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鉄路の上の正義と悪意 第4話 待ち受ける電波

 長野市朝日町。


 長野総合通信局電波監視室では、いつもとは少し違った緊張感が漂っていた。


「現地班は?」


 戸隠弘明が尋ねる。


 新津課長が答えた。


「もう新潟へ向かっている」


「誰です?」


「松本主任電波監視官をリーダーに、名立係長、近江係員の三人」


「三人ですか」


「そうだ」


 新津は時計を見る。


「ただ、現地到着まではあと二時間近くかかる」


「なるほど」


 戸隠は頷いた。


 事件の現場は新潟市東区。


 長野から向かえば、それなりの時間が必要になる。


 しかも今回重要なのは、過去の電波状況を確認することではない。


 DEURASは過去に遡れない。


 異常放送が再発した瞬間、その電波を捕らえる必要がある。


「なら、こちらで待ち受けましょう」


 戸隠が言った。


「新潟周辺のセンサを?」


「はい」


 戸隠は監視端末へ向かった。


 今回使用するのは、新潟、北新潟、新発田、秋葉の四つのDEURASセンサ。


 それぞれの位置関係を確認する。


「415MHz帯を重点的に監視」


「了解」


 島見杏果が操作を手伝う。


 加茂も隣の端末へ座った。


「四センサ同時ですか?」


「できるだけ広く見ます」


 戸隠が答えた。


「異常放送が再発して、415MHz帯が使われたなら、少なくともどこかで兆候を拾える可能性があります」


「でも、前の発生時刻には戻れない」


「そうです」


 戸隠は念を押すように言った。


「だから今回は、今この瞬間から監視する」


 監視端末の画面に四つのセンサが並ぶ。


 新潟。


 北新潟。


 新発田。


 秋葉。


 しばらくは何も起こらない。


 正常な電波環境だった。


     ◇


「しかし……」


 島見が椅子の背もたれに寄りかかった。


「開業初日に、あんな放送を流すって、相当ですよね」


「そうですね」


 戸隠は画面を見ながら答える。


「単なる悪戯なら、目的が分からない」


「目立つため?」


 加茂が言う。


「それなら駅を選ぶ理由はあります」


 戸隠は頷いた。


「ただ、放送設備へどうやって入ったのかが問題です」


 415MHz帯。


 デジタル通信。


 特定のデータフレーム。


 単純な無線機を持ってきて、適当な電波を出せば済む話ではない。


「システムを知っている人間なのか」


 島見が言う。


「あるいは、システムを解析した人間」


「そのどちらかでしょうね」


 戸隠は答えた。


 だが、まだ決めつけることはできない。


 そしてもう一つ。


 もしシステム側に何らかの脆弱性があるなら、外部からの無線送信ですらない可能性もある。


「……さて」


 戸隠は小さく呟いた。


「誰が、何のために」


     ◇


 その頃。


 松本主任電波監視官を先頭にした三人の現地班は、新潟へ向かっていた。


 松本は移動中も、今回の事案について資料を確認している。


「415MHz帯の固定局か」


 名立係長が答える。


「はい。山の下駅と越後大山台駅のバックアップ回線です」


「現場に着いたら、まず設備確認だな」


「そうですね」


 近江係員が資料を覗き込む。


「DEURASは長野から見てもらっているんですよね?」


「戸隠さんたちがやっているはずだ」


 松本が答える。


「なら、こちらは現地設備に集中しよう」


 三人はそう確認しながら、新潟へ向かった。


     ◇


 長野。


 午後になっても、四つのDEURASセンサに大きな変化はない。


 戸隠は時々画面を切り替えながら、415MHz付近の状況を確認していた。


 その時、ふと思い出したように言う。


「……もう一つ調べてみます」


「何をです?」


 島見が尋ねる。


「目立通信」


「ああ、納入業者」


「ええ」


 戸隠は端末を別の画面へ切り替えた。


 目立電気。


 その子会社である目立通信。


 今回の鉄道通信システムを納入した会社だ。


「本社から新潟支社まで、資料上は分かります」


「でも?」


「実際に新潟市周辺に、目立グループの関係者がどの程度いるのか」


 戸隠は電話を一本取り出した。


「少し調べてみます」


 島見が笑う。


「本省時代のツテですか?」


「まあ、そんなところです」


 戸隠は電話を掛けた。


「お久しぶりです。戸隠です」


 しばらく相手と話す。


「ええ。ちょっと確認したいことがありまして」


 仕事上の昔のつながり。


 本省勤務時代に知り合った人物に、目立グループの人員配置や関連会社について問い合わせる。


 もちろん、捜査権限を持っているわけではない。


 ただ、


「新潟市周辺に関係者がいるか」


という情報を得るだけなら、戸隠の人脈は役に立つ。


「……なるほど」


 戸隠はメモを取った。


「分かりました。ありがとうございます」


 電話を切る。


「どうでした?」


 加茂が聞く。


「まだ調べてもらっている途中です」


「すぐには分からない?」


「そうですね」


 戸隠はメモを眺めた。


「ただ、もし今回の事件が無線システムそのものを知っている人間によるものなら、納入側の人間が関係している可能性も、一応は考えておかなければなりません」


「もちろん、決めつけはできない」


「ええ」


 戸隠はDEURASの画面へ戻った。


 新潟センサ。


 北新潟センサ。


 新発田センサ。


 秋葉センサ。


 四つとも、今のところ平穏だった。


「現地班が着くまで、あとどれくらいです?」


「まだ一時間半以上あります」


 島見が答える。


「長いですね」


「仕方ありません」


 戸隠は椅子に座り直した。


「それまで、こちらで電波を見張りましょう」


 電波監視室に、機器の冷却ファンの音だけが響く。


 そして四つのDEURASセンサは、新潟市周辺の電波を静かに見続けていた。


 ――次に異常放送が流れるとすれば。


 その瞬間を、今度こそ捕らえるために。

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