マツリ
リンネは買い物ができる『マツリ』を案内してくれると言うので二人は、玄関から出る。そこには前もって呼んでおいた、ケージャ(旧自動車)が止められていた。
「ここのエリア民は、好きな時にケージャを呼ぶことが出来るんだ。使い終わったら、勝手に自動で集積所に戻って燃料補給を行い待機している」
「さあ、乗って」カボチャ型の球体の二人乗りのケージャで整備された床を少し浮上しながらゆっくり進んでいく。
「前にデジャンには乗ったけど、これには、初めて乗ります」ワクワクしながら、住居をゆっくりと追い越しながら進んでいく。
「便利ですね。でも、歩いたりはしないんですか⁈ 」
「ああ、だいたいが人間の家にはジムがあるから。ロボットは、運動しなくても特に問題はないしね。あっ、ここがフラの家だよ」
途中、気が付いたように教えてくれた家は、リンネの家と大差ないぐらいの豪華な家だった。
「すごいですね。本当に、メイドは趣味の一つなんですね。ジム? そういえば、中級エリアにも買い物が出来る場所があるのですか?」
「あそこは、だいたいがここのエリア内で作って注文配達をしているんだよ。ジムというのは、人間が身体を鍛える手段の一つとして昔からあるものなんだ」
「そうだったんですね」
「あっ、『マツリ』が見えて来たよ」
「わあ、大きい!!」ケージャに乗って10分位経った頃、大きな建物が見えていた。
そして、その建物に多彩な色で描かれている動物や魚。
「この建物には、色々な絵が描かれているのね」
「ああ、昔の本に載っている写真を元に忠実に描かれているんだ。面白いだろう⁈」
「ええ、画家のセンスもありますね。生き生きと描かれているもの」
「そうだろう。この画家は、学校の壁画も描いているらしいよ。この中の1階は買い物が出来るスペースがあって肉や魚、野菜など『小麦粉に砂糖を混ぜ蒸しあげた和菓子に肉や魚、野菜などの栄養素を混ぜ合わせた羊羹のようなものや、円形状のもの・もちろん、皆ー材料は人工的に作られたものだ』が並べられている。2、3階はそれらを作る研究所スペースになっていて、関係者以外は立ち入り禁止なんだ」
「私たちエリアでは、ほとんど裏の畑で摂れたものを食べています。野菜のみですけどね」
「ああ、そうだったね。あのエリアだけは、昔ながらに土で作っているんだよね。でも、ここでは人工的に作られたものがほとんどなんだよ。栄養素は、ほぼそのものを忠実に再現しているんだ」
「でも昔の本を見ると、今の野菜がすごく小さくて貧弱なの。昔の人や自然がうらやましい。普通に動物を見ることができる時代が‥」
「その分、俺たちのようなロボットがいない時代なんだろう」
「あっ、ごめんなさい」
「いや、気にしないで。何事もいい面と悪い面があるものさ。アマンの口ぐせだろ?」
「うふっ、そうだわ」中利様の穏やかな顔が思い浮かんでいた。
扉はないが『マツリ』と書かれた入口から入ると2、30人のロボットや人間が買い物に来ていた。慣れたようにリンネは、自動カートのボタンを押して店内を回る。
(これが、上流エリアの人々なのね)リンネ様以外の人にいささか緊張しながら、辺りを見回していた。みな清潔で、下流エリアのような薄汚れた格好の者は一人としていなかった。大きな声を出したり、走り回る子供もいない。各々のブースに置かれているコンパニオンロボットの案内で各々の商品を見ていた。
「これは、肉なのね」ほぼ、四角い棒状のものだったり、円形のものに、豚とか牛とか書かれていた。豚の動物型コンパニオンロボットが持っている容器に一口大の試食品が入っていた」
「どうぞ、試食してってね。美味しいよ」と通る人間みんなに声を掛けていた。
「ソマ、これ食べてごらん」と、リンネは豚のコンパニオンの容器から、白い小さな塊の試食を取り口元に持ってくる。
口を開けると、それは少し野菜とは違った食感があった。
「おいしい。これが、肉なの⁈」初めて食べる『肉』の味に、驚きが隠せなかった。
「お嬢さん、気に入ったら買っていってね」
「これ、買っていく?」
「あっ、お金もっていないもの。いいです」リンネのさりげない声掛けに答える。
「じゃあ。アマン用に買うから、手伝って」
「あっ、はい」
「これは、どう?」そう言いながら、リンネは試食品をコンパニオンから貰ってはソマの口元に持ってくる。
肉、魚、豆製品と何ヵ所も回った。試食品も美味しかったが、ブースごとのコンパニオンの姿も楽しめた。
「おいしい。リンネ様。もう、私のお腹ふくれました。どれも、美味しくて‥」
「そう、よかった。じゃあ。アマンに買っていくから、そこで待っていて」といい、商品がカゴいっぱいに入った自動カートと共に奥の方へ行ってしまった。
(どうしようかしら。一人になって急に不安になって来たわ)




