有閑閑話 OGも『はむぶ』を見る
十月九日、夜。
長野。
島見杏果は、自宅のテレビの前にいた。
今日は、越後放送開局75周年記念スペシャルドラマ『はむぶ』の放送日。
新潟中央女子学園の「はむぶ!」をモデルにしたドラマということで、杏果も放送を楽しみにしていた。
とはいえ――。
「私は長野だからねえ」
杏果はテレビのリモコンを手に取る。
桜たちは今頃、ホテルTukiのコネクションルームに集まっているはずだった。
大きなモニターを囲んで、みんなで見るらしい。
「まあ、私はこっちで見るか」
テレビの前に座る。
やがて放送開始。
杏果が画面を見始めて間もなく――。
ピコン。
スマートフォンが鳴った。
グループLIME。
『はむぶ!』
桜からだった。
『始まった!』
続いて、
『華:始まったー!』
『真宵:間に合った』
『澄香:みんな飲み物ある?』
『桜:あるよー!』
杏果は思わず笑う。
「そこから?」
ピコン。
『華:画面おっきい!』
『桜:すごい見やすい!』
『真宵:ホテルTuki取って正解だったね』
『澄香:でしょ』
杏果はスマートフォンを伏せ、テレビを見る。
ところが――。
また鳴る。
ピコン。
『桜:お姉ちゃん見てる?』
杏果は返信する。
『杏果:見てるよ』
すぐに、
『桜:よかった!』
『華:杏果先輩も一緒に実況しよう』
「いや、長野なんだけど」
思わず独り言が出る。
杏果は少し考えてから、
『杏果:そっちはみんなで見てるんでしょ?』
と送った。
『桜:うん!』
『桜:みんなで見てる!』
その直後、
『華:杏果先輩もいる!』
『真宵:OG参加』
『澄香:リモートOGですね』
杏果は苦笑する。
「リモートって……」
テレビを見る。
スマートフォンを見る。
またテレビを見る。
すると、ホテルTuki側から次々とメッセージが入ってくる。
『桜:今のところ好き』
『華:わかる』
『真宵:静かに見なさい』
『華:真宵が言う?』
『桜:華ちゃんうるさい』
『華:桜に言われた!』
杏果は吹き出した。
「何やってんのよ、あの子たち」
一人でテレビを見ている杏果の部屋に、笑い声が漏れる。
しばらくして、また通知。
『桜:お姉ちゃん、どう?』
杏果はテレビ画面を見ながら返信する。
『杏果:懐かしい感じはするね』
『桜:やっぱり?』
『華:OGの感想きた』
『真宵:貴重な意見』
『澄香:後で聞き取り調査します』
「なんで調査なのよ」
杏果は笑いながらスマートフォンを置いた。
その後も、放送中はホテルTukiから断続的にLIMEが届いた。
誰かが笑った。
誰かが驚いた。
誰かがツッコんだ。
そして、そのたびにグループLIMEが騒がしくなる。
杏果はテレビを見ながら、ときどきそのメッセージを眺める。
やがて番組が終わる。
杏果はリモコンを置いた。
すると、待っていたかのように――。
ピコン、ピコン、ピコン。
一気に通知が入った。
『桜:終わったー!』
『華:面白かった!』
『真宵:お疲れ様でした』
『澄香:みんな、どうだった?』
そして、
『桜:お姉ちゃんは?』
杏果は少し考える。
『杏果:面白かったよ』
続けて、
『杏果:こういう形で後輩が自分たちの活動を楽しんでるのを見るのも、なんかいいね』
桜からすぐに返事が来た。
『桜:うん!』
その後ろに、華。
『華:今日は楽しかった!』
真宵。
『真宵:文化祭も頑張らないとね』
澄香。
『澄香:そういうこと』
杏果は画面を見て笑った。
「……相変わらず元気だなあ」
長野の自宅では、杏果一人。
一方、新潟では桜たちがホテルTukiで、まだ盛り上がっている。
杏果はしばらくそのLIMEを眺めていた。
そしてスマートフォンをテーブルに置く。
「さて……私も寝るか」
そう言った直後。
ピコン。
また通知。
杏果が画面を見る。
『華:ところで文化祭なんだけど』
「……まだやるの?」
杏果は苦笑した。
ホテルTukiの夜は、まだ終わりそうになかった。




