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起死回生の策と

 ――ブォォォンッ!!


 巨大な丸太が空気を切り裂く、凄まじい風切り音が響き渡った。


 オーガ・ミュータントの急造の武器が地面を粉砕する直前、エリシアは間一髪で後方へと跳躍した。


「皮膚が硬すぎるわ!」

 エリシアは息を切らしながら着地して叫んだ。


 先ほどの銀剣の斬撃は、モンスターの太い腕に白い引っかき傷を残しただけだった。


「リュウナ、別の作戦が必要よ!」


 リュウナはゴクリと生唾を飲み込んだ。

 顔は無表情を保っていたが、内心は絶賛崩壊中である。


(作戦ってなんだよ!? あんなバカでかい丸太、スティールできるわけないだろ!)


 オーガが咆哮を上げ、今度は少し離れた場所に立つリュウナへとその獰猛な視線を向けた。


 大地を震わせる足踏みをしたかと思うと、暴走する貨物列車の如き勢いで突進してくる。


(ヤバい! 俺を狙ってる!!)

 リュウナはパニックに陥った。


「リュウナ! 避けて!」

 エリシアの悲鳴が響く。


 しかし、リュウナの敏捷(AGI)ステータスでは、その直球の突進を完全に躱すことなど不可能だった。


 瞬く間に巨大な怪物が目の前に迫り、彼を肉塊に変えようと覆い被さってくる。


 極限のプレッシャーの中、リュウナの生存本能が強制的に肉体を動かした。


 横に飛ぶのではなく、彼はわざと後ろへ倒れ込み、ぬかるんだ地面の上をスライディングした。


 そして、突進してくるオーガの股下の隙間へと、そのまま滑り込んだのだ。


 巨大な怪物の下を滑り抜けながら、リュウナは反射的に身を守るため両腕を上げた。

 その右手には、まだ熱く燃え盛る『炎の鉄剣』がしっかりと握られていた。


 ――ジュウゥゥゥゥゥッ!!!


 鼻をつくような、肉の焦げる強烈な臭いが空気に広がった。


 時間が、一瞬だけ止まったかのように思えた。


 巨大なオーガの動きが完全にフリーズした。

 赤い血走った両目が、限界まで見開かれている。


 口は大きく開いていたが、最初の数秒間は声すら出なかった。


 そして。


 死の森でかつて聞いたことがないほどの、最も悲痛で、最も甲高く、最も苦痛に満ちた絶叫が夜空を切り裂いた。


「グギャアアアァァァァァァァッッ!!!」


 巨大なモンスターは丸太を放り出し、自身の股間を両手で強く押さえながら、痛みのあまりピョンピョンと跳ね回った。


 強靭なオスとしての彼の未来は、ランクBの炎の剣によって、あまりにも悲惨な形で焼き尽くされてしまったのだ。


 遠くからその光景を見ていたエリシアは、ただポカンと口を開け……。

 あまりの恐ろしさに、無意識のうちに自分の両脚をギュッと交差させていた。


「あ、あー……ご、ごめん」

 リュウナは気まずそうに呟きながら、オーガの背後で立ち上がった。


 しかし、そんな謝罪が通じる相手ではない。

 オスとしての尊厳を失った激痛と怒りで、オーガの目は血のような真紅に染まり切っていた。


 怪物が振り返る。

 先ほどまでの千倍は凶悪な殺意でリュウナを睨みつけた。


 そして、四つん這いになり、あり得ないスピードでリュウナへと襲いかかってきた。


(死ぬ! 今度こそマジで死ぬ!!)

 リュウナは心の中で悲鳴を上げた。


 距離が近すぎる。エリシアが守りに入るには遠すぎた。


 極限まで高まったパニックの中、リュウナの『ゲーマーの本能』が、極めて無謀で、常軌を逸した作戦を実行に移した。


 リュウナは渾身の力で、持っていた炎の剣を真上の空に向かって放り投げたのだ!


「な、何をしてるの!?」

 唯一の武器を自ら捨てたリュウナを見て、エリシアが悲鳴を上げる。


 リュウナは答えない。

 いや、答えられなかった。


 彼は真っ直ぐに立ち、丸呑みにしようと迫るオーガの巨大な口を見るのが怖くて、両目をギュッと固く閉じていた。


 体は硬直しており、恐怖のあまり、下半身はまるでミシンのようにガクガクと激しく震えている。


 オーガの鼻面が、リュウナの顔からわずか五十センチに迫る。

 その巨大な喉の奥が丸見えになった。


 怪物の牙が彼の頭を噛み砕く、ほんのコンマ数秒前。

 リュウナは心の中で、これ以上ないほどの大声で叫んだ。


「スティール!!」


 ――シュンッ!


 先ほど空へと放り投げた炎の剣が、即座にテレポートし、前に突き出していたリュウナの右手のひらへと収まった。


 オーガは口を全開にして猛突進してきている。


 そこに突如として剣が出現したことで……オーガ自身の突進の勢いにより、剣は喉の奥深くから首の後ろまでを、一直線に貫通したのだ!


 ――ズブシュゥゥゥゥッ!!


 ――ドズゥゥゥンッ!!


 巨体が崩れ落ち、地面を滑りながら、リュウナの靴の先端からわずか五センチのところで停止した。

 首から黒い血の池が広がる。


 オーガは即死だった。


 静寂。


 カラン、とエリシアが銀剣を地面に落とした。

 エルフの少女は口を少し開け、この上ない畏敬の念でリュウナを見つめていた。


 彼女の目にはこう映っていた。


 彼はわざと武器を捨ててモンスターを極限まで引きつけ、微動だにせず――あろうことか目を閉じたまま――敵の死角から正確無比に剣を呼び戻したのだと。


 微塵の恐怖も感じさせない、あまりにも完璧な計算!


 リュウナは恐る恐る片目を開けた。

 目の前に転がるオーガの死体を盗み見ると、長く、深々と安堵の息を吐き出す。


 額の冷や汗を拭い、前髪をかき上げた。


「……ふん。他愛もない。所詮はゴミが粋がっただけのこと」

 リュウナは、重く威厳のあるハスキーボイスで言い放った。


「リ、リュウナ! 今の……凄かったわ! 完璧な計算だった!」

 エリシアが目をキラキラと輝かせ、崇拝するように駆け寄ってくる。


「ただの基礎的な直感さ」

 リュウナは、斜に構えた不敵な笑みを崩さなかった。


 もっとも、エリシアが視線を少しでも下に下げていれば、彼の両膝がアドレナリンの余韻でまだミシンのようにガクガク震えていることに気づいただろうが。


 まさにその時、黄金と赤のシステム通知がリュウナの視界を埋め尽くした。


【システム通知】:オーガ・ミュータント(中級ボス)の討伐を確認。莫大なEXPを獲得しました!

【システム通知】:レベルアップ! レベルアップ! レベルアップ!

【システム通知】:(現在のレベル:25)


【システム通知】:特別達成報酬『低ステータスでのボス討伐!』

[選択可能な報酬]:

 A. 自由ステータスポイントを50追加(STR、AGI、INTなどに振り分け可能)。

 B. 最大MP容量を+200増加。


 リュウナの目が、朝日よりも眩しく輝き始めた。


筋肉ステータス? 知るかそんなもん! ガチャこそが全てだ!!)

 リュウナは内心で歓喜の雄叫びを上げた。


 一秒の躊躇いもなく、彼の人差し指は「B」の選択肢を叩いていた。


【システム通知】:最大MP容量が増加しました!(現在のMP:305 / 320)


(よっしゃあああ!! これで気絶のリスクなしでガチャが回せるぞ! ガチャの神様バンザイ!!)


 内心では小躍りするほど喜んでいたが、エリシアの熱い視線があることを思い出し、必死に平静を装う。

 リュウナはコホンと軽く咳払いをして、エルフの少女へと振り向いた。


「エリシア」

 リュウナの声は、再び平坦で威厳に満ちたものに戻っている。

「この巣はもう片付いた。次はどこへ向かう?」


 エリシアは剣を拾い上げ、満面の笑みで北の方角を指差した。

「この風の向きに沿って歩き続ければ、あと数時間で死の森の境界に着くわ。ついにこの地獄から抜け出せるのよ」


 リュウナは頷き、炎の剣を鞘に収めた。

「いいだろう。行くぞ。外の世界が、この『闇の王子』を待っているからな」

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