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夜の支配者のための外套(マント)

 朝の陽射しが、木枠の窓の隙間から部屋へと差し込んでいた。


 部屋の隅にある浴室からは、水の跳ねる音と、時折小さな鼻歌が聞こえてくる。

 エリシアが水浴びをしているのだ。


 俺はベッドの上であぐらをかき、宙に浮かぶ青いシステム画面を鋭い目つきで睨みつけていた。


『 MP:320 / 320 (パッシブ回復 [共鳴]:アクティブ) 』


 口角が自然と吊り上がる。

 マナの容量は完全に満たされた。目撃者もいない、邪魔も入らない。完璧なタイミングだ。


 両手を擦り合わせ、熱心な信者のように心の中で祈りを捧げる。


(ガチャの神様よ、俺はただの謙虚な村人Aです。SSRなんて贅沢なものは要りません。どうかハズレ枠を、ゴミみたいなステータスのアイテムをください。どうせハズレ率45%もあるんだし、絶対に外れる。うん、俺は絶対に外れる)


 物欲センサーを騙すための、完璧な逆転の祈り(リバース・サイコロジー)を高速で唱える。


 少し震える人差し指で、仮想ボタンをタップした。


「……GIVINギヴィン

 音にならない声で囁く。


【システム】:200 MPを消費します。

【システム】:ガチャを開始します……


 青い画面が激しく回転し、白い光を放つ。

 俺は目を閉じ、息を止めた。


 光が収まり……突如として、黄金の輝きが部屋中を照らし出した!

 俺は両目をカッと見開く。


【システム通知】:ピックアップ率(55%)適用! ガチャ大成功!

 おめでとうございます! [A+]グレードのアイテムを獲得しました!


【名もなき夜の外套】(グレード:A+)

 タイプ:軽装鎧 / 装飾品

 説明:漆黒のラインが左右に入った、ダークグレーの長いマント。首元を隠す高い襟、厚手のフード、そして魔法布で作られた黒い手袋が付属している。

 追加ステータス:DEF +150、魔法耐性 +50%、足音隠蔽率 80%。


 虚空から厚手の布の塊が出現し、俺の膝の上にドサッと落ちた。


 触れてみる。信じられないほど滑らかな手触りだが、鉄の鎧よりも頑丈であることが伝わってくる。

 黒いラインが致命的なまでのエレガントさを醸し出し、黒い手袋が「早く装備しろ」と俺を誘惑していた。


(っしゃあああああッ!!)


 俺は心の中で絶叫し、右手の拳を何度も宙に突き上げた。

 エリシアに聞こえないよう、ベッドの上で音のない歓喜のダンスを踊る。


(グレードA+! DEF150プラス! ヤバすぎだろ! これでもう、その辺の石につまずいて死ぬような惨めな思いはしなくて済む!)


 さっそく広げて羽織ろうと立ち上がった時、視界の隅にあるサイドテーブルの上の布の山に気がついた。

 昨日、白樹の森の入り口でエリシアがくれた、あの薄汚れた灰色のマントだ。


 上げかけた手が、ゆっくりと下がる。

 手元のA+マントと、エリシアからのもらい物のマントを交互に見比べる。


(こんな業物わざものを白昼堂々着て歩いたら、昨日のあの青髪の騎士みたいな『猟犬』の警戒を引くだけだ)


 俺は内心で天秤にかけた。

(それに……せっかく彼女がタダでくれたものを、すぐに捨てるのも……まぁ、気まずいしな)


 短くため息をつく。

 俺はA+マントを丁寧に折りたたんで、ベッドの下に隠した。


(こいつは夜まで取っておこう。闇市場ブラックマーケットでオーガの魔石を売る時、それに相応しい『格好』で登場してやる)


 計画は完璧に整った。


 ――ガチャリ。


 浴室のドアが開いた。

 小さなタオルで濡れた銀髪を拭きながら、エリシアが出てくる。すでにいつもの服を着て、首元を隠す茶色いローブを羽織っていた。


「起きてたの、リュウナ?」

 彼女は昨夜の気まずい出来事を思い出しているのか、少し頬を赤らめながら声をかけてきた。


 その時、俺はすでに所定のポジションに戻っていた。

 ベッドのヘッドボードに寄りかかり、足を組み、まるで夜明け前から世界の行く末を案じていたかのような、底知れぬ静かな表情で窓の外を見つめている。


「今な」


 俺は平坦な声で答え、ゆっくりと振り向くと、彼女がくれた灰色のマントを肩に羽織った。


「準備しろ。使うべきコインがある。それに、この街で探らなければならない『情報』もあるからな」

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