↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
113/143

「27.005MHzの男」 第3話『27メガの時代』

 2026年1月中旬。

 東御市田中。

 朝から雪混じりの雨だった。

 国道18号を大型車が鈍い水音を立てながら走っていく。

 米国薬局田中店の駐車場。

 白い監視車両の窓は暖房で少し曇っていた。

 受信機からノイズ。

 ザーッ……

『……小諸滑るぞー』

 男の声。

 名立が即座に時刻を書く。

「10時43分。27.005受信」

 戸隠は双眼鏡を上げる。

 銀色の平ボディ。

 例の大型車だった。

「いました」

 大型車は水煙を上げながら国道を走る。

 戸隠は運転席を見る。

 だが。

「……また低いですね」

「マイクですか」

「ええ」

 以前より明らかに位置が低い。

 窓下に隠している。

 送信時間も短い。

『佐久向かうー』

 ブツッ。

 切れる。

 名立が眉をしかめた。

「前より露骨に警戒してません?」

「してますね」

「やっぱ勘付いたか」

 戸隠は双眼鏡を下ろした。

「“見られている”くらいは分かってるでしょう」

 大型車はそのまま小諸方面へ消えていく。

 残ったのは、  タイヤが巻き上げた薄い霧だけだった。

    ◇

 午後。

 長野総合通信局。

 監視室。

 戸隠はDEURASのログを比較していた。

 モニターには受信強度のグラフ。

 以前より微妙に低い日がある。

「……出力も落としてるな」

 島見が後ろから覗き込む。

「逃げてるんですかね」

「様子見でしょうね」

 戸隠は画面を切り替えた。

 受信回数。

 以前より減っている。

 だがゼロにはならない。

「止める気はないんですね」

「完全に止める人なら、とっくに消えてます」

 戸隠は淡々としていた。

「長年やってる人です。たぶん生活の一部なんでしょう」

 その時。

 監視室の受信機から、  別の声が飛び込んできた。

『信州急行さん今日静かだなぁ』

 別の男の声。

 さらに。

『最近パトロール多いらしいぞ』

 笑い声。

 ザーッ……

 名立が顔を上げた。

「グループ内で話出てますね」

「ですね」

 戸隠は録音ボタンを押した。

『だから短くやってんだろ』

『例の白い車いたって話もあるしな』

 そこで送信は切れた。

 監視室が静かになる。

 島見が苦笑した。

「完全に警戒されてるじゃないですか」

「ええ」

 戸隠はモニターを見たまま言った。

「ただ、やめない」

「ですねぇ」

「そこがこの人の特徴です」

    ◇

 夕方。

 東御市滋野。

 国道18号沿い。

 監視車両は路肩に停車していた。

 雪は止みかけている。

 受信機からノイズ。

 ザーッ……

『……佐久着くぞー』

 また八千穂の声。

 戸隠は即座に双眼鏡を向けた。

 銀色の平ボディ。

 しかし。

「……見えない」

 フロント上部のオーロラフィルムが、  夕方の西日を乱反射していた。

 運転席が完全に潰れる。

 名立が舌打ちする。

「クソ……」

 しかも。

 今回は助手席側の影が見えた。

「同乗者……?」

「断定できません」

「でも一人かもしれない」

「ええ」

 戸隠は双眼鏡を下ろした。

「だから止められない」

 大型車は夕暮れの国道を走り去る。

 名立が深く息を吐いた。

「毎日見てるのに、全然近付いてる感じしませんね」

 戸隠は少し考えてから答えた。

「逆ですよ」

「え?」

「向こうも、こちらを見始めてます」

    ◇

 夜。

 長野総合通信局。

 新津課長は受信ログを見ながら言った。

「警戒されたな」

「はい」

 戸隠が答える。

「送信時間短縮。出力調整。マイク位置変更」

「慣れてる」

「ええ」

 新津は腕を組んだ。

「雑に止めるなよ」

「分かっています」

「こういうのは、最後に焦った方が負ける」

 戸隠は静かに頷いた。

 監視室の受信機から、  再びノイズが流れる。

 ザーッ……

 だが。

 今夜の27.005MHzは、  妙に静かだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。