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鉄路の上の正義と悪意 第5話「ぴーなつん」

 15時30分。

 長野市朝日町、長野総合通信局電波監視室。

 戸隠弘明は、新潟、北新潟、新発田、秋葉――四つのDEURASセンサを並べた画面を監視していた。

 現地へ向かった松本主任電波監視官、名立係長、近江係員が到着するまで、まだ時間がある。

 そのため、戸隠たちは再発を待ち受けていた。

「……静かですね」

 島見杏果が言った。

「静かなのが一番です」

 戸隠が答えた、その直後だった。

「戸隠さん!」

 島見が画面を指差した。

 新潟センサに変化が現れる。

「来ました」

 415MHz帯。

 明らかに通常とは異なる電波だった。

「北新潟も」

 加茂が声を上げる。

 さらに新発田、秋葉の表示にも変化が現れた。

 戸隠はすぐに測定画面へ切り替える。

「発射源を推定します」

 四つのセンサから得られた情報を照合する。

 画面に発射源の推定範囲が表示された。

「新潟市東区、末広町から錦町にかけて」

 島見が地図を見る。

「山の下駅周辺ですね」

「ええ」

 戸隠は頷いた。

「ただし、これはあくまで推定範囲です」

 その時。

 電波監視室のスピーカーから音声が流れた。

『――ぴーなつん――』

「……何ですか、これ?」

 加茂が呆気に取られる。

 前回のようなわいせつな内容ではなかった。

 しかし、今回も駅の構内放送としては明らかに異常だった。

 続いて、東新潟高速鉄道の破壊を示唆する内容が流れる。

 その中で、妙に明るい調子で繰り返される。

『ぴーなつん』

「ぴーなつん……?」

 島見が首を傾げる。

「聞いたことあります?」

「ありません」

 戸隠も即答した。

 加茂がスマートフォンに手を伸ばす。

「調べてみます?」

「先に記録」

「了解です」

 加茂が録音を開始する。

 戸隠は音声を聞きながら、電波の測定結果を確認していた。

 やがて音声が途切れる。

 同時に415MHzの電波も消えた。

「今のデータを保存してください」

「はい」

 戸隠は画面を確認する。

「今回は、かなり重要です」

「発射中にDEURASで捕らえた」

「そうです」

 戸隠は頷いた。

「これなら現地班が到着した後、さらに発射源を絞り込める」

     ◇

 その直後だった。

 戸隠の携帯電話が鳴った。

「はい、戸隠です」

 電話の相手は、本省時代からの仕事上の知人だった。

「……ええ」

 戸隠はメモを取り始める。

「新潟市東区、大山五丁目?」

 島見が振り向く。

「……越後機械?」

 戸隠の表情が少し変わった。

 相手の話を聞きながら、さらにメモを取る。

「鉄道システム部ですか」

「……なるほど」

「三十年前まで東証に上場していた」

 戸隠はそこで一度黙った。

「若い頃は天才技術者と言われていた、と」

「分かりました。ありがとうございます」

 電話を切る。

「誰です?」

 島見が尋ねる。

「濁川という人物です」

 戸隠はメモを見ながら答えた。

「新潟市東区大山五丁目に住んでいるそうです」

 そして、少し間を置いて続ける。

「かつて越後機械の鉄道システム部にいた技術者だそうです」

「越後機械?」

 加茂が聞き返した。

「昔、新潟にあった会社です」

 戸隠は説明する。

「船舶用の機械や工業用エンジン、それから鉄道システムなどを作っていた会社です」

「今は?」

「経営破綻しています」

 戸隠は続けた。

「ただ、鉄道システム部門は、その後目立グループの傘下に入っています」

 島見が反応した。

「今回の納入業者と繋がるんですか?」

「そこが気になります」

 戸隠は頷いた。

「今回の通信システムを納入したのは目立通信ですからね」

「ということは、昔の越後機械の鉄道システム部門と、今の目立グループに繋がりがある」

「そう考えることはできます」

 戸隠は慎重に付け加えた。

「ただし、それだけで濁川さんを疑う理由にはなりません」

 そして、DEURASの画面を見る。

「大山五丁目は……」

 戸隠が地図を表示する。

「今回の推定発射範囲の中ですね」

 島見と加茂も画面を覗き込む。

「本当だ」

「越後大山台駅と山の下駅の、ちょうど中間あたりですね」

「そうです」

 戸隠は腕を組んだ。

 元・越後機械の鉄道システム部。

 現在は目立グループの傘下となっている鉄道システム事業。

 その納入先である東新潟高速鉄道。

 そして、その沿線の大山五丁目に住む元技術者。

 さらに、その場所を含む範囲から415MHzの電波が発射された。

「……偶然にしては、少し気になりますね」

 戸隠が呟く。

「でも、まだ一つも確証はない」

 島見が言った。

「その通りです」

 戸隠は頷いた。

「だから、現地班にはまず電波の発射源を追ってもらいます」

「濁川さんのところへは?」

「まだ行きません」

 戸隠は即答した。

「今の段階で、名前だけを見て疑うのは早すぎます」

 再び監視画面を見る。

 415MHz帯は、すでに静かになっていた。

 だが、先ほどまでとは状況が違う。

 今回は、電波が出た瞬間をDEURASで捕らえた。

 そして、その発射推定範囲の中に、鉄道システムに深い知識を持つ人物の住所がある。

 戸隠は時計を確認した。

「松本さんたち、そろそろ着く頃ですかね」

「もう少しだと思います」

「では、まず現場からの報告を待ちましょう」

 戸隠は椅子に座り直した。

 電波監視室には、再び機器の冷却ファンの音だけが響く。

 越後機械の遺産。

 目立グループの鉄道システム。

 そして、415MHz帯から流れた謎の言葉――。

 「ぴーなつん」。

 それらが一本の線で結ばれているのか。

 まだ、誰にも分からなかった。

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