Firework's 第4話 『無変調の正体』
2026年8月3日 13時42分
長岡市消防本部の宮内消防司令からの要請を受け、NEXCO東日本長岡管理事務所は、新地蔵トンネル設備への立入りを承認した。
総務省長野総合通信局。
長岡市消防本部。
白根電波工房。
三者合同で現地確認を実施することとなる。
◇
14時18分
北陸自動車道。
大積パーキングエリア。
一般利用者立入禁止区域。
白いヘルメット姿の男性が一礼した。
「NEXCO東日本長岡管理事務所、施設管理担当の西山です。」
戸隠も名刺を差し出す。
「総務省長野総合通信局の戸隠です。」
宮内、高島、高見も挨拶を済ませる。
「それではご案内します。」
西山が先頭に立ち、フェンス内へ入っていく。
普段利用客の目に触れることのない管理通路を進むと、小さなコンクリート製の建屋が姿を現した。
「こちらが新地蔵トンネル長岡側電気設備建屋です。」
西山が鍵を開ける。
重い扉が開くと、冷房の効いた機械室が現れた。
整然と並ぶ受配電盤。
通信ラック。
監視装置。
そして各機関の設備が収容されたシステムラックが並んでいた。
◇
「長岡市消防本部設備はこちらになります。」
西山が案内する。
高見が工具箱を持ってラックの前へ立った。
「失礼します。」
前面扉を開く。
送受信装置。
制御装置。
電源部。
異常ランプは見当たらない。
「見たところ正常ですね。」
そう言いながら、高見は表示器へ目を落とした。
その瞬間だった。
「……あれ?」
高見の声色が変わる。
「どうしました。」
宮内が近付く。
高見は制御装置を指差した。
「送信表示が点灯しています。」
全員が表示を見る。
確かに、
TX
のランプが緑色に点灯していた。
「現在送信中……?」
高島が眉をひそめる。
「そんな馬鹿な。」
「消防本部から送信指令は出していません。」
宮内も即答する。
「もちろんです。」
戸隠は静かにラック全体を見回した。
「つまり。」
「現場設備は送信状態になっている。」
「しかし消防本部では送信操作をしていない。」
島見も表示を確認する。
「監視装置の『使用中』表示と一致します。」
高見はさらにログ画面を開いた。
「送信開始時刻……。」
「昨夜21時08分。」
全員が息を呑む。
「障害発生時刻と一致しています。」
◇
戸隠は冷静に言った。
「まず証拠保全を優先します。」
「写真撮影。」
「表示記録。」
「ログ保存。」
「設備構成。」
「すべて残してください。」
「了解。」
名立がデジタルカメラで撮影を始める。
加茂は時刻を確認しながら記録簿へ書き込む。
高見はメーカー保守員としてログを保存する。
西山もNEXCO側の立会記録を書き始めた。
15分ほどで必要な記録は一通り揃った。
◇
宮内が戸隠へ視線を向けた。
「切ってもよろしいでしょうか。」
戸隠は高見を見る。
「高見さん。」
「送信停止による設備への影響は。」
「ありません。」
「受信状態へ戻るだけです。」
「分かりました。」
戸隠は頷いた。
「では宮内司令。」
「消防本部の責任者として操作をお願いします。」
「了解。」
宮内はラック前へ立った。
高見が電源スイッチを示す。
「こちらです。」
宮内は一度深呼吸すると、
ゆっくりとスイッチを押した。
カチッ。
制御装置の表示が消える。
同時に、
TX
ランプも消灯した。
静まり返る機械室。
戸隠は腕時計へ目を落とした。
「14時43分。」
その時だった。
高島の携帯電話が鳴る。
「……宮内司令!」
電話口から興奮した声が聞こえる。
『通信指令室です!』
『救急一系の"使用中"表示が消えました!』
会議室――いや、電気設備建屋の全員が顔を見合わせた。
障害は、確かに止まった。
しかし戸隠だけは表情を崩さなかった。
「……原因は、まだ分かっていない。」
「なぜ制御装置が送信状態になり続けたのか。」
「それを解明しなければ、この件は終わりではありません。」
機械室には、停止した制御装置の冷却ファンだけが、ゆっくりと回り続けていた。




