欺瞞に満ちた相乗り
何時間も息詰まるような暗闇を歩き続けた後、空気が徐々に軽く感じられるようになった。
死の森の腐臭が少しずつ薄れる。
代わりに、新鮮な朝露と松の樹液の香りが漂ってきた。
立ち枯れた巨大な木々は、純白の幹を持つ美しい木々へと姿を変えていた。
朝の光を反射する銀色の葉が風に揺れている。
その白き木々の合間を、一本の土埃にまみれた長い道がうねるように伸びていた。
「……抜けたわ」
エリシアは安堵の息を吐き、額の汗を拭った。
「ここは『白樹の森』。致死級のモンスターの領域と、外の文明世界とを隔てる安全地帯よ」
エルフの少女は、小さな革のリュックを下ろした。
中から大きめのフードが付いた茶色のロングマントを取り出し、それを羽織って銀髪とクロップドアーマーを隠す。
ナーヴェル家から追われる身として、素性を隠す必要があると理解しているのだ。
続いてエリシアは再びリュックを探り、くすんだ灰色のマントをリュウナに差し出した。
「これを着て。あなたのその世界の服は目立ちすぎるわ」
エリシアは言う。
「街道で誰に出くわすか分からないもの」
リュウナはマントを受け取った。
手の中にある灰色の布を、じっと見つめる。
(おお……フード付きの灰色のマント? 素晴らしい)
(これぞ『真の力を隠し持つミステリアスな旅人』の必須アイテムじゃないか!)
リュウナは内心で、ひっそりと歓喜のガッツポーズを決めていた。
だが表面上は、気怠げな表情を一切崩さない。
「分かった、着ておこう。助かるよ、エリシア」
彼は静かに答え、マントを羽織ってフードを深く被った。
顔の半分が影に隠れる。
どこからどう見ても、無害で平凡な青年にしか見えなかった。
二人は街道を歩き始めた。
一時間も経たないうちに、エリシアの尖った耳が、馬のいななきと木製車輪の軋む音を捉えた。
前方で、一台の荷馬車が道端に停車していた。
後輪が深い泥のくぼみにハマって抜けなくなっている。
行商人風の粗野な顔つきの男が三人、悪態をつきながら必死に車輪を押していた。
旅人の姿を見つけると、一番恰幅の良い男が人懐っこい笑顔を浮かべて手を振ってきた。
「おーい、そこの若いの! 国境の町へ向かうところかい?」
男は愛想よく声をかけた。
「車輪が泥にハマっちまってな。もし押すのを手伝ってくれたら、町までタダで乗せていってやるよ!」
リュウナはフードの奥からエリシアに視線を向けた。
エルフの少女は小さく頷く。一日中歩くよりも、馬車に乗せてもらう方がはるかに効率的だ。
「いいですよ、おじさん。手伝います」
リュウナは気楽に答えた。
エリシアの身体能力で少し押し上げるだけで、車輪はあっさりと泥のくぼみから抜け出した。
恰幅の良い男は満足げに笑い、分厚い幌で覆われた後部の荷台へ二人を案内した。
「さあさあ、中に入って休んでくれ! すぐに出発するからな!」
男が陽気に言う。
リュウナが先に乗り込み、エリシアがその後に続いた。
しかし。
背後の幌が閉じられ、荷台の中が薄暗くなった瞬間。
リュウナの足がピタリと止まった。
荷台の中の光景は、平凡な商人の馬車とは似ても似つかないものだった。
隅に積まれた小麦袋の陰。
そこには、裕福な商人の服を着た老人二人と若者が一人、太いロープでぐるぐる巻きに縛られていた。
口には汚い布が詰め込まれている。
本物の商人たち三人は、パニックに見開かれた目でリュウナとエリシアを見つめ、必死に警告しようと暴れていた。
同時に、馬車がゆっくりと動き出す。
だが、その進行方向は外の文明世界ではなかった。
Uターンし、再び『死の森』の境界へと向かっていたのだ。
――バサッ!
御者台と荷台を隔てる布が乱暴に引き剥がされた。
先ほどの三人の「商人」たちが、いやらしい笑みを浮かべて立っている。
彼らの手には馬の綱ではなく、鋭い短剣と小剣が握られていた。
「罠とも知らずにノコノコ乗り込んでくるとは、ご苦労なこった。小ネズミ共」
恰幅の良い男――もとい、盗賊団のリーダーが下品に笑った。
彼らは証拠隠滅のため、本物の商人たちを死の森のモンスターに食わせようとしていたのだ。
そこへ現れたリュウナとエリシアは、彼らにとって単なる『ボーナス獲物』でしかなかった。
盗賊のリーダーはリュウナに短剣を突きつけた。
その卑猥な視線は、茶色のマントの下にあるエリシアの体のラインを舐め回している。
「さあ、持ってる金と金目のものを全部出しな!」
恰幅の良い盗賊が、乾燥した唇を舐めながら脅しをかけた。
「そっちの嬢ちゃんは……そうだな。俺たちとここで少しばかり『いい事』をしてからでも遅かねえよなぁ?」
エリシアは反射的に、マントの下に隠した剣の柄を握りしめた。
顔は怒りでこわばっている。
しかし、エルフの少女が動くよりも早く。
リュウナがゆっくりと右手を上げ、エリシアの肩を制止した。
自分の後ろに下がるようにと。
リュウナは顔を伏せ、灰色のフードの影で両目を完全に隠した。
そして、長く、深い息を吐き出す。
それは極めて静かなため息だったが……同時に、とてつもなく濃密な『危険のオーラ』を放っていた。
「ふぅ……」
リュウナは、まるで自分自身に言い聞かせるように、低い声で囁いた。
「俺は、無用な争いは避けるつもりだったんだがな……」
ゆっくりと、リュウナの口角が吊り上がる。
フードの影すらも隠しきれない、底知れぬ狂気を孕んだ、致命的な笑みが浮かび上がった。
「……お前らが、それを望んだんだ」




