3年後ーカナンの家族
家に着いたカナンは、靴を脱いだまましばらく玄関に立ち尽くしていた。錬と話したときの言葉が、胸の奥でまだ温度を持って残っている。聞くなら今しかない。そう思うのに、アマンの顔を思い浮かべると、喉の奥がきゅっと縮こまった。
夕方になり、時間だけが静かに流れていく。台所からは鍋の煮える音がして、いつもと変わらないはずの家の匂いが、今日はやけに現実味を帯びていた。
ほどなくして、ルウジャンが仕事終わりに帰ってきた。玄関の扉が閉まる音に、カナンの肩がわずかに跳ねる。今日は、あの社長は一緒ではなかった。その事実に、なぜかほっとする自分がいるのが悔しかった。
食卓を囲み、夕食が始まっても、カナンの箸は進まない。頭の中では何通りもの切り出し方を考えては消し、結局どれも口に出せずにいた。
「今日は、いつもの社長さん来ないのね」
切り出したのは、アマンだった。
「なんだよ。気になるのか?」
ルウジャンの声は、からかうようでいてどこか探るようでもある。
「私ね。変なことを言い出すのかもしれないけど……」
「なんだよ。惚れたのか?」
「何、子供の前で言い出すの?ただ、きっとルウジャンも同じ思いだと思って……」
言葉を濁すカナンに、ルウジャンは箸を置いた。
「なんのことだよ。はっきり言わないと分からないじゃないか」
その瞬間だった。
「社長が、私のお父さんじゃないかって?」
ここぞとばかりに、カナンが口を挟んだ。
「‼」
「……」
二人は、同時にカナンの顔を見る。室内の空気が、ぴんと張り詰めた。
「私だって、知りたいわよ。お父さんってどんな感じの人だったのか」
カナンは、堰を切ったように言葉を続けた。
「顔だって、身体つきだって違うわよ。でも、今なら……技術が進化した今なら、いくらでも変われるんじゃないかって……」アマンも言えずにいた言葉が止まらない。
自分でも無茶なことを言っていると分かっていた。それでも、疑念はもう引き返せないところまで膨らんでいた。
「じゃあ、本人に聞いてみたらいいじゃないか」
ルウジャンは、それ以上何も言えなかった。結局のところ、選ぶのは彼自身だ。もう悪事から完全に撤退したという彼に、過去を告白するかどうか――それは、息子次第なのだから。
アマンは黙ったまま、湯気の立つ皿を見つめていた。その横顔に、答えはまだ見えなかった。




