痛に悲鳴を上げてバランスを崩した。
その隙を突き、リュウナは落ちていた錆びた短剣を拾い上げ、最後のゴブリンの胸に突き立てた。
――ドサッ。
三体のモンスターが息絶えた。
【システム】:ゴブリンを3体討伐。経験値(EXP)を獲得しました。
【システム】:極限の精神的重圧条件を満たしました。
【システム通知】:固有スキル【GIVIN】が解放されました!
リュウナはへたり込み、激しく息を喘がせた。
肺が破裂しそうに痛み、冷や汗が額を滝のように流れる。
「ハァ……ハァ……クソッ、ランクEのステータスはマジでゴミだな。たかが雑魚三体で死にそうだ」
しかし、息を整える間もなく、足元の地面が大きく揺れた。
――ズシン。ズシン。ズシン。
前方の木々がなぎ倒される。
現れたのは、銅色の筋肉と巨大な牛の頭を持つ、身長三メートルに達する怪物だった。
その右手には、血まみれの巨大な斧が無造作に引きずられている。
ミノタウロスが放つ威圧感に、リュウナの体は完全に硬直した。
(ボスモンスター!? 冗談だろ!)
リュウナはパニックに陥った。立ち上がるために足に力を入れることすらできない。
ミノタウロスは空中の匂いを嗅ぎ、リュウナを睨みつけると、その巨大な斧を高く振り上げた。
死が、文字通り目の前に迫っている。
論理的に考えている暇はない。
リュウナは、まだ空中に点灯しているシステム画面を見た。
「クソッ、どうにでもなれ! システム、【GIVIN】を起動しろ!」
リュウナはヤケクソで叫んだ。
その瞬間、リュウナの脳内にベルの音とルーレットの回転音が鳴り響いた。
システム画面が狂ったように回転する抽選ホイールへと変わり――。
――ピコーンッ!!
という派手な音と共に停止した。
【GIVIN起動】
排出結果:1x ギビン・ボックス!
アイテムをドロップします……
ミノタウロスの斧が振り下ろされようとしたその瞬間、ニヴルヘイムの森の上の空が裂けたように見えた。
光り輝く銀色の巨大なギフトボックスが、隕石のような速度でリュウナとミノタウロスの間に落下してきたのだ。
――ドゴォォォォンッ!!
ボックスが着弾し、怪物の斧の軌道を完全にブロックした。
その箱の上に、目を眩ませるほどの巨大なホログラム文字が浮かび上がる。
【ミステリーボックス:レアリティ S+】
内容物:[絶対零度領域 - AoE広域魔法]
突然、その箱が爆発するように開いた。
中から飛び出したのは炎ではない。常軌を逸した極低温を伴う、青白い吹雪だった。
その氷の衝撃波は、瞬く間に半径20メートルを呑み込んだ。
――ズゴォォォォォッ!!
空気が凍る。木々が凍る。
そして、斧を振り下ろそうとしていた巨大なミノタウロスも――周囲に隠れていたかもしれない残りのゴブリンたちも――数秒のうちに透明な氷の彫刻へと変わってしまった。
冷たく、不気味な静寂が森に降り注ぐ。
爆発の中心にいたリュウナだけが、スキルによって『術者』と認識されていたため、無傷のままだった。
リュウナは口を半開きにしたまま、ゆっくりと立ち上がった。
一秒後……。
――ピキッ……パリーンッ!!
ミノタウロスの氷像にヒビが入り、粉々に砕け散ってクリスタルダストとなり、跡形もなく消え去った。
リュウナのシステム画面が、真っ赤な通知で埋め尽くされ、鳴り止まないチャイム音が響き渡る。
【システム】:ミノタウロス(変異種)を討伐。莫大な経験値(EXP)を獲得!
【システム】:レベルアップ!
【システム】:レベルアップ!
【システム】:レベルアップ!
リュウナは空中にきらめく氷の破片を見つめ、次に、そのデタラメなガチャを引き当てた彼自身の手のひらを見つめた。
「……マジかよ」
「いくらなんでも、この主人公補正はヤバすぎだろ」
リュウナは信じられないといった様子で呟いた。




