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私は貴方が嫌いです

「何で......ここに......?」

 先程と全く同じ質問をする。

 千歳は微笑みながらオレの元へ──勇也の墓の前へと歩み寄る。

 そして、墓石から目を外しオレを見つめた。

「おばさんから全てを聞きました。もう......勇也くんが他界していることも」

 ......おい。

「それに、貴方が勇也くんの双子の兄弟でいることも」

 ......おいおい。

「もう、全てを知りました。貴方が隠そうとしていたこと全て。......ね、駿樹くん」

 ......おいおいおい。

「ずっと私を騙してたんですね。この大嘘つき」

 そう言いながらも、千歳は悪戯っぽく笑っている。

 ..................。

「大嘘つきって......嘘は吐いてないだろ」

 未だに事態が呑み込めずにいるオレは、驚く程小さな声で反論する。

「......そうですね。貴方は何も嘘を吐いていません。思えば、最初からそうでした。私が貴方と出会った時に言った言葉───『心優しい勇也くんはもういない』───あれは、そのままの意味だったのでしょう?」

「......」

「それと、教科書を自室のクローゼットに押し入れたのは自分の本名が書かれているから。だから、それを隠そうとしたのでしょう? 失礼ながら、おばさんの絵本を見た後に勝手に覗かせていただきました」

 そこまで言って千歳はようやく口を閉ざした。そして、オレが次にどうするかを見定めている。

 そんな目で見られても、もうどうしようもないんだけどな......。

「それで......? オレに文句でも言いに来たのか?」

 そうなんだろうな......いや、その覚悟は既に出来ている。

 きっと全てを知った今、この少女はオレに憎悪を抱いていることだろう。

「ええ、私は貴方のことがとても嫌いです」

「......やっぱりな」

 つい先日まであんなにラブコールしてきたくせに、とんだ掌反しだ。

 分かりきった展開に、オレは自然と渇いた笑みを浮かべて、上空を見上げた。

 ......いやぁ、汚い星空だ。

「でも、それは貴方が勇也くんの死を隠していたからではありません」

「は?」

 思わず目線を千歳へと戻す。

 そこには、変わらず笑みを浮かべる千歳の姿。

「私が怒っているのは......貴方が勇也くんを悲しませていることにですよ」

「......は?」

 何を言ってるんだコイツは。

 全てを知ってるんじゃなかったのか?

 何故お前に勇也の死を隠そうとしていたかも知っているんじゃなかったのか?

「おいおい......言いがかりはよしてくれ。オレはお前には冷たいが、勇也には温かい人間だぜ? そもそも、これは勇也が望んだことだ。そういう約束なんだよ」

「ええ、存じていますよ。『貴方が勇也くんに代わって私を幸せにする』という約束なんですよね? そのために、貴方は私を遠ざけようとした。私の唯一の友達の死、その最も残酷な真実を隠すために、貴方は私に嫌われようと努めた......そうですよね?」

 最後にオレに尋ねてきながらも、その返事を待つことなく千歳は話を続けた。

「......でも、それは貴方が傷ついても良い理由にはなりませんよ」

「......!」

 千歳は、ここにきてその顔を悲痛に染めた。

「貴方が勇也くんを演じる度に、貴方は私よりも苦しんでいるのでしょう? 何も知らない私は、ただ勇也くんが変わってしまったことに傷つくだけで、勇也くんを失ってしまった悲しみは貴方だけが背負っている......」

「それが......どうしたって言うんだよ。そんなことは当たり前のことなんだよ。オレが奪ったことに苦しむのはオレの役目......それだけのことだろうが」

 何を今さら............。

 アイツを失った悲しみに暮れるのは、皆からアイツを奪ったオレだけで十分だ。

 何もしていないお前が苦しむことなんてないんだよ。

「......では何故、貴方は今泣いているのですか?」

 ......泣いている?

 ......今、オレが泣いている?

「貴方は勇也くんを演じるその都度、勇也くんが私に与える筈だった幸せを奪ってしまったことに苦悩している。だからあの時、滝に連れていってくれたんですよね? 私に、少しでも勇也くんと得るはずだった幸せを与えるために」

「......」

「......違いますか?」

「......さあな」

 本当に、オレ自身にも分からない。

 何故、オレがあんな行動をとったのか。

「......でも、貴方はその度に苦しんでいる。私が勇也くんを求めれば求める程、貴方は苦しんでいる。そんな貴方の姿を見て、本当に、勇也くんは喜んでいると思いますか? ......いいえ、きっと悲しんでいます。勇也くんは、貴方がそんなにも苦しむのを望んで、貴方に私との約束を託したと思っているのですか?」

「......」

「......私は、貴方が嫌いです。私のためにしてくれたことだとしても......いえ、だからこそ、そのために勇也くんを悲しませている貴方が......!! ......私は嫌いです」


 最初の笑顔は徐々に消え失せ、遂には涙を流し始めた。その顔には、初めてオレを責める感情が浮かんでいた。

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