第2章 第18節:「逆流(ぎゃくる)」
「理解し合える人とこうして会えるだけで、私は幸せだと思っています。
そして、これ以上望むものは何もありません。
それに、他の人の不幸で私の幸せが生み出されることが、私には耐えられないことなのです。
結婚というただの形式にこだわるなんて、聡さんは、まだ世間が怖いのですか。
全てを捨てると言うなら、世間も捨て去るべきです」
環の口調は厳しいものだった。
頭を撫でる手を止め、環は再び言い聞かせるように静かに語り始めた。
「あなたは、逃げることなく人生に真正面から取り組んでいます。
殆んどの人は、大勢に流されて楽に生きることを選んでしまうのです。
あなたは流れに順応出来ず、逆らってまでも自分の生き方を探し求めているので、死ぬほど疲れてしまうのです。
でも、あなたの生き方こそが“逆流"なのです」
「自分のことだけなら、世間など怖いとは思いません。あなたが世間の晒し者になってしまうことが、私には恐ろしいのです。
あなたの安らぎを得るためなら、自分を捨てて世間に媚びることさえ厭いません」
私は必死に食い下がった。
「それは“世間の求める幸せ"であって、“私の幸せ"ではないのです。
欲望まみれの世の中に適応できる人たちからの許しが、なぜ必要なのですか。
そんなものは、ただの免罪符に過ぎないのです。
あなたには、まだ世間への諂いが残っているのですね」
環は、悲しそうに俯いてしまった。




