FireWork's 第1話「長岡の夜に切れた消防無線」
2026年8月2日 21時08分
長岡まつり大花火大会初日。
大輪の花火が信濃川の夜空を染め、観客が一斉に帰路につき始めたころだった。
長岡市消防本部通信指令室。
「……おかしい。」
通信指令員が消防救急デジタル無線の監視モニタを見つめる。
救急1系 【使用中】
画面はそう表示したまま変わらない。
本来なら数秒で送受信が終わるはずだが、何分経っても「使用中」の表示が消えない。
他の端末から送信しようとしても、
「チャネル使用中」
となり送信できない。
受信音も何もない。
デジタル化されているため、アナログ時代のような「ザー」という雑音は聞こえず、ただキャリアだけが出続けてチャネルを占有している状態だった。
「強い無変調波だ。」
「搬送波だけで潰されてる。」
指令員は直ちに予備系へ運用を切り替え、総務省へ障害を通報した。
21時32分
長野市吉田。
吉田広町合同宿舎。
長野総合通信局無線通信部電波監視課長・新津伸一は、自室でくつろいでいたところへ携帯電話が鳴る。
「新津です。」
『東京総合通信局夜間受付です。』
長岡市消防本部からの障害申告が伝えられる。
『消防救急デジタル無線・救急1系において、21時08分から継続して無変調波が発生しています。』
『監視装置では現在も【使用中】表示が継続しています。』
「現在もですか。」
『はい。』
新津は表情を引き締めた。
「了解しました。」
電話を切ると、直ちに課内一斉メールを送る。
8月3日0800集合
長岡市消防本部障害対応
DEURAS-M6出動
消防通信への妨害。
しかも長岡花火開催中。
人命に直結する案件だった。
8月3日 08時00分
長野総合通信局。
電波監視課。
始業とともに戸隠、名立、加茂が揃う。
新津が状況を説明する。
「障害は現在も継続中。」
「消防本部監視装置では、今この時点でも『使用中』表示のままだ。」
名立が驚く。
「一晩中ですか。」
「そういうことだ。」
戸隠が腕を組む。
「連続送信なら、かなり大胆ですね。」
「だからこそ確認する。」
新津は頷く。
「DEURAS-M6で出動。」
「戸隠が測定責任者。」
「名立は測定補助を主担当、必要時は運転交代。」
「加茂は運転を主担当として、測定補助も行う。」
「了解しました。」
08時28分
DEURAS-M6は長野総合通信局を出発。
北国街道を北上する。
車内では加茂がハンドルを握る。
助手席には名立。
後席では戸隠が測定装置を立ち上げていた。
「消防本部から更新です。」
「障害は依然継続。」
「監視画面もまだ『使用中』です。」
島見が読み上げる。
戸隠は静かに頷く。
「長時間送信か……。」
牟礼を過ぎ、
柏原を抜け、
信濃町ICから上信越自動車道へ入る。
妙高高原を越え、新潟県へ。
車内にはDEURASの受信音だけが静かに流れていた。
10時04分
北陸自動車道。
柏崎市と長岡市の境にある新地蔵トンネルを通過し、出ようとする時だった。
その瞬間だった。
ピッ。
DEURASの受信レベルが突然大きく跳ね上がる。
名立が画面を見る。
「えっ?」
戸隠も同時に表示を見た。
「……。」
トンネル内に入った途端、受信レベルだけが不自然に上昇している。
しかしトンネルを抜けると、元に戻った。
加茂がバックミラー越しに尋ねる。
「今の……何ですか?」
戸隠はしばらく答えなかった。
やがて静かに言う。
「トンネルを出る際にレベルが変化した。」
「普通ではない。」
名立も真剣な表情になる。
「外来波なら、トンネルで弱くなるはずですよね。」
「そうだ。」
戸隠は画面を見つめたまま続ける。
「なのに逆だった。」
数秒の沈黙。
戸隠は窓の外へ目を向けた。
「……何かある。」
「長岡へ着いたら、まず消防本部だ。」
「そのあと、この現象も整理しよう。」
DEURAS-M6は長岡へ向けて走り続ける。
戸隠の頭の中では、「トンネル内だけ受信レベルが上がった理由」が、静かに組み立てられ始めていた。




