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『窃盗(スティール)』による武装解除

 荷馬車の狭い空間は、さらに息苦しさを増していた。


 三人の盗賊が殺意とともに武器を突きつけ、隅でぐるぐる巻きに縛られた三人の本物の商人は、猿轡の奥で絶望に目を丸くするしかない。


 だが、灰色のフードの影から、リュウナの斜に構えた笑みがゆっくりと広がった。

 エリシアを制止するために上げていた手が、静かに下ろされる。


「イキってんじゃねえぞ、ガキが!」

 盗賊の手下の一人が怒鳴り、鋭い短剣を前に突き出した。


 リュウナは一歩も動かない。

 ただ手首を軽く返し、低く囁いた。


「……スティール(盗め)」


 ――シュンッ! シュンッ!


 瞬きする間に、二人の手下が握っていた短剣が消失した。

 彼らが自分たちの武器の行方に気づく前に、リュウナは両手を素早く前に突き出していた。


 ――ドスッ! ドスッ!


「ぐぁっ!? な、何だ――!?」


 二人の盗賊は、馬車の木の壁に磔にされていた。

 彼ら自身の短剣が、肩口の服を貫通し、肉を深く傷つけることなく二人を壁に縫い付けていたのだ。


「なんで俺の短剣が、俺の服に刺さってんだよ!?」

 一人目の盗賊が悲鳴を上げ、木の壁から逃れようとパニックになって身をよじる。


 先ほどまで下劣な笑みを浮かべていたリーダーの顔から、さぁーっと血の気が引いた。

 部下たちと、目の前のフードの青年を交互に見比べる。


「て、てめえ! どんな魔法を使いやがった、あぁ!?」

 ボスは震える手で小剣を握り直し、リュウナの顔に突きつけた。


 リュウナは首を少し傾けるだけだ。

 人差し指を上げ、ボスの剣の刃を真っ直ぐに指差す。


「……スティール」


 ――シュンッ!


 リーダーの手にあった小剣が跡形もなく消え去り、恰幅の良い男はマヌケにも空気を握りしめていた。


「は……?」

 ボスはポカンと口を開けた。冷や汗がこめかみを滝のように流れる。


 だが、武器を失った屈辱が彼を逆上させた。

 両手で拳を強く握りしめる。


「クソが! 死ねや、この野郎ッ!」


 男は巨体を揺らし、素手でリュウナの顔面を殴りつけようと突進してきた。


 リュウナは避ける代わりに、空中で手のひらをクルリと返した。

 先ほど盗んだばかりのボスの小剣が虚空から再び実体化し、一直線に男の顔面へと飛んでいく。


 ただし、リュウナは意図的に武器の向きを逆にしていた。

 刃の先端ではなく、鈍い柄の底が前に向いている。


 ――ゴッ!!


「がはっ!」


 剣の柄が、盗賊のリーダーの額のど真ん中に激突した。

 男はよろめきながら後退し、視界がチカチカと点滅する。


 ボスが意識を取り戻すよりも早く、銀色の影が彼の横を通り過ぎた。


 ――ドゴォッ! ドゴォッ!


 容赦のない致命的な二つの鈍い打撃が、壁に磔にされた手下二人の顎にクリーンヒットした。


 エリシアは剣を抜く必要すらなかった。

 鉄のガントレットによる一撃だけで、二人の盗賊は白目を剥いて即座に気絶した。


 よろめいていたボスはついにバランスを崩し、木の床に仰向けに倒れ込んだ。

 パニックに陥りながら、這うように後ずさりする。


 エリシアが一歩前に出ると、彼女の冷たい影が男の体を覆った。

 エルフの少女は、その長く美しい脚を高く振り上げる。


 恐怖と眩暈の中にあっても、ボスの汚れた脳はまだ下劣に機能していた。

 床から見上げる彼の視界は、エリシアの戦闘用スカートの裾の奥へと真っ直ぐに向かっていた。


(もしかして? 死ぬ前に……極上の景色を拝めるのか……?)

 ボスの男は内心で呟き、無意識のうちに期待で目を血走らせた。


 しかし、その希望はあまりにも無残に打ち砕かれた。


 ――メキィィィッ!!


 彼を出迎えたのは極上の景色ではなく、エリシアの金属製ブーツの硬い靴底だった。

 それが顔面のど真ん中に容赦なく叩き込まれる。


 鼻の骨が砕ける、身の毛のよだつような音が響いた。


「ごぼぁッ!」

 男は血を吐き出し、後頭部を床に打ち付けてそのまま完全に意識を失った。


 エリシアは脚を下ろし、倒れた男の体を心底軽蔑したような目で見下ろした。


「……気持ち悪い」


 後ろで悠然と立っていたリュウナは、奪った小剣をクルクルと回しながら満足げに頷いた。


「ふっ、いい仕事だったぞ、エリシア。流石だな」

 平坦だが、本心からの賞賛のトーンでリュウナが言う。


 青年の気負いのない言葉を聞いて、エリシアの険しい表情が一瞬で崩れ落ちた。

 エルフの騎士の顔がパッと朱に染まる。


 彼女は慌てて顔を背け、マントの埃を払うふりをした。

「こ、これくらい何でもないわ。奴らの動きが遅すぎただけよ」


 ***


 ――数分後、馬車の外。


 三人の盗賊は今、街道沿いの白樹の幹にぐるぐる巻きに縛り付けられ、横一列に座らされていた。


 一方、戒めと猿轡を解かれた三人の本物の商人たちは、リュウナとエリシアに向かって深く頭を下げていた。


「本当に、本当にありがとうございました、若旦那、騎士様! あなた方がいなければ、我々はニフルヘイムのモンスターの餌食になっていたところです!」

 一番年配の商人が、安堵に声を震わせながら言った。


「この裏ルートを通るため護衛を少なくしていたのが仇となり、あのクズ共に騙されてしまいました!」


「気にするな。次からは気をつけることだ」

 リュウナは気楽に答えた。


 隣の若い商人が、気絶して縛られている盗賊たちにちらりと視線を向けた。

「あの……若旦那。奴らをどうなさるおつもりですか? 国境の警備隊に引き渡しますか?」


 リュウナは木々の方へ首を向け、気絶した三人を値踏みするように見つめた。


「ふむ、どうするか、ね」

 リュウナは低く呟き、相棒の方を振り向いた。


「エリシア、何かいい案はあるか?」


 エリシアは腕を組み、軽く首を振った。

「あんなゴミ共のための計画なんてないわ。モンスターに食われるか、運良く王国の巡回兵に見つけられるまで、そこに放置しておけばいいんじゃないかしら」


 その答えを聞いて、リュウナの口角がゆっくりと吊り上がった。


 フードでも隠しきれない、底知れぬ笑み。

 それを見た年配の商人は、思わずゾクッと寒気を覚えて一歩後ずさりした。


「そのまま放置する、だと?」

 リュウナはゆっくりと繰り返し、その声は非常に穏やかでありながら、とてつもない危険な香りを放っていた。


「……いやいや。あの時の賞金稼ぎたちのことを、まさか忘れたわけじゃないだろうな、エリシア?」


 その言葉を聞いた瞬間。

 エリシアは息を呑んだ。


 彼女の目が大きく見開き、美しい顔が突然真っ青になる。


 木に縛り付けられ、頭から爪先まで身ぐるみ剥がされ、フルーツ柄とアヒルちゃん柄のトランクス一丁だけを残された四人の筋骨隆々な男たちの姿が……。

 鮮明なフラッシュバックとなって、彼女の脳裏に蘇ったのだ。


「リュ、リュウナ……」

 エリシアは声を引き攣らせ、一歩後退した。

「まさか……あなた……」


 リュウナの笑みはさらに深まった。

 彼の視線は、不幸な盗賊たちが身に着けている剣、金貨袋、革の鎧、そして上質なブーツへと真っ直ぐに注がれていた。


「そうだ」

 リュウナは答え、壮大な劇の幕開けを告げるオーケストラの指揮者のように、両手を優雅に前へと広げた。


「目の前にある価値ある戦利品を、わざわざ捨てるバカがどこにいる? 決してチャンスを無駄にするなよ、エリシア」

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