一生離れない
(……ここか。しかし、アマンが自分の誕生日パーティーを開くなんて、どういう心境の変化なんだ。しかも、今日のメンツはソマの同居人ばかりだ)
わかってはいた。
それでも――やはり、ソマの姿はない。
(俺は、こんなにも嫌われていたんだな)
仮装用の衣装は二階にあると聞き、リンネは部屋のドアに手をかけた。
「……あっ、失礼」
中に人影があるのを捉え、後ろ姿だけ確認して慌ててドアを閉める。
(え……?)
胸騒ぎを覚え、確かめるように、もう一度ドアを開けた。
その開閉音に、部屋の中の人物が振り返る。
――ソマだった。
「やっぱり、君だったんだね。今日は来ないかと思ってた」
「リンネ……どうして? 今日は来ないはずじゃ……」
「はは。どうやら、みんなに仕組まれたみたいだ」
「え……?」
「僕はいつでもアマンに会えるから。ゆっくりしていって。……そのドレス、きっと君に似合うよ」
そう言い残し、踵を返して出て行こうとする。
「待って……私……」
ソマは呼び止めたものの、その先の言葉が続かなかった。
リンネは足を止め、少し迷うように振り返る。
「……髪、ずいぶん短くなったね」
気遣うように、彼は再び部屋へと足を踏み入れた。
「え、ええ……」
「君を見ると、どうしても愚痴みたいなことしか出てこないな」
一度、視線を伏せてから、リンネは静かに続ける。
「僕は、あの日……君と触れ合えたことが嬉しかった。
君と一緒に、未来を歩いていけるんじゃないかって、本気で思ったんだ」
けれど、と言葉を区切る。
「その翌日から、君は俺を避けた。
何度会いに行っても、話すことすらしてくれない。
……そんなに、俺のことが嫌になったんだろう?」
ソマは息をのむ。
「やっぱり、君は人間のほうがいいんだな」
「ち、違うの……!」
ソマはドレスを台に置き、まっすぐリンネと向き合った。
「私は、あの時……あなたに言われた言葉が、ずっと引っかかっていて。
皆に甘えてばかりだって……」
「あれは――」
リンネは、少し苦しそうに笑う。
「君が、ダンっていう男とうまくいっていなかったから。
気まぐれだと思って、君を突き放すために言った言葉だ。本心じゃない」
そして、低く付け加える。
「でも……一緒にシャワーを浴びて。
ロボットの俺とでも、本気で先のことを考えてくれるんじゃないかって……思ってしまった」
小さく首を振る。
「……やめよう。今さらだ。もう、随分と過去の話だ」
「ごめんなさい……」
ソマは唇を噛みしめる。
「あの時は、自分の気持ちしか見えていなかった。
一人になって、ちゃんとしなきゃって……」
「だから、もういいだろ」
リンネは、やさしく言った。
「君は、誰にも頼らずに……あれから三年も、一人でやってきた。
十分すぎるほど、しっかりしてる」
「……でも」
ソマの声が震える。
「今さらだけど、一人は寂しくて。
でも、錬や中利様に会えるから……」
「それでも――」
「……私が、決めたことよね」
「……ああ」
「それじゃあ……」
リンネは、視線を落としたまま背を向ける。
その瞬間。
背中に、温もりがぶつかった。
ソマが、後ろから抱きついていた。
「……何するんだよ」
リンネは困ったように息を吐く。
「君はいつも気まぐれで……俺は、そんな君に振り回されてばかりだ」
「ごめんなさい……」
腕に力を込めながら、ソマは言う。
「二度と会わないつもりだったのに……
こうして、目の前にあなたがいると……」
ソマは静かに腕をほどく。
「……勝手なことばかり言ってるって、わかってる。
ごめんなさい。私……やっぱり帰ります」
リンネの横をすり抜けようとした、その瞬間。
「……はあ。本当に、いつも勝手だよね。君は」
そう言いながら、リンネはソマの腕を掴み、引き寄せた。
「でも……そんな君でも」
今度は、彼のほうが強く抱きしめる。
「俺は、君を嫌いになれないんだ」
「……私……」
「もう、俺と――一生離れないって、約束してくれる?」
ソマは、少し間を置いて、静かにうなずいた。
「……はい」




