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鉄路の上の正義と悪意 第6話 「ぴーなつん」と千葉

 15時50分。


 長野総合通信局電波監視室。


 戸隠弘明は、先ほど記録した415MHz帯の測定データを整理していた。


「松本さんたちに連絡を入れましょう」


 島見杏果が頷く。


「発射推定範囲と、濁川さんの情報も?」


「はい。ただし、濁川さんについては『参考情報』として伝えてください」


「了解です」


 戸隠は電話を取った。


「松本さん、戸隠です。今、もう一度出ました」


 現地班へ、発生時刻、周波数帯、推定発射範囲を伝える。


 そして最後に、


「それから、新潟市東区大山五丁目に、元・越後機械の鉄道システム部にいた濁川という人物が住んでいるという情報があります」


 少し間を置いて、


「ただし、現時点では発射源との関係は不明です。参考情報としてお願いします」


 電話を切った。


     ◇


 ほどなくして、DEURASの制御権が現地の出張チームへ移管された。


 長野の監視室から、松本主任電波監視官の端末へ。


「これで現場側から直接見られます」


 戸隠が言った。


「了解」


 松本の声が返ってくる。


「山の下駅に入ります」


 長野側の画面から、現地班による測定へと主導権が移る。


 戸隠は最後に、


「何かあったらすぐ連絡してください」


 と伝えた。


「分かった」


 通話が終わる。


 戸隠はモニターを見つめた。


「さて……ここからは松本さんたちの仕事ですね」


     ◇


 山の下駅。


 開業初日の華やかな雰囲気は、すっかり薄れていた。


 東新潟高速鉄道本社会議室には、社長の木戸、専務の桃山、情報システム部長の河渡、目立通信新潟支社長の花園らが集まっていた。


 そこへ松本主任電波監視官、名立係長、近江係員が入る。


「長野総合通信局です」


 松本が身分を明らかにする。


「今回の無線局について、確認させていただきます」


「よろしくお願いします」


 木戸が頭を下げた。


 その一方。


「名立さん、こちらへ」


 松本が声を掛ける。


「はい」


 名立は駅の外へ出た。


 駐車してあるDEURAS-M6へ向かう。


「現場付近の測定を続けます」


「お願いします」


 名立は車内へ入り、測定装置を起動した。


 今回、重要なのは「次に電波が出た瞬間」を逃さないこと。


 山の下駅周辺を移動しながら、415MHz帯を監視する。


     ◇


「ところで」


 会議室では、河渡が松本に尋ねていた。


「先ほどの音声にあった『ぴーなつん』というのは、何なんでしょうか」


「それについては、こちらでも確認しています」


 松本が答える。


 すると、名立から無線で声が入った。


『松本さん』


「はい」


『ぴーなつんって、千葉のキャラクターですよ』


 会議室の全員が一瞬、黙った。


「……知ってるんですか?」


 松本が聞く。


『ええ。昔、何かの記事で見ました』


 名立は淡々としている。


『千葉県のゆるキャラで、ラッカセイの妖精という設定だったかと…』


「なるほど……」


 松本はメモを取った。


 その情報はすぐに長野の戸隠にも伝わった。


     ◇


 長野総合通信局。


「千葉?」


 戸隠が顔を上げる。


 島見が頷く。


「名立さんからです。『ぴーなつん』は千葉県のラッカセイの妖精という設定のゆるキャラだそうです」


「千葉県……」


 戸隠は考え込んだ。


 そして電話を取った。


「先ほどの濁川さんについて、もう一つ調べてもらえますか?」


 本省時代の知人に、追加の確認を依頼する。


「千葉県との関係です」


 十数分後。


 電話が戻ってきた。


「……分かりました」


 戸隠はメモを取る。


「目立傘下のME輸送システムに在籍していた時期がある」


 島見が画面を見る。


「ME輸送システム?」


「目立グループの関連会社です」


 戸隠は続けた。


「そこで、ある新交通システムの構想に参加していた」


「どこです?」


「舞浜から浦安駅を経由して、小岩まで」


 島見が目を丸くする。


「千葉……」


「ええ」


 戸隠も頷いた。


 構想の名称は、


『ソーブドリームライン』。


 舞浜から浦安、小岩を結ぶ新交通システム。


 濁川は、その構想に技術者として参加していた。


「じゃあ、濁川さんと千葉県には、はっきりした繋がりがあるんですね」


「そういうことになります」


 だが、話はそれだけではなかった。


「ただ、退職理由が問題です」


「何かあったんですか?」


「当時の上司との関係です」


 戸隠は資料を見る。


「上司だったのが……」


 少し間を置く。


「目立通信新潟支社長の花園さん」


「え?」


 島見が驚いた。


「今、山の下駅にいる花園さんですか?」


「そうです」


 戸隠は頷いた。


「濁川さんは在籍中、花園さんからパワーハラスメントを受けていたとされ、それを理由に退職した」


 電波監視室に沈黙が落ちた。


 これまでバラバラだった点が、また一つ繋がった。


 濁川。


 越後機械。


 目立グループ。


 ME輸送システム。


 千葉県。


 ソーブドリームライン。


 そして花園。


「……偶然が重なりすぎてますね」


 島見が呟いた。


 戸隠は答えなかった。


 まだ証拠はない。


 だが、15時30分に発射された415MHz帯の電波は、濁川の自宅を含む範囲から出ていた。


 そして、その音声には千葉県に関係する「ぴーなつん」が使われていた。


 さらに濁川には、千葉県での鉄道システム構想への参加歴がある。


「松本さんに追加情報を伝えます」


 戸隠が言った。


「ただし、花園さんとの関係も含めて、慎重に扱ってください」


 島見が頷く。


 戸隠は最後にもう一度、415MHz帯の画面を見た。


 今は静かだ。


 しかし――。


 次に電波が出た時には、もう「偶然」では済まされないところまで来ている。


 そんな気がしていた。

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