第57話 家族の心配
俺たちは帰り道、面接であった出来事を思い出しながら、あれこれと話していた。
そんな時だった。前を歩いていたナタクとニールが、突然立ち止まった。
「お、おい、あれ……」ナタクが言葉を詰まらせる。
「間違いない……何でここに来たんだ⁉」ニールの声が震える。
すぐ後ろを歩いていたジャラが、眉をひそめて言った。
「おい、急に立ち止まるなよ。ぶつかるだろうが」
サンドも前方を見て、目を丸くした。
「……あれって、俺たちの連れじゃないか?」
「ああ、間違いない」ニコラが頷く。
「なんだって、ここが分かったんだよ……」ジャラがぽつりと呟いた。
その間にも、前方の“彼女たち”がこちらに気づいたらしく、足早に近づいてくる。
「お、おい……どうするよ⁉」ナタクが焦る。
「ど、どうするって……逃げるわけにもいかないだろうが」サンドが言い返す。
「しゃーない。当たって砕けろだな」ニコラが笑った。
そわそわと落ち着かない男たちに対して、女連中は堂々と歩いてくる。
距離が詰まったところで、最初に声をかけてきたのは、色白でぽっちゃりしたアンだった。
「やっぱり、ここだったのね」
アンは、まっすぐニコラを見据える。
続いて、サンドの妻ネイカが言った。
「最近、みんなの様子がおかしいって思ってたのよ」
「この“ルリ”(紙のような情報媒体)、いたる所で配られてるでしょ? 家にもあったからさ」キッタが言葉を継ぐ。
「今日の日付だから、もしかしてここに行ってるんじゃないかって。だから皆で来てみようってことになったの」
女たちに一方的にまくし立てられ、男たちは言葉を失っていた。
重苦しい空気を振り払うように、ジャラが口を開く。
「……俺たち、家にいても邪魔なだけだろ?」
「何よ、それ。自分たちで勝手に決めないでよ」キッタが睨む。
「お前たちに、お金を残していけたらって……」
「だからって、戻って来れなかったらどうするの⁉」キンエの声が怒り混じりになる。
「皆で相談したんだよ。それでも、こんな“ごく潰し共”が一緒にいるよりは、生活が楽になるんじゃないかってな」
「バカじゃないの? あんたたちがいなくなって、お金が増えたってちっとも嬉しくないわよ」アンが吐き捨てる。
「……まあ、もちろん、お金は欲しいけど」ネイカがぽつりと言う。
「だろ?」男たちが苦笑いする。
「でもね、みんなでワイワイ暮らしてるの、案外楽しいのよ。前の暮らしは、贅沢だったけれどほとんど仕事どっぷりだったじゃない」キンエがにっこり笑った。
他の女たちも、うなづく。
「いつも“働け”だの“金がない”だの言ってるくせに……」ジャラが呆れる。
「そうだよ。俺たちが、お前たちにやれる最後のことかもしれないと思ってたんだ」
「でも、上手い話すぎない? 騙されてたらどうするのよ」アンが警戒するように言う。
男たちは顔を見合わせた。
「……結局は、うまい話だったんだよ」
ジャラがため息混じりに言い、これまでの経緯を簡単に説明した。
話を聞いていたキッタが口を挟む。
「似た人って……お父さんは心当たりなかったの?」
「……相手には“ある”って言われたけどな。俺の方は、思い当たらなかったよ」
ジャラは、本当のこと――義理の息子のランティ、つまり娘の夫のことをキッタには言えなかった。
「でも、その人が話してくれたおかげで、皆が一生後悔しなくてすんだのよね」キッタの言葉に、皆が頷いた。
「だけど、面接に来た他の人たちは騙されて、借金背負わされて送り出されるんでしょ⁈」ネイカが眉をひそめる。
「酷いよね……」と、キンエ。
「面と向かっては言えなかったけど、サンドがいなくなるなんて考えたこともなかった」ネイカが静かに呟く。
「そうだよ。だから、みんなで探しに来たんだ」キンエが微笑む。
「ごく潰しでも、いないよりはマシだよ。それに、今まで私たちのために頑張ってきてくれたじゃない。人生で、たった一度つまつまずいただけで全部を失う必要なんてないんだよ」アンが優しく言った。
「そうそう」キッタ。
「うん、そうだよ」キンエ。
「……ああ、そんなところに行かなくて本当によかった」ネイカが心からの安堵をにじませた。
その言葉は、男たちの心を和ませる。
(いいなあ。みんな、心配してくれる人がいて)独り身のナタクは、羨まし気に皆を見ていた。




