あそびのじかんは… 第3話 踊る昼行灯
09時48分。
仁礼温泉での送信を終えた戸隠は、エクストレインを走らせた。
次の送信地点は、須坂センサ。
ただし――。
今回は「近く」ではない。
真下である。
◇
9時58分。
送信開始。
須坂市村山のDailyママサキ駐車場。
DEURAS-M6の画面が、ただちに反応した。
「来ました!」
加茂が画面を見る。
「長野北センサ、受信!」
「南長野センサも受信しています。そして、M6も東側を指しています。」
名立が3つの方位線を確認する。
「3つとも……須坂センサを指しています」
画面上では、長野北センサと南長野センサから伸びた二本の方位線が、ほぼ同じ場所へ向かっていた。
その先にあるのは――須坂センサ。
「これは……」
松本主任が地図を見つめる。
「発射源が須坂センサの方向にいる」
「はい」
「須坂センサ自身は?」
加茂が確認する。
「受信しています」
「方位は?」
「……安定しません」
「安定しない?」
「はい」
画面に表示された須坂センサの方位線が、一定の方向を示さない。
少し振れたかと思えば、別の方向へ。
また戻り、さらに別の方向へ。
「ウロウロしてますね」
名立が思わず呟いた。
「発射源が近すぎるんだろう」
松本が答えた。
そして受信レベルを確認する。
「レベルは?」
「96です」
「96……」
松本が眉を上げた。
これだけ強い。
それなのに、須坂センサ自身には発射源の方向が定まらない。
対して、遠くにある長野北センサと南長野センサは、揃って須坂センサを指している。
「面白いことをするな、戸隠」
松本が苦笑した。
◇
同じ頃。
イヲンモール須坂屋上駐車場にいるセレーナ。
「長野北センサ、須坂センサ方向」
近江がモバイルDEURAS監視端末を確認する。
「南長野センサも同じです」
中山主任が画面を覗き込む。
「須坂センサは?」
「受信レベル96」
島見が答えた。
「ただ、方位線が……」
画面を見る。
須坂センサから伸びる線が、落ち着かない。
「……あっちへ行ったり、こっちへ行ったり」
「発射源がセンサに近すぎるところにいるのか…」
中山が言った。
「だから須坂センサからは、正確な方位が取れない」
島見は二本の方位線を見る。
「でも、長野北と南長野は須坂センサを指している」
「そういうことだ」
中山は腕を組んだ。
「問題は――須坂センサ付近のどこにいるのか。そして、何処へ行くかだ」
◇
エクストレインの車内。
戸隠は送信を終え、無線機を確認した。
「よし」
受信レベルは十分。
戸隠は時計を見る。
「次は小布施」
エクストレインを発進させる。
須坂センサの真下から離れていく。
「追いつけるかなぁ」
戸隠は、独り言のように呟いた。
その顔には、いつもの昼行灯の笑みが浮かんでいた。
◇
10時07分。
小布施町。
高速道路のカルバートの中。
エクストレインは、その薄暗い空間に入っていた。
戸隠は車を止める。
周囲を確認してから、無線機の送信ボタンを押した。
「……送信」
再び151.89MHzの電波が空間へ放たれる。
◇
同じ頃。
エDEURAS-M6が反応した。
「……来ました」
加茂が画面を見る。
「長野北センサ――受信」
「南長野は?」
「……反応なし」
松本が眉を寄せる。
「須坂センサは?」
「受信しています」
「長野北の方位は?」
「南東方向です」
「須坂は?」
「北西方向」
「M6は安定しませんが北側です」
名立が画面を見つめる。
3本の方位線が、それぞれ違う方向に伸びている。
そして――。
「……交わります」
加茂が画面を拡大した。
「須坂警察署付近です」
「須坂警察署……」
松本が地図を見つめる。
「ただ、ここだと断定はできない」
「方位測定の誤差ですか?」
「そうだ」
松本は頷いた。
「長野北と須坂。そしてM6、それぞれの方位に誤差がある。二本の線が交差した場所が、そのまま発射源とは限らん」
「じゃあ、須坂警察署付近を候補として見る?」
「そうだな」
松本は画面から目を離さない。
「だが、決めつけるな」
◇
セレーナでも、同じ表示が出ていた。
「長野北、南東方向」
近江が読み上げる。
「須坂、北西方向」
島見が続ける。
モバイルDEURAS監視端末には、二本の方位線が表示されている。
その交点。
「……須坂警察署付近ですね」
中山が頷く。
「ただし、誤差を考えれば、そこにいるとは限らない」
「南長野は?」
「反応なしです」
「原因は?」
「分かりません」
島見が答える。
「電波が届かない場所にいるのか……それとも、何かに遮られているのか」
「あるいは、どこかに隠れている可能性もあるな」
中山は地図を見た。
情報が一つ足りない。
その一つが、発射源の位置を決めるうえで大きな意味を持つ。
「ともかく、須坂警察署付近を一つの候補として追う」
中山が言った。
「戸隠さんが、そこにいるとは限らん」
◇
その頃。
小布施町のカルバート。
戸隠は送信を終えた。
「よし」
時計を見る。
まだ時間はある。
エクストレインを再び走らせる準備をする。
追跡班が見ているのは、須坂警察署付近を指す二本の方位線。
だが――。
戸隠がいるのは、そこではない。
その事実を、追跡班はまだ知らなかった。




