↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロボット  作者: いづる
PR
67/74

67話 3年後ー錬とカナン

 中学部の教室に入った錬は、まずカナンの姿を探した。窓際で頬杖をつき、ぼんやり外を見つめている。いつもの勝気な雰囲気がどこか薄れているのを感じながら、錬は迷わず近づいた。


「カナン、おはよう!」


「おはよう。…で、あんたいつまでここに通うのよ? 皆、錬が大学に通ってる天才だって知ってるのに」


「まあね。でも身体も心も急には追いつかないだろ。ここにいると気が楽なんだ」


「ふーん。そういうものなのね」


「それにさ、カナンと一週間も話せないと寂しくなるし…」


「ふーん。そういうものなのね」


「おい、聞いてるのか?」


「聞いてるわよ。でもね、私は悩みがあって、今はそれどころじゃないの」


「悩み? この間まで普通だったのに」


「多感なお年頃なのよ、私は。はぁ〜…」


 カナンは大袈裟なため息をついた。いつもの調子に戻らない様子に、錬は少し心配になる。


「聞くよ。…恋愛の話だったりして?」


 自分でも胸がざわついているのを自覚する。カナンが誰かを好きになった話なんて聞きたくない。それでも声を絞り出す。


「実はね…アマンのことなの」


 彼女の顔が、ふっと柔らかくなる。

 アマン――カナンの母。優しくて、どこか儚い笑顔をする女性。錬も何度か家に遊びに行き、その雰囲気を知っていた。


「アマンがどうかした? 病気とか?」カナンの恋愛問題ではなくてホッとしたが、その一方で気になる発言だ。


「ううん…しいて言えば“恋の病”かな」


「恋!?」


 錬の声が跳ねた。


「ルウジャン(おじいちゃん)が新しい仕事についたでしょう? 忙しくて家にいないことも多くなって……その仕事先の“社長”が、時々一緒に私の家に来るようになったって前から話をしてたでしょ⁈」


 そこまで言うと、カナンは机に突っ伏す。耳がほんのり赤い。


「アマン、その社長のこと……好きになっちゃったみたい」


「それって……悪いことじゃないと思う。アマンは、ずっと一人で家族のために頑張ってきたんだろ?」まるで、お姉ちゃん(ソマ)みたいだな。と一瞬、錬は思った。


「そう……なんだけどね」


 カナンは唇を噛む。


「その社長……アマンが言う“お父さんにどこか似てる”んだって。ルウジャンにもそう言われたの。仕草とか声の感じとか……生きていたら、こんなふうに笑ったのかなって」


 亡くなった父――カナンが幼すぎて顔も曖昧なまま失った存在。

 それに“似ている誰か”が現れたら、心が揺れないはずがない。


「…その社長が、本当に私のお父さんなんじゃないかって。…私、そんなことまで考えちゃうのよ」


 本音を言った瞬間、強気な仮面が外れたように、カナンの声が震える。


「でも、そんなの期待したら…私、また傷つきそうで。尚更アマンも同じだと思うの」


 錬は黙ってカナンを見る。

 強がって、噛みつくような話し方もするけど、でも本当は弱いところもあって――そんなカナンを俺は見てきた。


「カナンの気持ち、ちゃんとアマンに言えばいいよ。家族のことに、子どもが口を出しちゃいけないなんて決まりはないだろ。カナンも家族の大事な一人なんだから」


 カナンは驚いた顔をした後、ゆっくり瞬きをした。


「……錬って、時々すごく大人っぽいこと言うわよね。さすが大学生‼」


「時々って何だよ」


「でも…ありがとう。本当に誰かに話したかったの。少しだけ楽になった」


 小さく笑うカナン。その微笑みを見て、錬は嬉しさがこみ上げて来る。


「じゃあ、今日帰ったらアマンに話してみる」


「うん。俺もついていくよ」


「べ、別に……ついてきてほしいなんて言ってないし」


「はいはい、ジョーダンだよ」


 カナンは顔を赤くし、指先で錬の腕を軽く小突いた。

 その仕草に、錬はこっそり笑いをかみ殺した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。