第53話 ドウラ
女に案内された部屋は、今までの簡素な部屋に比べて応接室のような風格があった。座り心地の良さそうなソファーに、ドウラは座っていた。
(ここの部屋は、少しは金を掛けているようだな。とはいえ、一昔前の俺の会社に比べればお粗末だが…)
「ドウラ様、お連れしました」
「ああ、ありがとう。ジャラさんだったね。わざわざ呼び出して申し訳ないね」
「あ、いえ。私に何か、気になることがありましたか?」
「まあ、とりあえずは座りたまえ」と、テーブルを挟んだ向かいのソファーを手で示す。
「あっ、はい」俺は久しぶりにかしこまりながら座る。
(ソファーに座るだなんて、何年ぶりなんだ)目の前の男の顔をしげしげとみる。
「あなたは、どうしてここに来たのですか?」ドウラは、面接の時の口調と変わらず話しかけた。
「あっ、はい。先程、面接の時にも言ったのですが暮らしの足しになればと思いまして」
「確か、ご家族3人でお住まいでしたよね。あなたが家を空ければ、娘さんとお孫さんは寂しい思いをするのではないですか?」
「はい。その通りですが、家にいてもごく潰しで生活費を少しも払えません」
「まあ、そうですね。ここに来る連中は、皆そうでしょうから」
「‥‥」
「私共のシステムは最初の1年分は前渡しです。そして、泊まる所も食費も無料です。これだけみれば美味しい話ですよね。ですが2年目からは、全部有料になっていきます。大概の人は前払い金の大金を目の前にして、家族に渡したりしてほとんど使ってしまいます。そして2年目からの支払いは、自分の月々の給料からの支払いとなります。体調が悪かったり長期の病気になって働けなくなったりしても、サインをした以上10年間はすぐには出て行けないのです。
そして、払えなかった賃料や光熱費等は貸付になります。その貸付金には、高額な利子がつきます。
そこまで言えばおおよそ見当がつくと思いますが、儲けるどころか借金だらけになりますよ。そして、一生あそこからは出れません」
「‼ど、どうしてこんなことを‥」
「あなたは、私の知っている方にとても似ているのですよ。だから、ついつい喋りすぎるのでしょう」
その時ノックの音と共に、先ほどの女が入って来た。手にはケルトに『旧オボン』飲み物や食べ物などが乗っていた。
「失礼します」といい、女はそれらのものをテーブルに置いて出て行った。
「好きなだけ食べて飲んで下さい」
「どうしてこんな‥私に‥」うまく言葉にならなかったが、これらのものは上級エリアでしか出てこない贅沢品だ。
「似ているって、誰にですか?」先ほどの話を思い出して、口にする。
「昔の話ですけどね」




