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FireWork's 第5話 『長岡の夜空に咲く花』

 2026年8月3日 15時07分

 新地蔵トンネル長岡側電気設備建屋。

 制御装置の電源を切った直後、長岡市消防本部通信指令室から連絡が入った。

『救急一系、正常復旧しました。』

『監視モニタの「使用中」表示も解除されています。』

 宮内消防司令は安堵の表情を浮かべる。

「よかった……。」

 しかし戸隠は、まだラックの前から動かなかった。

「原因を確認しましょう。」

「再発防止までが今回の任務です。」

 高見も頷く。

「メーカー保守モードへ入ります。」

 ノートパソコンを制御装置へ接続し、サービス用ソフトウェアを起動する。

 一般の管理画面では見ることのできない内部ログが表示された。

 数分後、高見が静かに口を開いた。

「……原因が分かりました。」

 全員が画面を覗き込む。

「昨日21時頃、NEXCO東日本による通信回線のメンテナンスが実施されています。」

 西山が頷く。

「はい。予定どおり短時間だけ伝送回線を切り替えました。」

 高見はログを指差した。

「その際、通信回線が瞬間的に断となっています。」

「そして21時08分、消防本部側から通常の送信要求が入りました。」

 さらに画面を進める。

「ここです。」

「この制御装置に搭載されているファームウェアの不具合により、回線瞬断後の特定条件下で送信状態が解除されなくなるバグがありました。」

 島見が確認する。

「つまり……。」

「通信回線の瞬断だけでも駄目。」

「バグだけでも発生しない。」

「両方が重なった。」

「そのとおりです。」

 高見は頷いた。

「回線メンテナンスとファームウェアのバグ、この二つが重なったことで制御装置が送信状態のまま停止してしまいました。」

「消防本部が操作していないのに送信状態になり続けた理由は、それです。」

 宮内は深く息を吐いた。

「設備故障でも、不法局でもなかったわけですね。」

「はい。」

 戸隠も頷いた。

「通信障害でした。」

「ただし、人命に関わる重要通信への影響ですから、原因究明は必要でした。」

 高見は頭を下げた。

「メーカーへ直ちに報告します。」

「対象機器はファームウェアを最新版へ更新し、同型機も全国的に点検を行います。」

 西山も続ける。

「NEXCOとしても、通信回線切替手順を見直します。」

 宮内は戸隠たちへ向き直った。

「長野総合通信局の皆さん、本当にありがとうございました。」

「おかげで今夜の花火大会を安心して迎えられます。」

     ◇

 16時30分

 すべての報告書類をまとめ終えた戸隠たちは、DEURAS-M6へ戻った。

 加茂が運転席に乗り込もうとしたところで、宮内が声を掛けた。

「皆さん、このままお帰りですか。」

「その予定ですが。」

 戸隠が答える。

 宮内は少し笑った。

「せっかく長岡まで来られたんです。」

「今夜の花火、ご覧になっていかれてはどうでしょう。」

 島見が目を輝かせる。

「長岡花火ですか!」

 加茂も思わず振り向く。

「一度、生で見てみたかったんですよ。」

 戸隠は苦笑する。

「ですが、座席はありませんし、宿は取れなくて見附ですし。」

 すると高島が笑った。

「長岡市民は、有料席だけで見るわけじゃありません。」

「少し離れた場所なら十分見えますよ。」

 高見も頷く。

「帰りは渋滞しますけどね。」

「それも長岡花火です。」

     ◇

 19時20分

 信濃川の土手から少し離れた場所。

 有料観覧席ではないが、夜空は十分に開けていた。

 レジャーシートもない。

 椅子もない。

 三人はDEURAS-M6の脇に立ち、缶入りの冷たいお茶を飲みながら開始を待つ。

「仕事帰りに花火なんて、初めてですね。」

 島見が空を見上げる。

 戸隠は静かに答えた。

「たまには、こういうのも悪くありません。」

 やがて。

 ドン――。

 腹に響く一発目。

 続いて夜空いっぱいに大輪の花が咲いた。

 赤。

 青。

 金。

 次々と打ち上がる花火に、周囲から大きな歓声が上がる。

 加茂は思わず声を漏らした。

「……すごい。」

「写真やテレビとは全然違いますね。」

 名立も見入っていた。

「これが長岡花火……。」

 戸隠は腕を組んだまま夜空を見つめる。

「昨日は通信障害。」

「今日は平穏な夜。」

「それで十分です。」

 その直後、信濃川の夜空を埋め尽くすようにフェニックスが始まった。

 幾筋もの光が長岡の街を包み込み、会場から大きな拍手が沸き起こる。

 三人は言葉もなく、その光景を見つめ続けた。

 電波監視官の仕事は、目立つものではない。

 だが、人々が何事もなく祭りを楽しめる日常を支えることこそ、自分たちの役目なのだと――。

 戸隠は夜空いっぱいに広がる花火を見上げながら、静かにそう思うのだった。

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