第164話:魅惑の戦支度と波音への期待
街の中心部にある商業区画は、初夏の日差しを受けて活気に満ちていた。
アドルを屋敷に残し、買い出しへと繰り出したカミラ、ミーシャ、エナ、ルルの四人は、並んで大通りを歩いていた。
「まずはバカンス用の服と水着、それからバーベキューの食材ですね。エナさんが用意してくれた資金はたっぷりありますから、妥協は許しませんわよ」
カミラが気合十分に宣言した。
「海に行く服なんて初めて買うわ。どんなのがいいのかな」
ミーシャが周囲の店をキョロキョロと見渡した。
一行が足を踏み入れたのは、街で一番と評判の高級ブティックだった。
色鮮やかな夏物のドレスや、開放的な水着がズラリと並んでいた。
「うわぁ、可愛いなの! あたし、これ着てみたいなの!」
ルルがいち早く飛びついたのは、フリルがたっぷりとあしらわれた水色のセパレート水着だった。
「ルルちゃんは元気いっぱいで似合いそうね。エナちゃんはどうするの?」
ミーシャが尋ねると、エナは顔を真っ赤にしてワンピースタイプの控えめな水着を握りしめていた。
「わ、私はこれで十分です……。あまり肌を露出するのは、その、恥ずかしいですし……」
「駄目ですわ、エナさん。せっかくアドル様にお見せするのですから、もっと攻めませんと。この白いビキニに、透け感のあるパレオを合わせるスタイルなんていかがです?」
カミラが恐ろしい手際でエナの服を見立て、強引に試着室へと押し込んだ。
しばらくして出てきたエナは、恥じらいで顔を湯茹でダコのように赤く染めていたが、清廉な白の水着が彼女の清楚な魅力をこれでもかと引き出していた。
「す、すごくすーすーします……」
「とっても似合ってるわよ、エナちゃん! アドルさんも絶対に喜ぶわ」
ミーシャが絶賛すると、エナは両手で顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。
「ミーシャ様はどうされますか? アドル様の視線を釘付けにする、とっておきの一着を選びましょう」
カミラの言葉に、ミーシャは少しだけ胸元を隠すように腕を組んだ。
「そ、そうね。カミラさんみたいにスタイルが良ければ、どんなのでも似合うんでしょうけど……」
「そんなことありませんわ。ミーシャ様は健康的な魅力がありますもの。この情熱的な赤の水着なんて、ミーシャ様の黒炎のイメージにも合っていて素敵だと思いますわ」
「黒炎のイメージって、水着にどうなのよ……でも、試着してみるわ」
試着室から出てきたミーシャは、見事なプロポーションを際立たせる赤いビキニ姿を披露した。
「すごく似合ってるなの! アドルさんも絶対にメロメロになるのよ!」
ルルの素直な称賛に、ミーシャは照れくさそうに笑った。
「じゃあ、これにするわ。カミラさんは?」
「私は……これにしますわ」
カミラが手に取ったのは、妖艶な黒の紐ビキニだった。
「そ、それ……動いたらポロリしちゃわないなの!?」
ルルが目を丸くして驚いた。
「大丈夫ですわ。メイドたるもの、いかなる体勢でも完璧な着こなしを維持してみせます。すべてはご主人様のためですもの」
ふふっ、と不敵に笑うカミラのプロ意識に、三人揃って感嘆の息を漏らした。
水着に加えて、砂浜で羽織るための薄手のパーカーや、涼しげなサマードレスなどを大量に購入し、女性陣の戦支度は完了した。
服の買い出しを終えた四人は、その足で巨大な食品市場へと向かった。
「次はバーベキューのお肉なの! お魚も貝も、全部食べるなの!」
ルルが目を輝かせて市場の奥へと突撃していった。
「待ってルルちゃん、走ったら迷子になるわよ」
ミーシャが慌てて追いかけた。
市場には、近海で獲れたばかりの新鮮な魚介類や、山から下ろされた魔物の極上肉が並んでいた。
「カミラさん、このホタテみたいな大きな貝、すごく美味しそうね。バーベキューで焼いたら絶対に合うわ」
「ええ、素晴らしいですね。買い占めましょう。お肉は、この霜降りのオーク肉を塊でいただきますわ。ご主人様はよく食べる方ですから、三十人前は必要ですね」
カミラが銀貨の入った袋を揺らしながら、次々と最高級の食材を買い上げていった。
「あ、あの……カミラさん、いくらなんでも買いすぎではないでしょうか。荷物が……」
エナが心配そうに積み上がっていく食材の山を見つめた。
「問題ありませんわ。ミーシャ様の異空間保存がありますから、鮮度を保ったまま無限に持ち運べますもの」
「私の空間を巨大な冷蔵庫扱いしないでほしいんだけど……まあ、便利だからいいわよ。収納!」
ミーシャが魔法を発動し、大量の食材を次々と空間へ飲み込んでいった。
「串焼き用の野菜も忘れないでなの! トマトにピーマン、あとタマネギもなの!」
ルルが抱えてきた色とりどりの野菜も追加され、バカンスの食卓の準備は完璧に整った。
「ふふ、これで準備は完璧ですわね。あとは帰って、ご主人様を海へ連れ出すだけですわ」
「アドルさん、私達の水着姿を見て、どんな顔するかな……」
ミーシャが少しだけ期待に胸を膨らませて頬を染めた。
「早く海でお肉焼くのよ! 待ちきれないなの!」
「ええ、私も……少しだけ、楽しみになってきました」
エナも恥ずかしさを乗り越え、柔らかな笑みを浮かべた。
四人はそれぞれに海への期待を募らせながら、夕暮れが近づく街を歩き、アドルの待つ屋敷への帰路についた。




