中利様の誕生日パーティーの日
ソマは、中利様の誕生日パーティに招かれていた。
広間に足を踏み入れた瞬間、無意識に視線が巡る――けれど、やはりリンネの姿はなかった。
聞いていた通りだ、と頭では理解している。それでも胸の奥で、小さく何かが沈む。
(……来ていないのね)
ほっと息をつく自分と、理由のわからない寂しさを覚える自分。その二つが同時に存在していることに、ソマは戸惑っていた。
感情に名前をつける前に、朗らかな声が場を包む。
「これで、全員が揃ったね。私の百八歳の誕生日に、こうして皆が集まってくれた。私は、本当に嬉しいよ。長生きはするものだね」
中利様は、年齢など微塵も感じさせない艶やかな肌で、満面の笑みを浮かべていた。その姿は、祝われる側というより、集った人々そのものを喜んでいるようだった。
「さあ、ソマ。ここがあなたの席よ。今日は、よく来てくれたわね」
アンナの声に促され、ソマは周囲を見渡す。
仮面や衣装に身を包んでいても、すぐにわかる顔ばかりだった。長い時間を共に過ごし、同じ空気を吸ってきた仲間たちだ。
「久しぶりだね、ソマ」
「元気そうで、よかったわ」
次々に向けられる笑顔と声に、胸の奥がふっと緩む。
「みな、あなたに会えるのを楽しみにしていたのよ」
アンナの言葉に、ソマは少しだけ目を伏せる。
嬉しい――その感情は確かにある。
ただ、それをどう受け止めればいいのか、まだ整理がついていなかった。
広間を見回すと、皆、仮面をつけていたり、華やかなドレスや紳士服で身を包んでいる。
(しまった。もう少し、お洒落をしてくるんだった……)
「ソマ、今日はゆっくりしていってね」
アンナに導かれ、席に向かおうとした、その時。
「あ、待ってソマ。座る前に……」
フラが、弾んだ声を上げる。
「そうだよ。今日はみんなで仮装をしよう、ってことになったんだ」
錬の言葉に、ソマは改めて周囲を見渡した。
「そう言われてみれば……みんな、本当に素敵ね」
衣装に身を包んだ人々は、いつもとは違う姿をしている。
けれど、その笑顔や視線の温度は変わらない。
久しぶりに再会したからこそ、その変わらなさが、胸に染みた。
「ソマの分も用意してあるんだよ。二階の、派手な印をつけてある部屋。そこに置いてある。着てみてくれないか?」
マネの言葉に、ソマは一瞬ためらい、それから小さく頷いた。
この場所で、この人たちと――
久しぶりの時間を、少し違う形で楽しんでみてもいいのかもしれない、と思いながら。




