カナンの家族
「行ってきまーす」カナンは、朝いつものように元気よく挨拶をして玄関先から出ていく。
「行ってらっしゃい。忘れ物はない?」とアマン。
「うん、ないよ」
「行っておいで」とルウジャン(おじいちゃん)
「うん、行ってくるね」玄関を出て、近くを歩いていた同級生達と楽しそうにお喋りをしながら登校する。
「最近、あの大人びた嫌味が出てこなくなったな」
「そうなの。クラスメートに髪を切られて以来、カナンも反省したみたい」
「ほう、大人になったの」
「アンナっていう新しい先生が、カナンのためにいじめっ子を懲らしめてくれたらしいのよ」
「そうか。それはありがたい。アンナって⁈ なんだか懐かしい名前だなあ」
「私も‥もしかしてって思ったけれど、ショートネームのアンナらしいの。勘違いね」
「そうか。引っ越し時はドタバタしてて、いなくなったことさえ気づいてやれなかったな。後から差し押さえの家具と一緒に、業者がアンナを連れて行ったことがわかったんだが‥」
「あれから、どんなに探しても見つからなかったのよね。家族同然に住んでいたのに‥今頃どうしているのかしら?」
「ああ、でも我々はこんな暮らしぶりなんだ。見つかったところで、もとのような豪勢な暮らしは望めない。給料だって払ってやれないんだ。きっと、どこかで幸せに暮らしているだろう」
「きっと、そうね」そう思わなきゃやってられなかった。
「じゃあ、私もそろそろ出かけるかな」
「ドウジャンもいい加減、ここの暮らしに慣れてくださいな」
「ああ、わかっているよ」
「畑でも、手伝ってくれたら助かるんですが‥」
「わかったよ。その内手伝うから‥」何度、その言葉を聞いたことか。
(何度、その言葉きいたことか‥ハア)
「まったく、もう」
上流エリアから、この下級エリアへ慌ただしく逃げてきたように‥今までがあたりまえのような贅沢三昧な暮らしが嘘のような暮らしとなった。それでも下級エリアが整備されてからは、屋根がある家に住めて畑からは獲れたての野菜が取れる。ありがたいことだ。
上層エリアから、一番下層のエリアに来てプライドもずたずたなのは十分わかる。それでも、もう何年も経っているというのに‥。
こそこそと、うざったいものから逃げるように玄関を急いで出て行くドウジャンの姿を見ながらキッタは、また溜め息が出ていた。




