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あそびのじかんは… 第1話「三十分先の電波」

「では、今回の訓練について説明する」

長野総合通信局・電波監視課。

新津課長がホワイトボードの前に立っていた。

その横には、今回使用する二台の車両の写真が貼られている。

一台は、オッサン自動車のミニバン――エレファント。これにDEURASシステムの指揮権とセンサ機能を持つDEURAS-M6として改造されている。

もう一台は、同じくオッサン自動車のミニバン――セレーナ。

「DEURAS-M6から、長野北、南長野、須坂の三センサと接続して、それぞれのセンサが測定した方位を地図上に表示する。ただし、AI判定は使用不可とする。」

「はい」

「GPSで自車位置も表示するから、センサの方位と自分たちの位置関係を見ながら追尾することになる」

新津はセレーナの写真を指した。

「こちらは中山主任の班。車載の方向探知機を使う」

「方向探知機は?」

島見が確認する。

「電波がどの方向から来ているか、360度の方位を測定するだけだ」

中山が答えた。

「つまり、自分たちの位置と方向探知機の結果を頭の中で組み合わせる必要がある」

「なるほど……」

島見が頷く。

そして新津は最後に、戸隠を見る。

「そして、逃げる側は戸隠」

「はい」

「使用周波数は151.89MHz。総務省の実験・試験局として免許された正規の電波を使用する」

「了解です」

「戸隠には30分の先行時間を与える」

その言葉に、名立が戸隠を見る。

「30分も?」

「そうだ」

「結構ありますね」

「だから訓練になる」

新津は淡々と続けた。

「戸隠は30分の間に、自由に移動していい」

「自由に?」

「ただし、訓練区域内に限る」

「それ以外の条件は?」

「送信は前回送信時間から10分以内」

「10分以内……」

「探査班は、その送信を手掛かりに追尾する」

松本が資料を見る。

「最初の送信地点は?」

新津は少し間を置いた。

「知らされない」

「……え?」

「戸隠がどこから最初に送信するか、探査班には教えない」

中山が笑った。

「それは本当に追跡訓練ですね」

「次の地点も?」

「知らない」

「その次も?」

「もちろん知らない」

名立が戸隠を見る。

「じゃあ、俺たちは戸隠さんがどこへ行くか、全く分からない状態で追いかけるんですね」

「そういうことだ」

「戸隠さん」

「はい?」

「どこへ行くんです?」

「さあ」

「絶対知ってますよね?」

「逃げる側だからな」

戸隠は涼しい顔で答えた。

島見が小さくため息をつく。

「……嫌な予感しかしない」

「大丈夫だ」

戸隠が言った。

「ちゃんと電波は出す」

「そこじゃないです!」

課内に笑いが起きた。

◇


午前九時。

戸隠はエクストレインのエンジンをかけた。

「それじゃ、行ってきます」

「三十分後には追いますからね!」

島見が声をかける。

「はいはい」

戸隠は軽く手を振ると、そのまま走り去った。

探査班には、戸隠の行き先は知らされていない。

三十分後に電波を出す。

五分ごとに送信する。

二時間以内に発見し、スペクトラムアナライザで70dBμV以上の波形を確認して、車の写真を撮る。

それだけが今回のルールだった。

◇

午前九時二十五分。

戸隠は屋島橋付近まで来ていた。

エクストレインを橋の下へ入れる。

「ここから始めるか」

時計を見る。

まだ五分ある。

戸隠は車を止め、送信設備を確認した。

今回の電波は正規の実験・試験局。

訓練のために堂々と電波を出す。

隠れる必要もない。

ただし――。

「追いつかれなければいい」

戸隠はニヤリと笑った。

◇

午前九時三十分。

長野総合通信局。

「時間です」

松本主任が時計を見る。

「追尾開始!」

その瞬間。

151.89MHzの信号が現れた。

「出ました!」

DEURAS-M6に測定結果が表示される。

長野北。

南長野。

須坂。

三つのセンサがそれぞれ方位を出す。

しかし――。

「……ん?」

松本が画面を見つめた。

三本の方位線が、きれいには交わらない。

「どういうことだ?」

加茂が地図を確認する。

「長野北が北東寄り」

「南長野は?」

「東寄り……ですが、ちょっと振れてます」

「須坂は?」

「南西寄りです」

名立が眉をひそめる。

「これ、交点が出ませんね」

松本が画面を拡大する。

「屋島橋付近を指しているようにも見えるが……」

しかし、方位線は微妙にずれていた。

「電波伝搬の影響か?」

「可能性あります」

加茂が答える。

そのとき、セレーナから連絡が入った。

「こちら中山」

「どうぞ」

「方向探知機では、はっきりした方位が取れません」

「そちらもか」

「ただ、今のところ東寄りには見えています」

松本は地図を見た。

「……分かった。いったん二手に分かれる」

「二手?」

「大豆島方面と柳原方面だ」

名立が驚く。

「そんなに開きます?」

「このまま一方向に走って外したら、時間を食う」

松本が決断する。

「M6は大豆島方面」

「了解」

「セレーナは柳原方面を当たってくれ」

「了解です」

二台の車が分かれて走り出す。

◇

その頃。

屋島橋の下。

戸隠は送信を止めた。

「……さて」

時計を見る。

午前九時三十五分。

五分経った。

「そろそろ来るかな」

エクストレインを発進させる。

屋島橋を離れ、次の地点へ向かう。

探査班はまだ知らない。

自分たちが追っている電波が、たった今まで屋島橋の下から出ていたことを。

そして次の送信地点も――。

戸隠は、すでに決めていた。

「次は、見通しのいいところにするか」

エクストレインは須坂方面へ向かった。

一方、大豆島方面へ向かうエレファント。

そして柳原方面へ向かうセレーナ。

追跡開始からわずか五分。

探査班はすでに二手に分かれていた。

そして戸隠は、そのことを知らない。

知らないまま、次の送信地点へ向かっていた。

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