第2章 第17節:「激白」
環は、幼い時から心が壊れるのを防ぐため、自身に言い聞かせる理由を考え抜いていたのだ。
どうしても自分を納得させる理由を見出せず、放心状態で死んも同然の時が何度もあったのだろう。
それが、環が言っていた「幾度も死んでいる」だったのだ。
「あなたならわかってくれると思いますが、母は純粋に愛だけを見つめていたのです。結婚とは、世間を維持するための単なる形式に過ぎないのです」
環は、また遠くを見るような眼をした。
私は、今まで生きて来た人生が薄っぺら過ぎて、とても、環に太刀打ちできないことを痛感していた。
「今日はありがとうございました。とても楽しかったです」
環は車から降りる時、私を気づかうように声を掛けてきた。
なおも無言で打ちひしがれる私を見て、
「少しだけ寄っていってください」と、環はやさしく誘ってくれた。
私は、言われるがままに従うだけだった。
「もうこれ以上、自分に嘘をつくことはできません」
ズタズタに切り裂かれた心を、再び環の膝の上で癒すことができた私は、これ以上逃げることのできない事実を環に告白した。
「私はあなたに、何物にも代え難い安らぎを見い出したのです。
あなたが若いので、『私のほうが思慮深いのだ』と思い上がっていたことを、今日痛切に思い知らされました。
私は、あなたと一緒にいられるのなら、全てを捨てることさえ厭いません。
どうか私と結婚して下さい」
私は、ただひたすら哀願した。