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有閑閑話 電波監視課、火曜日の朝

十月十三日、火曜日。


三連休が明け、長野総合通信局にもいつもの平日の朝が戻っていた。


電波監視課では、職員たちがそれぞれの席につき、パソコンを立ち上げていく。


「おはようございます」


「おはようございます」


いつもの挨拶が交わされる。


杏果も席につき、パソコンを起動した。


すると、名立が何気なく声をかけてきた。


「島見さん、そういえば金曜日のドラマ、見ました?」


「あ、『はむぶ』ですか?」


「そう、それです」


「見ましたよ」


杏果は笑った。


「長野で一人で見てました」


「へえ。島見さんも見たんですね」


近江も会話に入ってくる。


「結構話題になってましたよね」


「そうですね」


杏果はスマートフォンを取り出した。


「私はテレビで見てたんですけど、放送中ずっとスマホが鳴ってて」


「スマホが?」


「はい」


「何で?」


「桜たちが見ながらLIMEしてきたんですよ」


「桜ちゃん?」


名立が首を傾げる。


「妹さんですよね」


「そうです」


「一緒に見てたんですか?」


「はい」


杏果は何気なく答えた。


「ホテルTukiで、部員のみんなと」


「……ホテルTuki?」


名立が目を丸くする。


「みんなで?」


「そうです」


近江も驚いた顔をする。


「えっ、部活のみんなでホテルでドラマ鑑賞?」


「みたいですね」


杏果は苦笑した。


「私は行ってないので、詳しくは知りませんけど」


「じゃあ、島見さんだけ長野で?」


「はい」


「妹さんたちは新潟のホテルで?」


「はい」


「なるほど……」


名立が妙に納得した顔になる。


その会話を聞いていた戸隠が、隣の席から口を挟んだ。


「ずいぶん本格的ですね」


「でしょう?」


杏果がスマートフォンの画面を見せる。


そこには、放送時間中に次々と届いたLIMEのメッセージが並んでいた。


「こんな感じで、放送中ずっと騒いでました」


「楽しそうだなあ」


近江が笑う。


「ホテルTukiまで借りて、みんなで見てたのか」


「そうみたいです」


杏果も笑った。


「私にはリアルタイムで送ってくるんですけどね」


「それはそれで、かなり賑やかですね」


戸隠が言う。


「一人でテレビを見てるのに、スマホだけ大騒ぎ」


「そうなんですよ」


杏果は頷いた。


「テレビよりスマホの通知のほうが気になったくらい」


「それじゃ一人で見た意味が……」


「ありますよ」


杏果が即答する。


「ちゃんと最後まで見ましたから」


「そうですか」


戸隠は笑った。


そこへ新津課長がやってきた。


「朝から何の話だ?」


「金曜日の『はむぶ』です」


杏果が答える。


「ああ、あれか」


新津は頷いた。


「見たのか?」


「はい」


「私も見た」


「課長もですか」


「金曜の夜だからな」


新津は当然のように答える。


「それで、何がそんなに面白い?」


名立が説明する。


「島見さんの妹さんたち、ホテルTukiで部員全員で見てたらしいですよ」


「……ホテル?」


新津が杏果を見る。


「はい」


「そんな話、聞いてないぞ」


「私も事後報告です…といいますか、課長は私の父ですか!」


杏果は笑う。


「私は長野で一人で見てましたし」


「なるほど」


新津は少し考えてから、


「つまり、島見は単独視聴」


「はい」


「妹さんたちは集団視聴」


「はい」


「で、LIMEで中継してきた、と」


「そんな感じです」


新津は腕を組んだ。


「……妙に現代的だな」


「そうですね」


杏果が笑った。


電波監視課の朝は、そんな他愛のない話から始まった。


そして各自が仕事へ戻っていく。


金曜日の夜に放送された一本のドラマは、長野と新潟を少しだけつないでいた。

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