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ステータス評価と、ポンコツ女神の『転送エラー』

ステータス評価と、ポンコツ女神の『転送エラー』


見渡す限りの大草原。そして、目の前にそびえ立つ巨大な石柱。

非現実的な光景にクラスメイトたちがパニックに陥りかけていたその時、石柱からノイズ混じりの声が響いた。


『あー、テステス。聞こえますかー? 異世界の勇者候補の皆さん』


まるで館内放送のような気の抜けた声に、俺たちは完全に毒気を抜かれて押し黙った。


『私はこの世界を管理する女神です。魔王が復活して世界がヤバいので、勇者候補として召喚させてもらいました! 今から皆さんの魂に眠る【天職ジョブ】を覚醒させます。足元のルーンに乗ってくださーい』


言われた通り、草むらに光る魔法陣が現れた。

生徒たちが一人ずつ進み出ると、彼らの足元から様々な色のオーラが立ち昇る。

そして――俺たち「異世界人」の目の前にだけ、この世界の住人には見えないであろう『半透明の青いスクリーン』が突如として浮かび上がったのだ。


【システムステータス】

名前:イノウエ・ヨシラ

職業:学者スカラー | ランク:A


「うわっ! なんだこの画面!? ランクAだって!」

『おぉー、美しいオレンジ色のオーラ! 上位の支援職ですねー!』

画面が見えていないはずの女神が、オーラの色だけで感嘆の声を上げた。


次はクラス委員長、タカミネ・ヒメカナの番だ。息を呑むほど美しい真っ青なオーラが弾ける。

【職業:魔術師メイジ | ランク:S】


「Sランク! さすがは委員長だ!」


続いて、いつもいじめられていたイシダ・タツヤが震える足取りで進み出た。

現れたのは、重く濁った紫色の光。

【職業:剣士ソードマン | ランク:A+】


空中に浮かぶ自分の高い戦闘数値を見て、タツヤは目を見開いた。

突然、いつも丸まっていた彼の肩がピンと張る。

「俺……俺は強いんだ……!」


その後も儀式は続き、いじめっ子のリーダーであるタカハシ・ヒロは眩い黄金の光と共に【騎士ナイト | Sランク】を引き当て、傲慢に胸を張った。


そして今、残されたのは俺ただ一人。

ルーンの上に足を踏み入れると、極めて濃い『血のように赤い光』が爆発した。


「赤い色!? もしかしてSSランクか!?」ヨシが興奮して叫ぶ。

しかし。ほんの数秒で、その猛々しい赤い光は……タバコの灰のような、惨めでくすんだ灰色へと変わってしまった。


【システムステータス】

名前:イシハラ・リュウナ

職業:盗賊スティール | ランク:E

[固有スキル]:[GIVIN(ロック中)]


『あー……えっと、ひどく淀んだ灰色のオーラですね。神聖な力が全く感じられません。ハズレ枠のようですが……ま、まあ! そういうこともありますよ!』


その女神の適当なアナウンスを聞いた瞬間、バスの中でタツヤをいじめていた連中が、嘲笑いながら俺に近づいてきた。


「はっ。ランクE? しかも『盗賊』? ただの底辺の泥棒じゃねえか」

いじめっ子の一人が、俺の足元にペッと汚い唾を吐き捨てた。


「おいおい、近寄るなよ。俺たちの持ち物が盗まれるぜ?」

「全くだ。神聖な使命を帯びた俺たちの中に、薄汚い泥棒など不要だ。正義に反する」

ヒロも腕を組み、冷ややかな見下すような視線を送ってきた。


俺はため息をつき、視線をタツヤへと向けた。

地球にいた頃、俺が面倒くさがりながらも、いつも荷物を拾ってかばってやっていた相手だ。

「タツヤ」

俺は静かに呼んだ。


しかし、タツヤは俺の視線を見つめ返し……傲慢に満ちた目で、鼻で笑った。


「その汚い口で俺の名前を呼ぶなよ、弱者が」

タツヤは冷たく言い放つ。

「俺はもう、お前に守られるような惨めな負け犬じゃない。俺の隣に、お前みたいな足手まといは必要ない」


かつてのいじめっ子といじめられっ子が、皮肉にも『力』を得たことで結託し、俺を嘲笑している。

普通なら激怒するか、絶望して泣き喚く場面だろう。


しかし俺は、半分眠たそうな目で彼らを見つめ、ただ面倒くさそうに頭を掻いた。


「……わぁ。怖い怖い。ごめんなさい。……で、もう終わった?」

一切の感情がこもっていない、極限の棒読みだった。


「なっ……!?」

俺が泣き喚くのを期待していたタツヤや不良たちは、あまりの反応の薄さに完全に肩透かしを食らい、逆にイライラしたように顔を引きつらせた。


「やめなさい、あなたたち!!」

その時、ヒメカナが俺をかばうように前に立ちふさがり、凛とした声でクラスメイトたちを睨みつけた。


「私たちはみんなで協力して生き抜かなきゃいけないのよ! 授かった力で他人を見下したり、いがみ合ったりしている場合じゃないわ!」

彼女の強い正義感に満ちた言葉に、ヒロたちはチッと舌打ちをして顔を背けた。ヨシもオロオロしながら俺の背中を庇う。


『はいはいはーい! 揉め事はそこまで!』

石柱の女神がパンパンと手を叩く音を鳴らした。

『それでは皆さん、全員ルーンの上に乗ってくださーい! 今から私のいる王城の祭壇へ、まとめてワープさせまーす!』


俺たちは言われた通り、それぞれのルーンの上に立った。

足元が、淡いブルーの転送光で包まれていく。


……だが、なぜか。

俺の足元のルーンだけが、チカチカと『不吉な真紅のエラー光』を点滅させていたのだ。


(……ん? なんで俺のだけ色が違うんだ?)

俺が首を傾げた、その瞬間。


――ピガァァァッ!!


視界が激しく反転し、俺の意識は一瞬にして暗闇へと吸い込まれた。


***


【王城の大祭壇】


まばゆい光が収まると、神聖な大理石の祭壇の上に、星陵高校の生徒たちが無事に転送されてきた。


正面の豪華な玉座には、白い翼を持った美しい女神が優雅に微笑んで座っている。

「ようこそ! 私の王城へ……あれ?」


女神は生徒たちの数を確認し、ピタリと動きを止めた。

彼女の美しい顔から、スゥッと血の気が引いていく。


「あ、あの……」

生徒の中から、タカミネ・ヒメカナが青ざめた顔で一歩前に出た。

彼女は信じられないといった様子で、自分のすぐ隣の空きスペースを指差す。


「どこですか……? イシハラさんが……いません……!」


祭壇がざわめく。

女神は玉座の上で冷や汗を滝のように流していた。


(や、やっばぁぁぁっ! 一人だけ座標計算ミスった! しかもエラーの転送先って……絶対生きて帰れない『ニヴルヘイムの死の森』じゃん!! 始末書書かされるゥゥ!)


『コ、コホン!』

女神は必死に冷静を装い、咳払いをした。

『大変遺憾ながら……イシハラ勇者は、転送の乱れによりお亡くなりになったようです。はい、黙祷! 終了! さあ皆さん、悲しみを乗り越えて魔王討伐へ向かいましょう!』


「い、石原くぅぅぅぅぅんッ!?」

祭壇に、ヒメカナの悲痛な叫びが響き渡った。


***


【リュウナ視点】


――ドスッ!


体が放り出され、湿った地面に叩きつけられた。

転送の光が薄れると、俺はどこかの暗く鬱蒼とした森の中に倒れ込んでいた。


「いってて……なんだここ?」

俺は立ち上がり、尻の泥を払いながら周囲を見渡した。空を覆い隠すような巨大な枯れ木。腐った葉の匂い。王城とは似ても似つかない場所だ。


「ははぁん。なるほど。王城に行く前の『チュートリアルエリア』ってやつだな?」

俺は一人で納得し、少しテンションが上がってきた。

「異世界だもんな! 最初はここでスライムでも狩ってレベル上げ――」


ガサガサッ!


茂みが揺れ、低く濁った唸り声が聞こえた。

現れたのは、尖った耳と黄色い目を持つ、緑色の醜い小鬼――ゴブリンだった。しかも三体。


「おおっ! マジのゴブリンだ! すげえ、ファンタジーじゃん! ハ、ハロー?」

俺が呑気に手を振った、その時。


――ヒュンッ!


風を切る音と共に、錆びた短剣が一直線に飛んできた。

それは俺の左耳の皮膚をわずかに掠め、背後の大木に『ドスッ!』と深く突き刺さった。


数本の髪の毛が、ハラリと地面に落ちる。


時間が、止まった。


俺は瞬きをした。

目の前のゴブリンたちが、よだれを垂らしながら、明確な『殺意』を持ってこちらを睨んでいることに、ようやく気がついた。


俺の全身の毛穴から、滝のような冷や汗がドッと噴き出した。

膝が笑い始め、心臓が肋骨を突き破りそうなほど激しく鳴り始める。


「……お、神様……」


俺は引きつった顔で、誰もいない空に向かって呟いた。


「チュートリアルなしで初見殺しとか……クソゲーかよぉぉぉっ!!」

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