第59話リンネー諦めかけた愛だけれど
ソマはいつものように、リンネ邸に入る。
近頃は、フラも少し前に仕事を終えて帰っていて、顔を合わせることはほとんどない。
リンネも仕事のストレスなのか、一日中部屋に籠っていることもあった。前もってそういう時は、テーブルの上にルリ(紙)にメモ書きが残してある。
「あっ、おはようございます」今日は、ソファに座ったリンネと目が合ったので慌てて挨拶をする。
「おはよう」こっちというように、隣の席をポンポンと叩く。
「あっ、はい」すぐに、リンネの隣に座る。
「昨日、アマンの所に寄ったんだよ。そしたら、お前たち何かあったのかいって責めるように言われたんだ」
「⁈」
「つまり、アマンは俺たちが付き合っているとずっと思っていたみたいなんだ。すぐに誤解を解いたんだけどね」
「…」
「彼は…ダンだったね。彼と何かあったのかい?ソマの様子が変だって言うんだ」
「ダンと大喧嘩をして別れたの」くぐもった声でソマは答える。
「えっ、本当かい。また、何で? この間まで、楽しそうにデートのことを話してくれていたじゃないか」そう。ソマが来る日はお互いの話だとかボードゲームをしたりとか、キムロ(空間に浮かぶ進化版テレビ)を一緒に見たりとか、散歩や買い物に一緒に出かけるのがソマの仕事になっていた。
「ダンは、お金持ちになる野望を持っているの。最近、高収入の副業をみつけたって喜んでいたわ。その初仕事がオフィスの面接に使う家具の搬入だったって。近くにあるからって、案内してくれたの」
「まあ、若いうちはそういう野望もいいんじゃないか」
「でも、そこはアンナが前に勤めていたところだったの」
「もしかして、ロボット虐待の場所⁈」
「ええ。なんだか私、気分が悪くなって。その時のことをダンに話したのよ」
「ダンは、何ていったの? あれから、デジャンが徹底的に探したんだけど、何も彼らのことはわからないんだ。あの家が、また使われるなんて…まさか同じ人物とは限らないだろうが、再度デジャンに調べさせた方が良さそうだな」
「ダンは『家族同然っていっても、所詮ロボットなんだろ⁈ リセットしたら全て削除できるんだしさ。そんなに、深く考えることもないだろうって…』酷い、言い方をしたわ」
「…まあ、人間にとっては、そういうものなんだろうな」
「そんなことない‼ 今では、人間の外観、人間の感情、人間の心。これほどまでに近くなっているのに…削除したら、終わりだなんて。そんなことは、決してないわよ‼ ダンって、冷たいんだなあって思ったら、今までこの人のことを全て理解したいと思っていたのに、急に嫌になって…」
「時間をおいたら、そんなことどうでもよくなるさ」
「どうして、あなたはそんな冷たいことを言うの⁈ ロボットのことを酷く言われたのよ‼」
「それが、事実だからだよ」
「…」
分からないといった感じにソマは、目を見開き首を振る。
「今日は、好きなことをしてていいから。終業三十分前に降りて来るからやったことを聞かせて」そういいながら、リンネは部屋に戻ろうとする。
「な、慰めてくれないの⁈」わ、私ったら、なんて都合のいいことを…
「君は、ロボットを理解していると言っても、いつも都合よく利用しているだけじゃないのか⁈」
「そ、そんなこと…ない」彼の言うことは、もっともだった。
「俺は、人間の男に模して造られている、最新型のロボットなんだよ。いつも、君に尽くすだけの王子様ではいられない。自分の感情だって、あるんだよ」
「わかっているわよ。傍に一緒にいてくれるだけでいいの」
「君は、人間を選んだ。そして、ちょっと上手くいかない時期があったからって、俺に慰めてって。都合が良すぎないか? 僕にだって、キスをすることや性的な行為をする機能も備わっているんだよ」
「…だって、今まで優しかったじゃない」指摘されたことが、図星だったことにソマはそんなことしか言えない。
「ダンときっぱり別れて、僕と付き合うって言うなら話は別だけどね」珍しく感情的に言い捨てて、リンネは部屋へと戻っていった。




