Firework's 第2話『長岡消防本部、緊急対策会議』
2026年8月3日 11時06分
DEURAS-M6は長岡市消防本部庁舎へ到着した。
前日から続く通信障害は、依然として解消していない。
この日も夜には長岡まつり大花火大会二日目が予定されている。
消防本部全体が張り詰めた空気に包まれていた。
◇
通信指令室に隣接する会議室。
長机を囲むように関係者が集まる。
「長野総合通信局の皆さんですね。」
長岡市消防本部消防司令・宮内正人が立ち上がった。
続いて隣の男性が名刺を差し出す。
「通信担当の高島です。消防司令補をしております。」
そして作業服姿の男性も軽く一礼した。
「白根電波工房長岡支店の高見です。消防救急デジタル無線設備の保守を担当しています。」
戸隠も名刺を差し出す。
「長野総合通信局無線通信部電波監視課、不法無線探索係の戸隠です。」
「名立です。」
「加茂です。」
互いに挨拶を済ませると、宮内が大型モニターを指した。
「こちらをご覧ください。」
画面には消防救急デジタル無線の監視画面が表示されている。
救急1系 使用中
表示は昨夜から変わらない。
「21時08分から現在まで、この表示が消えていません。」
高島が説明する。
「実際には誰も送信していませんが、システムはチャネルが占有されていると判断しています。」
「予備系へ切り替えて運用しておりますが、今夜も花火大会がありますので、一刻も早く原因を突き止めたいところです。」
戸隠は静かに頷いた。
「設備側の確認は。」
高見が資料を開く。
「基地局送信機、受信装置、空中線、同軸ケーブル、制御装置、監視サーバまで確認しました。」
「異常はありません。」
「メーカーとしても、設備故障の可能性は低いと判断しています。」
「なるほど。」
戸隠は短く返事をした。
◇
ここで名立が口を開く。
「長岡センサ局の状況は確認しました。」
ノートパソコンを開き、長野総合通信局から取得したデータを表示する。
「DEURAS長岡センサ局では、障害発生以降も断続的に受信レベルの変動があります。」
加茂が画面を覗き込む。
「一定ではないんですね。」
「ええ。」
名立は頷く。
「ただし、方位は大きく変わっていません。」
戸隠が続ける。
「西側です。」
会議室が静まり返る。
「受信強度は変動している。」
「しかし到来方位は、おおむね西側を示しています。」
宮内が地図を見る。
「西側……ですか。」
高島も長岡市街地図を見つめる。
「この範囲になりますね。」
「現時点では、それ以上のことは分かりません。」
戸隠が補足する。
「DEURASは総務省の電波監視システムです。」
「詳細な測定画面や制御機能は総合通信局内部でしか扱えませんが、現時点で得られる情報としては、『西側から到来している』ということになります。」
高見も納得したように頷いた。
「設備側から見ても、その情報は重要ですね。」
◇
しばらく沈黙が続いたあと、戸隠が口を開いた。
「実は、こちらへ向かう途中で、一つ気になる現象がありました。」
三人が戸隠を見る。
「北陸自動車道の新地蔵トンネルです。」
「トンネル内へ入った瞬間、DEURAS-M6の受信レベルが一瞬だけ大きく変動しました。」
「トンネルを出ると、すぐ元へ戻りました。」
宮内が首をかしげる。
「トンネルで……?」
「はい。」
「通常であれば、外部からの電波はトンネル内で弱くなることが多い。」
「しかし今回は逆でした。」
高見の表情も真剣になる。
「それは確かに気になりますね。」
「こちらへ来る途中で、そのような現象は初めてでした。」
戸隠は地図を見ながら続けた。
「まだ障害との関係は分かりません。」
「ですが、私には偶然とは思えません。」
そして宮内と高島へ視線を向けた。
「長岡市消防本部として、この現象について何か心当たりはありませんか。」
「例えば、西側で最近始まった無線設備や、高出力送信設備の工事、あるいは昨夜から変わったことなど。」
宮内と高島は顔を見合わせた。
高見も腕を組みながら、西側一帯の施設を思い浮かべていた。
会議室には、地図をめくる音だけが静かに響いていた。




