3年後-ソマ
ソマは、その日もいつものように中利邸へ来ていた。ここへ入る回数は、この頃では週に4,5日。屋敷はすっかり“もうひとつの職場”というより、“延長された家”のように感じられている。
「姉ちゃんさあ、早くここに引っ越して来なよ」
錬が、じれったそうに肩をすくめる。
「私まで厄介になったら悪いわ。それに…私はあなた達を守ってるつもりだったのに、気づけば逆に守られてた。だから、この二年間は一人でいる時間が必要だったのよ」
「じゃあ、そろそろ十分なんじゃない? それで何か変わったのかい?」
口を挟んだのは中利だった。皺の少ない若々しい顔を寄せ、真剣な眼差しで続ける。
「錬が来てから、私は毎日が新鮮でね。子育て―と言っても、ロボット家庭教師のおかげで、あの子は私よりずっと賢いけどね。お前も来てくれたら、私も錬も嬉しいさ。ただ…リンネのことを思うとね」
中利の声が、少し沈んだ。
「リンネは、お前と愛を確かめ合った後、まるで天国を見てきたように幸せそうだった。なのに突然、“もう会わない”なんて言われて…。往生際悪く家に押しかけたり、待ち伏せしたりしてたんだろう? あれからずっと、地獄に片足突っ込んだみたいだったよ。もう終わりにして、リンネと一緒になったらどうだい?」
「リンネ様には、私よりずっと相応しい人がいます」
「またそれかい。二人とも、お互いを求めてるように見えるがね」
そこへ再び錬が割り込んでくる。
「今度のおばあちゃんの誕生日には来るんだよね? 泊まりでさ」
「誕生日? 中利様、嫌がっていたじゃないですか」
「うん。私は元々、誕生日祝いなんてしない主義だった。でも錬に押し切られちまってね。もちろん、ケラス夫婦もマネ夫婦も呼ぶつもりだよ。みんな時々は来てくれるだろう? でも全員が揃う機会はなかなかないからね。…リンネは仕事で来られないらしいけど」
ソマの胸に、重い沈黙が落ちた。
(今さら会えば苦しい。でも…来ないのなら、皆と一緒に過ごしてもいい。錬も喜ぶし、中利様にも恩返ししたい)
「何だい。仕事以外では来たくないのかい?」
「そ、そんなわけじゃ…。あの、中利様っておいくつなんですか?」
今さらながら、若々しいこの老人の年齢を聞いたことがないと気づいた。
「うふふ。内緒だよ」
「おばあちゃん、それじゃあお祝いできないよ!」
錬が困ったように言うと、中利は得意げに胸を張った。
「サプライズさぁ」
その笑顔に、ソマも錬もつられて笑ってしまう。




