3年後―マネ夫婦
「今日はね、中利様のところへ寄ってきたのよ」
仕事から帰ってきたマネを迎えながら、アンナは弾む声で言った。
軽くキスを交わすと、愛しい妻のお喋りがいつものように止まらなくなる。
「錬は元気にしてたか?」
マネはコートを脱ぎ、靴を揃えながら答えた。
「大学勤務が専属になってからも、教室で顔は合わせるけどな。周りの目がある分、軽い会話くらいしかできない」
「私も錬は、隣の棟の中学部だからあまり会えないけどね。錬の頭脳なら、もう通う必要もないんじゃない?って言ったら笑われちゃったけど」
「アイツ、クラスに好きな子がいるんだぞ」
「ふふ、やっぱり知ってたのね」
「ああ。カナンだろ?」
「それも知ってたのね。意外だったわ。錬って、あんなはきはきした子が好きなのね。あ、そうだわ。中利様、誕生日パーティーを開くんですって」
「誕生日? あの婆さん、今いったい何歳なんだ?」
「秘密だって言ってたわ。今じゃ百歳なんて平均寿命みたいなものだし、臓器も人工に替えられる時代でしょう? 脳まで部分的に人工化できるらしいじゃない。やっぱり、お金持ちは違うわよね。錬と暮らし始めてから、そこも視野に入れてるみたい」
「なるほどな。まあ悪くない話だと思う。錬も、まだまだ甘えたい年齢なんだろう」
「それでね、そのパーティーにソマも呼ぶらしいの」
「‼リンネは来ないのか?」
「“来ない”ってことにして…実は二人を会わせるつもりらしいのよ」
マネは眉を上げた。
「前はあんなにしつこかったのにな。ソマが徹底的に避けてたから、さすがに諦めたのかと思ってたが…」
「私たちが口を挟むことじゃないけれど、一度はちゃんと向き合った方がいいと思うの。あの二人、どこかで時間が止まってしまっているみたいで」
「そうだな。もし会って、少しでもいい方向へ進んでくれればいいんだが」
アンナはマネの腕にそっと寄りかかる。
「本当ね。どんな結果でもいいから、前に進めたら―それで十分よ」
その静かな言葉に、マネも小さく頷いた。




