第174話:地下の秘密基地
翌朝、マリアが用意してくれた郊外の土地へ到着した俺たちは、すぐさま地下拠点の構築に取り掛かった。
地上には、誰も気にも留めないようなボロい木造の農具小屋を錬成した。
そこから地下へと続く隠し階段を下りると、外見からは想像もつかない広大な空間が広がっている。
「アズール海岸でのコテージ作りが、ここに来て生きるとはな」
俺は地面に両手を当て、自身の錬金術とミーシャの異空間保存を同調させながら、地下の土砂を強固な岩盤へと圧縮、変成させていく。
一度経験しているからか、魔力の流れは驚くほどスムーズだった。
「まずはカミラの城だ。この拠点の心臓部と言っても過言じゃない」
俺が設計図通りに構築したのは、大理石をふんだんに使ったアイランド型の広々としたキッチンだ。
魔力コンロは四口、最新式の換気扇と、新鮮な水を引くための水洗魔力回路も完璧に組み込んだ。
さらに、今回の建築には俺なりの大きな裏テーマがある。それは「カミラの負担を極限まで軽くすること」だ。
「床には微弱な風魔法と土魔法の回路を埋め込んである。埃やゴミは自動的に部屋の隅のダストシュートへ集められる仕組みだ」
「ご主人様……これなら、毎日の掃き掃除の時間が半分以下になりますわ!」
カミラが目を輝かせて床を見つめる。
俺のこだわりはそれだけではない。
リビングを抜け、一番奥に配置したのは、最高級のヒノキ材(霊香木)と滑らかなタイルを組み合わせたセレブ仕様の大浴場だ。
「ここも特別仕様だぞ。壁に設置したこの赤い魔力石のボタンを一つ押すだけで、湯船の排水、壁や床の洗い場の自動清掃、そして新しいお湯の張替えまで全自動で行われる」
「ワンボタンで……!? そんな夢のような魔道具、王族でも持っていませんわよ!」
カミラが驚愕の声を上げた。
いつもなら彼女が俺たちの入浴後に念入りに掃除をしてくれているが、この自動清掃機能があれば彼女もゆっくりと身体を休めることができる。
「カミラにはいつも苦労をかけてるからな。ここでは少しでも自分の時間を作ってくれ」
「ご主人様……っ。私、もう一生ご主人様にお仕えいたしますわ」
カミラが感動のあまり両手で顔を覆った。
◇
もちろん、ここは最前線の拠点だ。防衛に繋がるギミックも多数仕込んでいる。
入り口となる地上のボロ小屋には、登録した魔力波長以外の者が侵入しようとすると、強力な麻痺魔法が発動する罠を設置。
地下へ続く通路は有事の際に瞬時に岩盤で塞げるようにし、さらにいざという時のための隠し脱出通路も三方向へ伸ばしておいた。
「よし、これでひとまず寝泊まりと防衛のベースは完成だ」
俺が額の汗を拭うと、真新しい革のソファにダイブしていたルルが歓声を上げた。
「ふかふかなの! 地下なのに空気も美味しくて、最高なのよ!」
「ルルちゃん、靴のままソファに上がらないの。でも本当にすごいわ、アドルさん。王都のど真ん中の地下に、こんな快適な空間を作っちゃうなんて」
ミーシャもキッチンで魔力コンロの火力を確かめながら、感心したように頷いた。
「家ができたら、次は情報収集だ。マリアとの約束の前に、ガラハドとリーネに一度挨拶に行こうと思う。ミーシャ、護衛と空間把握のために着いてきてくれるか?」
「ええ、任せて。あの二人なら、王都の裏事情にも詳しそうだものね」
ミーシャが頼もしくウインクを返した。
そこで、俺は嬉しそうにキッチン周りを確認しているカミラに声をかけた。
「カミラ。王都は今、魔王軍が動き回っていて危険かもしれない。だから、この拠点の食材や日用品の買い出しなんかは、必ず俺が一緒についていくからな。後で時間を合わせて、王都の店を一緒に見に行こう」
俺の言葉を聞いた瞬間、カミラの肩がビクッと跳ねた。
彼女はゆっくりと振り返ると、その美しい顔に隠しきれない笑みを浮かべていた。
「ご主人様と……二人きりで、王都の街をお買い物、ですか?」
「ああ。土地勘もないし、荷物持ちくらいはするよ」
「ふふ……っ、承知いたしました。では、後ほど『護衛』をお願いいたしますね」
カミラは艶やかに微笑みながら優雅にお辞儀をした。その表情は、これから死地へ向かうメイドのそれではなく、完全にプチデートの約束を取り付けて浮かれる乙女の顔だった。
反撃のための完璧な土台は完成した。俺たちは王都の地下深くで、来るべき戦いに向けて静かに準備を進め始めた。




