第142話 : 絶望の天秤
「ガハッ……! 待て、ルル、攻撃をやめろ……!」
(今……なんで俺にダメージが……?どういう法則で俺が選ばれている……?)
アドルが口から溢れる血を拭いながら叫んだ。
ルルの放った猛烈な連撃。
ツヴァイをボロボロに引き裂いたその代償として、アドルの全身に鋭い切り傷が刻まれ、血が噴き出している。
「でも、あいつら……っ、笑ってるなの! 悔しいなの!」
「落ち着け! 下手すりゃこっちが先に全滅する!」
アドルは震える手で懐から魔石を取り出した。
鑑定は妨害されている。ならば、強制的に「見せさせる」しかない。
「瞬きの錬金……魔力伝導粉、錬成!」
シュゥゥゥッ!
アドルの手元から、銀色の細かい塵がエリア全体へ霧のように広がった。
「アドルさん、これは……?」
「魔力の『道』を照らす粉だ。ルル!俺の後ろに移動してくれ!敵から1番遠くに離れるんだ!……シルヴァ! あいつらの脚を、小突く程度に突け! 殺すなよ!」
「了解なの!」
「フン、容易い御用だ」
シルヴァの槍がアインの脚を掠める。
その瞬間、アドルの目に「銀色の糸」が走るのが見えた。
アインの脚から出た魔力が、宙を舞う粉を巻き込みながら、ツヴァイを通って……ルルの腕へと突き刺さった。
「いったぁい!? なんなの、今、チクッとしたなの!」
「……繋がってやがる。やっぱりな。反射ダメージの正体は、こいつら自身を繋ぐ『魂のバイパス』だ」
(やはりルルに反射ダメージが……遠くの対象を狙うようになっているのか……)
「ルル!元の位置へ戻ってくれ!」
アドルはさらに血走った目で、倒れては蘇る二人の足元を凝視した。
シルヴァがアインを再び深々と突く。
「うぐっ……!はぁはぁ……」
アドルが深いダメージを受ける。
(やはりそうか……確定だ)
アインが絶命し、数秒後にツヴァイの魔力が奔流となってアインへ流れ込み、蘇生させる。
銀色の粉が、その巨大な魔力の移動を鮮明に描き出した。
「…はぁはぁ…見えた。天秤の正体が。……こいつら、自分の命を『半分ずつ』分け合って、一つの大きな器にしてるんだ。片方が空になれば、もう片方が半分を流し込む。……延々と、永遠にな」
「じゃあ、どうすればいいの……。倒しても無駄、攻撃すれば私たちが死ぬ。……詰みじゃない」
ミーシャの絶望的な言葉。
アドルは二人の頭上でゆらゆらと揺れる巨大な黄金の天秤の幻影を見上げた。
「……方法はある。だが、とんでもなくエグい賭けだ」
「どんな賭けなの……?」
「天秤の皿を両方同時に、同じ重さでぶっ壊す。……一滴の魔力も残さず、一瞬でだ。……だがそれには、反転してくる『致命傷』を誰かが引き受けなきゃならない」
アインとツヴァイが、再び不気味に声を揃えて笑った。
「「あはは、むりだよ。死んじゃうよ?」」
「……いいや、死なせない。俺が、この天秤の『支点』を狂わせてやる」
アドルは、傷だらけの身体で笑い返した。




