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勇者召喚、『スティール』のハズレ枠、そして裏切りの始まり

 石柱の大広間に渦巻いていたパニックは、祭壇から白い翼を持つ姿が舞い降りてきたことで静まった。


 言葉では言い表せないほどの美貌を持つ一人の女神が、星陵高校の生徒たちの群れを慈愛に満ちた笑顔で見つめていた。


「どうか落ち着いてください、我が子供たちよ。あなたたちは夢を見ているのではありません」


 女神の声は、ベルベットのようになめらかに響き渡った。


「私はこの世界を護る女神です。突然召喚したことをお許しください。ですが、私たちの世界は魔王の復活により、滅亡の危機に瀕しているのです」

「私たちは異世界の勇者の力を……あなたたちの力を必要としています」


 生徒たちは皆、押し黙った。

 彼らの脳は、この不条理な現実を必死に処理しようとしていた。


「この世界では、すべての魂に職業ジョブとシステムという恩恵が与えられます」

「さあ、ご自身の力を覚醒させるために、祭壇の円形のルーンの上へ一人ずつ進み出てください」


 女神は、祭壇の中央で柔らかく光を放つ魔法陣を指し示した。


 ためらいながらも、生徒たちは一人、また一人と前へ出始めた。


 イノウエ・ヨシラ――ヨシがそこに足を踏み入れると、鮮やかなオレンジ色の光の柱が彼を包み込んだ。

 突然、空中に半透明の青いスクリーンが浮かび上がり、それは誰の目にも見える状態だった。


【システムステータス】

 名前:イノウエ・ヨシラ

 職業:学者スカラー | ランク:A

 筋力(STR):10 | 敏捷(AGI):12 | 知力(INT):45

 耐久(VIT):10 | 器用(DEX):20 | 運(LUK):15

 魔力(MP):250 | 攻撃(ATK):10 | 防御(DEF):15

[サブスキル]:[解析アナライズ Lv.1] [マナブースト Lv.1]


「うわっ! ランクAだ!」

 数人の生徒が感嘆の声を上げた。


「素晴らしいですね。学者は上位の支援職です」

 女神が微笑みながら褒め称えた。


 次はタカミネ・ヒメカナの番だった。

 少女の足がルーンに触れた瞬間、息を呑むほど美しい真っ青な光が上空へと弾けた。


【システムステータス】

 名前:タカミネ・ヒメカナ

 職業:魔術師メイジ | ランク:S

 筋力(STR):8 | 敏捷(AGI):15 | 知力(INT):85

 耐久(VIT):12 | 器用(DEX):25 | 運(LUK):20

 魔力(MP):500 | 攻撃(ATK):15 | 防御(DEF):12

[サブスキル]:[精霊魔法 Lv.1] [無詠唱 Lv.1]


「Sランク! さすがは委員長だ!」


 女神も満足げに頷く。

「凄まじい魔法のポテンシャルですね」


 続いて、イシダ・タツヤが震える足取りで前へ進み出た。


 しかし、彼の足が地についた時、現れた光の柱は色鮮やかなものではなく、重く濁った漆黒のような紫色の光だった。


【システムステータス】

 名前:イシダ・タツヤ

 職業:剣士ソードマン | ランク:A+

 筋力(STR):65 | 敏捷(AGI):50 | 知力(INT):10

 耐久(VIT):40 | 器用(DEX):30 | 運(LUK):5

 魔力(MP):50 | 攻撃(ATK):75 | 防御(DEF):40

[サブスキル]:[剛撃ヘビースラッシュ Lv.1] [オーラブレイド Lv.1]


 タツヤは、ずらりと並んだ自分の身体能力の数値を見て目を見開いた。


 突然、いつも丸まっていた彼の肩がピンと張った。

 手の震えは消え去り、力強い握り拳へと変わる。


 彼を包む黒いオーラは、彼がこれまで抱え込んできた欲望――これ以上踏みにじられたくないという欲望、そして支配したいという欲望――を具現化しているかのようだった。


「俺……俺は強いんだ」

 タツヤは呟いた。


 彼はクラスメイトたちを振り返り、そしてニヤリと片側の口角を上げた。


 それは、彼がこれまでの人生で一度も見せたことのない、醜く歪んだ笑み(みにくくゆがんだえみ)だった。


「これからは、俺はお前らにいじめられるようなゴミじゃない」


「おお! 頼もしい前衛の勇者ですね!」

 女神は小さく拍手した。


 召喚の儀式は続いた。

 暗殺者アサシン、弓使い(アーチャー)、治癒師ヒーラー盾役タンカーなど、誰もが最低でもBランクの職業を授かっていった。


 そして、タカハシ・ヒロの番が来た。

 いじめっ子のリーダーは、顎を上げて自信満々に進み出た。


 眩い黄金の光の柱が爆発し、彼を包み込む。


【システムステータス】

 名前:タカハシ・ヒロ

 職業:騎士ナイト | ランク:S

 筋力(STR):70 | 敏捷(AGI):40 | 知力(INT):20

 耐久(VIT):80 | 器用(DEX):25 | 運(LUK):30

 魔力(MP):100 | 攻撃(ATK):85 | 防御(DEF):90

[サブスキル]:[聖盾ホーリーシールド Lv.1] [イージス・プロヴォーク Lv.1]


 ヒロは高らかに笑い、自分のステータス画面を誇らしげに見つめた。


「ハハハ! 思った通りだ! 正義は常に俺の味方なんだよ!」

「安心しろ、お前ら。この聖騎士様が、お前らを率いて悪を打ち砕いてやる!」


 ほぼすべての生徒が、ヒロを尊敬の眼差しで見つめた。


 そして今、残されたのはイシハラ・リュウナただ一人となった。


 青年は両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、のんびりと歩み出た。

(まあ、職業が何であれ、面倒じゃなくてあまり動かなくて済むなら、それでいいさ)と、彼は怠惰に考えていた。


 リュウナはルーンの上に足を踏み入れた。


 その瞬間。

 極めて濃く、威圧的な『血のように赤い光の柱』が空中に爆発した。


 誰もが息を呑み、女神でさえも目を見開いた。


「赤い色!? そ、それはレアカラーだろ! もしかしてSSランクか!?」

 ヨシが興奮して叫ぶ。


 しかし。


 ほんの数秒で、その猛々しい赤い光は急激に色褪せ……風に吹き飛ばされたタバコの灰のような、惨めでくすんだ灰色へと変わってしまった。


 かすかなノイズ音と共に、青いスクリーンが表示された。


【システムステータス】

 名前:イシハラ・リュウナ

 職業:盗賊スティール | ランク:E

 筋力(STR):5 | 敏捷(AGI):10 | 知力(INT):5

 耐久(VIT):5 | 器用(DEX):8 | 運(LUK):1

 魔力(MP):10 | 攻撃(ATK):5 | 防御(DEF):5

[サブスキル]:[スリ(ピックポケット) Lv.1]

[固有スキル]:[GIVIN(ロック中)]


 静寂。

 大広間全体が、死んだような静けさに包まれた。


 先ほどまで慈愛に満ちていた女神の目が、今や鋭く細められていた。

 その優雅な笑顔は消え失せ、隠そうともしない嫌悪の表情へと変わっていた。


「はぁ? 職業がスティール? ただの底辺の泥棒?」


 女神の口調は180度変わり、冷酷で人を見下すような声になった。


「しかも何ですか、このゴミみたいなステータスは。ランクE? チッ。召喚システムはどうやら、私の神聖な祭壇に役立たずのゴミを引き当ててしまったようですね」


 リュウナは眉をひそめた。

「おい、女神さん。あんたその口のきき方は――」


「黙りなさい、この虫ケラが!」

 女神が怒鳴りつけた。


 リュウナはクラスメイトたちの方を向いた。

 彼はヨシを見た。眼鏡の少年は前へ出ようとした。


「ま、待ってください、女神様! 彼は俺の友達で――」


「このゴミをかばう者は誰であれ、私が与えた恩恵を没収します!」


 女神のその脅しに、ヨシは凍りついた。

 青ざめた顔でうつむき、拳を握りしめながら後ずさりするしかなかった。


 ヒメカナは口元を覆い、目の前で起きていることが信じられない様子だったが、女神の放つ殺気に体がすくんで動けなかった。


 ヒロは腕を組み、鼻で笑った。

「チッ。お前みたいな奴は、正義と共に立つ資格はない」

「魔王の件は俺に任せておけ。お前はただの足手まといだ、この薄汚い泥棒め」


 リュウナの視線は最後に、イシダ・タツヤへと向けられた。

 ――彼が一番よくかばってやっていた相手だ。


「タツヤ」

 リュウナは静かに呼んだ。


 タツヤはリュウナの視線を見つめ返した。

 しかし、そこに感謝や同情の色はなかった。タツヤの目は、傲慢さと嫌悪感で満ちていた。


 タツヤは床に唾を吐き捨てた。


「その汚い口で俺の名前を呼ぶな、弱者が」

 タツヤは冷たく言い放った。


「俺はもう、負け犬でいるのはうんざりなんだよ。今この瞬間から、俺のそばにお前みたいな足手まといは必要ない。消えろ、ゴミ」


 リュウナの目が大きく見開かれた。

 胸の中で、何かが音を立てて折れた気がした。


 彼の怠惰さも、目立たないように生きてきた姿勢も、すべてが一瞬にして蒸発した。

 代わりに、脳天まで沸き立つような激しい怒りの炎が燃え上がった。


「素晴らしい。賢明な判断ですね、タツヤ勇者」

 女神は冷笑を浮かべた。


 彼女が杖を掲げると、リュウナの足元に黒い魔法陣が出現した。


「勇者に泥棒は必要ありません。あなたを『ニヴルヘイムの死の森』へと追放します。そこでモンスターの餌になることこそが、あなたの惨めな人生に残された唯一の使い道と思いなさい」


 転送魔法がリュウナの体を吸い込み始めた。

 闇の光が彼の腰の高さまで這い上がってくる。


 リュウナはもはや自分を抑えなかった。

 いつもは気怠げだった顔が硬直している。顎をきつく噛み締め、その両目からは、タツヤとヒロが思わず一歩後ずさりするほどの強烈な殺意が放たれていた。


 リュウナは、タツヤの傲慢な顔を真っ直ぐに睨みつけ、次にヒロを、そして最後に……女神の目を鋭く睨み返した。


「お前ら……自分を何様だと思ってやがる……?」


 リュウナが低い声で唸ると、周囲の空気がビリビリと震えた。

 両手は、関節が白くなるほど強く握りしめられている。


「お前ら全員……俺の復讐を待っていろ」


「特にあんた……クソ女神。必ず、お前らを全員ぶっ潰してやる!!」


 ――ドォォォンッ!


 誰かが言葉を返す間もなく、黒い光がリュウナを完全に飲み込み、彼を神聖な祭壇から消し去った。

 呪われた地獄の森へと、彼を突き落としたのだ。

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