退屈な出発と予期せぬ召喚
新作スタートです!本作は私の2作目となります。
前作を読んでくださった皆様、いつもありがとうございます!
今回のテーマは【不遇職からの大逆転】と【好感度で確率が変わるガチャ】です。
観光バスの単調なエンジン音が、星陵エリート高校の修学旅行の道中に響き渡っていた。
俺は半分退屈しきった目で、座席の背もたれに深く寄りかかっていた。
隣では、友人のイノウエ・ヨシラ――通称ヨシが、夢中でスマホをいじっている。
俺の平穏は、通路の横から聞こえてくる耳障りな笑い声によって破られた。
四人の男子生徒が、小柄なイシダ・タツヤを取り囲み、彼のリュックを汚れた靴で代わる代わる踏みつけている。
俺は深くため息をつき、極度の面倒くささを滲ませた目でその集団を見つめた。
「おい。うるさいぞ」
低く、抑揚のない声で注意する。
座席から立つこともなく、俺は長い腕を伸ばして、いじめっ子の足元からあっさりとリュックを奪い取った。適当に埃を払い、震えるタツヤに差し出す。
いじめっ子たちは舌打ちをした。
「おや、正義のヒーロー様の出番ってわけだ。こいつマジでつまんねぇ。行くぞ」
彼らが歩き去った後、俺は顎で自分の後ろの空席を指し示した。
「俺の後ろに座れ」
タツヤは素直に頷き、逃げ込むように席を移動した。
(こいつ……何度言ったら分かるんだ。あいつらがちょっかいを出してきたら、ただ黙って、何も表情に出すな)
被害者が苦しそうにすればするほど、あいつらは喜ぶだけだというのに。
ふと視界の隅に、いじめっ子グループのリーダー格であるタカハシ・ヒロの姿が捉えられた。
彼は一切口出しせず、ただポテトチップスを咀嚼している。俺とヒロの視線が一秒だけ交差し……互いを無視し合う、無関心だけがそこにあった。
「はい、みんなー、少しだけ出欠の確認をするわね!」
その美しい声が空気を変えた。
タカミネ・ヒメカナ――抜群のプロポーションを持つクラス委員長が、バスの通路を歩いてきた。
彼女の視線は後ろの席のタツヤへと向けられ、瞬時に曇る。
「タツヤくん……大丈夫? あなたたち、彼をいじめるのはやめて頂戴」
「チッ。はいはい、好きにしろよ」
男子生徒の一人が見下すように返し、ヒメカナはため息をつくしかなかった。
そして彼女は俺を見た。
「イシハラさん。あの……もしタツヤくんがまたいじめられたら、遠慮せずに私に言ってね」
「ふん。覚えてたらな」
俺はバスの窓に顎を乗せたまま、そっけなく返した。
ヒメカナが前へ戻った後、ヨシが俺の腕をつついた。
「おい、これ見ろよ」
ヨシはスマホの画面をこちらに向けた。美少女かつ強力な高レアキャラクターばかりを並べた、いわゆる『廃課金・暴力デッキ』だ。
「へへっ、どうだ? お前の紙装甲デッキなんて、一瞬でスクラップにしてやるぜ」
「ほう? そんな成金みたいな安い戦略で、この俺に挑もうってのか?」
俺が制服のポケットからスマホを取り出そうとすると、ヨシがニヤリと笑って制止した。
「待て待て。もしお前が、今ピックアップされてる『最新のSSRエルフ騎士』を単発ガチャで引けたら、今日の昼飯、俺が奢ってやるよ。どうだ?」
俺の目の色が変わった。
「たかが昼飯一食で、俺の『神引き』の運を試そうってのか? 見せてやるよ、俺の真の力を!」
俺は素早くゲームアプリを起動し、一切の躊躇なく単発ガチャのボタンをタップした。
画面が暗転し、ローディングが走る。
そして――画面の中央に、眩い光を放つ『黄金の扉(SSR確定演出)』がドカンと現れたのだ!
「うおっ!? ま、マジかよ!?」ヨシが目をひん剥く。
「フハハハッ! 見たか! これが選ばれし者のヒキだ! 来い、SSRエルフ騎士……ッ!!」
黄金の扉が、ゆっくりと開き始める。
神々しい光が溢れ出し、キャラクターのシルエットが浮かび上がろうとした――まさにその瞬間。
――プツン。
画面が、唐突に真っ暗になった。
「……は?」
俺はスマホの画面を連打した。しかし、うんともすんとも言わない。
「ブッ――ブハハハハッ!」ヨシが腹を抱えて爆笑し始めた。
「肝心なところでバッテリー切れとか、お前の『神運』もポンコツだな!」
「うるせえ! 扉は金色だったんだよ! あれは絶対エルフ騎士だったはずだ!」
俺はスマホを握りしめながら、ギリィッと歯を食いしばった。
(なんで出発前に充電するのを忘れちまったんだ!? ああもう、最悪だ!)
しかし、俺が内心で愚痴っていた時、奇妙なことが起こった。
外に広がる鬱蒼とした木々の風景が、徐々に薄れていく。
緑の草むらやアスファルトの道路が、ゆっくりと目を眩ませるような白い光の瞬きへとすり替わっていく。
(……なんだこれ?)
――ピカァァァッ!!!
強烈な閃光がバスの車体全体を飲み込み、激しい揺れが襲う。
金属が激しく軋み、数十人の生徒たちのパニックに陥った悲鳴が交差した。
「みんな落ち着いて! あまり動かないで!」ヒメカナが叫ぶ。
「落ち着けるわけねぇだろ! バスが揺れてんだぞ!」
俺は前の座席の背もたれを強く握りしめた。
白い光はさらに濃くなり、悲鳴を飲み込み、揺れを飲み込み、そして最後には……。
すべてが突然、絶対的な静寂に包まれた。
揺れが完全に止まったのだ。
俺がゆっくりと目を開けた時、最初に気づいたのは、自分たちがもはや山道にはいないということだった。
俺たちの乗っていたバスの残骸は……見渡す限りの青々とした『大草原』のど真ん中に打ち上げられていた。
澄み切った青空。頬を撫でる心地よい風。
そして目の前には、天まで届きそうな巨大な『石柱』が一本、不気味に宙に浮いている。
生徒の誰もが声を出せずにいると――その巨大な石柱から、ノイズ混じりの間延びした声が響き渡った。
『あー、テステス。マイク入ってますかー? 異世界の勇者候補の皆さん』
……は?
『はじめまして! 私はこの世界を管理する女神です! 現在ちょっと神界から離れられない……ゴホン、リモートワーク中なので、遠隔で失礼しますねー!』
神聖さゼロ。威厳ゼロ。
まるでスーパーの館内放送のような気の抜けた女神の声に、俺たちはただ呆然と立ち尽くしたのだった。




