鉄路の上の正義と悪意 第7話 30分の宣言
15時40分過ぎ。
長野総合通信局電波監視室。
戸隠弘明は、先ほどまでの情報を整理していた。
濁川。
かつて越後機械の鉄道システム部に所属し、その後、目立グループ傘下のME輸送システムで新交通システムの構想にも参加していた技術者。
そして、その時の上司が現在の目立通信新潟支社長、花園。
その濁川が、今回の発射推定範囲内に住んでいる。
あまりにも符合する情報が多い。
「……とはいえ」
戸隠が呟く。
「まだ、本人が発射したとは限らない」
その瞬間だった。
「戸隠さん!」
島見杏果の声が飛んだ。
監視画面が変化した。
「またです!」
415MHz帯。
電波が出現した。
「松本さんへ!」
「はい!」
島見が現地班へ連絡する。
ほぼ同時に、電波監視室のスピーカーから音声が流れ始めた。
『ぴーなつん――』
先ほどと同じ声。
だが、続く内容はまったく違った。
東新潟高速鉄道山の下駅に爆弾を仕掛けた。
30分後に爆破する。
そんな犯行声明だった。
室内の空気が一瞬で変わった。
「……爆破予告」
加茂が呟く。
「松本さんに伝えて!」
「もう伝えています!」
島見が答える。
戸隠は画面を見た。
「発射源を出します」
DEURASの四センサによる測定結果が表示される。
さらに現地のDEURAS-M6から送られてくる測定結果が加わった。
「……絞れた」
戸隠が言った。
「大山五丁目付近です」
それまで「推定範囲」に過ぎなかったものが、急速に一点へ近づいていく。
「松本さんへ!」
島見が再び連絡する。
「DEURAS-M6の測定結果を含めると、大山五丁目付近まで絞り込めます!」
『了解!』
現地から松本の声が返る。
『名立、どうだ?』
『こちらも大山五丁目方向を示しています!』
戸隠は地図を見た。
そこには、先ほど名前が出た濁川の住所がある。
「……濁川さんの自宅周辺です」
戸隠が言った。
「ほぼ間違いないですね」
島見が息を呑む。
「警察へ連絡を」
「はい」
◇
新潟東警察署。
東新潟高速鉄道からの通報を受け、警察も動き始めていた。
長野総合通信局から伝えられた情報。
そして、現地でのDEURAS-M6による測定。
発射源が大山五丁目付近まで絞り込まれたこと。
警察官は慎重に確認しながら現場へ向かった。
東新潟高速鉄道側では、山の下駅の安全確保が進められる。
そして警察と電波監視の現地班は、大山五丁目へ向かった。
◇
濁川宅。
警察官が到着する。
その周辺で、DEURAS-M6による測定を継続する。
「まだ出ています」
名立が測定器を確認する。
「この方向です」
松本も測定結果を見る。
発射源は明らかに、その住宅付近を示していた。
警察官が家へ向かう。
中から人の気配がする。
「濁川さんですか」
呼びかける。
ほどなくして、男が姿を見せた。
その瞬間にも、電波が出ている。
測定値が大きく振れる。
「発射源、この家です」
名立が確認する。
警察官が対応する。
濁川は、自分が電波を出していることを隠し切れなかった。
その場で、無線設備なども確認される。
そして、先ほどの犯行声明についても、送信機に繋がったパソコンソフト『おしゃべりAIぴーなつん』に送信内容と同じテキストデータが使われていた事を確認した。
「濁川さん、今回の放送について確認します」
警察官が告げる。
濁川は黙っていた。
やがて、警察官が電波法違反の現行犯として逮捕した。
◇
長野総合通信局。
戸隠は、現地から入った報告を聞いていた。
「発射源、濁川宅で確定」
島見が伝える。
「逮捕されたそうです」
戸隠は椅子に座ったまま、ゆっくり息を吐いた。
「そうですか」
「これで一段落ですね」
「いや」
戸隠は首を横に振った。
「爆破予告のほうがあります」
そう言って、時計を見る。
犯行声明から、まだ30分は経っていない。
「山の下駅の安全確保が先です」
「そうですね」
島見が頷く。
戸隠は静かにモニターを見た。
415MHz帯。
さっきまで激しく動いていた表示は、今は静まり返っている。
そして戸隠は思った。
電波は嘘をつかない。
少なくとも、電波がどこから出たのかについては。
今回、その電波が犯人の居場所を示した。
長野総合通信局電波監視室には、再び静かな時間が戻っていた。




