謎の電波障害 第2話 疑われたディーラー
翌週月曜日。
長野あさひ町合同庁舎A棟四階、長野総合通信局無線通信部電波監視課。
午前九時。
会議室では、先週黒鳥から送られてきた録音データの解析結果について打合せが行われていた。
モニターには、音声ファイルのタイムスタンプと聞き取り結果が一覧で表示されている。
島見杏果が説明を始めた。
「録音日時は七月八日十八時二十分、七月十日十七時五十二分、七月十二日十八時九分です。」
飯田美智雄主任電波監視官が資料へ目を落とす。
「どれも夕方だな。」
「はい。」
島見は頷いた。
「黒鳥さんのメールによると、タイムスタンプは混信が発生した時刻そのものとのことです。」
戸隠弘明が続ける。
「交信内容から見る限り、毎回ほぼ同じ局が運用しています。」
「相手局との応答も自然です。」
「録音だけを見る限り、不法局ではなく正規のアマチュア局の交信です。」
加茂依斗が資料を見ながら言った。
「でも、十キロ以上離れていて、あれだけ明瞭に混信するものなんですか。」
戸隠は首を横に振る。
「近くにある新潟空港には障害がおきていないから、あまり想定はされないが…」
「ただ、黒鳥さんのお話では、ボリュームを絞っても聞こえることがあるそうです。」
「少し強すぎる印象があります。」
会議室が静かになった。
新津伸一課長が口を開く。
「戸隠。」
「はい。」
「可能性として考えられるのは。」
「資格外のオーバーパワーです。」
加茂が顔を上げた。
「やっぱりですか。」
「ただし。」
戸隠は加茂を見る。
「現時点では可能性の一つに過ぎません。」
「決めつけは禁物です。」
加茂は少し照れたように頷いた。
「すみません。」
「いや。」
飯田が笑う。
「新人なら誰でもそう考える。」
「だからこそ測定するんだ。」
新津は資料を閉じた。
「免許人へ協力をお願いしよう。」
「まずは設備を確認する。」
◇
その日の午前。
戸隠は課の電話から、カメダコミュニケーションへ連絡を入れた。
数分後、社長の亀田宗一本人が電話口に出た。
「長野総合通信局電波監視課の戸隠と申します。」
「はい。」
「現在、新潟市内で電波障害の申告案件を調査しております。」
「その過程で、亀田様のコールサインが確認されました。」
宗一は数秒黙った。
「……そうですか。」
「ご迷惑でなければ、一度設備を拝見させていただけませんでしょうか。」
しばらく沈黙が続く。
やがて宗一は静かに口を開いた。
「つまり、私の局が原因かもしれない、と。」
「現段階では可能性の確認です。」
戸隠は即答した。
「違反を前提としているわけではありません。」
「事実を確認したいのです。」
宗一は苦笑した。
「通信機を売る立場の人間が、監督官庁から疑いを掛けられるとは……。」
「正直、気持ちのいいものではありませんね。」
「お気持ちは理解しております。」
戸隠は落ち着いた口調で答えた。
「ですが、可能性を一つずつ確認することが、私たちの仕事です。」
少し間があったあと、宗一は穏やかな声で言った。
「分かりました。」
「設備も測定器も、必要なものは全てお見せします。」
「原因をきちんと突き止めてください。」
「ありがとうございます。」
◇
電話を切ると、加茂がほっと息をついた。
「怒られなくて良かったですね。」
島見が苦笑する。
「内心は穏やかじゃないと思うよ。」
「でも、協力してくださる。」
戸隠も頷いた。
「ベテランの無線家だからこそでしょう。」
「もし自分に問題があるなら直す。」
「そうでないなら、原因を明らかにしたい。」
「そういう姿勢です。」
飯田がスケジュール表を見る。
「訪問は木曜日13時で決まりだな。」
「はい。」
戸隠が答える。
「私と島見、それから加茂で伺います。」
新津は頷いた。
「任意の協力だ。」
「礼を失するな。」
「もちろん、測定は徹底的にやれ。」
「はい。」
◇
退庁間際。
加茂が資料を鞄へしまいながら言った。
「カメダコミュニケーションって、白根電波工房と競合なんですよね。」
「そうだ。」
島見が頷く。
「昔から新潟では有名なライバル同士。」
「だからといって、この案件とは関係ないけどね。」
戸隠は静かに言った。
「私たちが見るのは会社でも評判でもない。」
「電波だけです。」
加茂は真剣な表情で頷く。
「はい。」
数日後。
三人は、新潟市東区下山にあるカメダコミュニケーションへ向かうことになる。




