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お母さんの昔話

「さて、千歳ちゃんも友達になったことをあともう一人にも伝えに行かないとね」

 桐花ちゃんがそんなことを言う。

「ユウくん......に?」

「ええ、一人で背負い込んでるあの馬鹿に」

 桐花ちゃんは呆れて肩を竦めながら笑う。

「そうだなあ、アイツにも伝えに行かないと」

 一馬くんも同意を示す。

「伝えに行くって......メールとかでは駄目なの?」

「ええ、駄目よ。こういう大事な事は直接伝えないと」

 どこか演劇のような口調の桐花ちゃん。

「というわけだからさ、千歳ちゃん」

 渡くんが続いて声を掛けてくる。

「ユウに伝えてきてくれない? 君が僕達のグループに入ったことを。多分、墓地にいると思うから」

「墓地?」

「うん。ユウにとって、とても大事な人がそこで眠っているんだ。今日がちょうど命日だから、十中八九、そこにいると思う」

 彼にとって大事な人......

 一体どんな人なのだろうか。

「千歳ちゃんにとっても、大事な人だよ」

 私にとっても......?

「......うん。行ってみるよ」

 好奇心が掻き立てられ、行きたいという欲求が沸き上がる。

「あ、そうそう千歳ちゃん」

 桐花ちゃんが思い出したように声を出す。

「お墓に行く前に、ユウのお母さんから絵本を見せてもらうといいわ。あの人、昔は絵本作家だったの。多分、その絵本が貴女の知りたいことの答えを教えてくれると思う」

「絵本......?」

 私が知りたいこと。

 それは、彼が変わってしまった理由。

 その絵本に、何の答えがあるというのだろう。

「ほら、早く行った行った!」

 困惑している私の腰を叩き、早く行けと促す桐花ちゃん。

「アイツを......助けてあげて」

「......?」

 助ける......?

 そういえば、あの看護婦にも言われた。彼を救えるのは私だけだと。

 一体彼に何があるのだろうか。

 何も分からないけど、でも、その答えが絵本にあるというのなら、見てみたい。


 私は、促されるままに屋上の出口へと駆け出した。


..................



「松田さん!」

 校門前に辿り着いた私は、変わらずそこで駐車している車に乗り込み、使用人に声を掛ける。

「お嬢様? どうかなされましたか?」

「今すぐ勇也くんの家に向かってください!」

 彼はキョトンとしていたが、すぐに私の指示に従った。

「かしこまりました」

 その返事と共に、車は走り出す。

 学園がドンドンと遠ざかっていく。

 流れる街並みを眺めていると、松田さんが声を出した。

「お嬢様、何かございましたか? まさか、彼が来たのですか?」

「え?」

 突然の質問に聞き返してしまう。

「いえ、何だか......どこか嬉しそうな顔をしていらっしゃいましたから」

 そう言う彼の顔はとても綻んでいた。

「いいえ......彼は来ませんでしたけど、でも、居場所が出来ましたから」

「左様でございますか。いやはや、そのようなお顔を見るのは十年振りになりますかな」

「十年振り......」

 そうか。

 今の私はあの時と同じ顔をしているのか。

 自覚は無かったけど、でも、確かにそうなのだと確信できた。



..................



「到着しました」

 その声に返答もせず、私は車を急いで降りる。

 彼の家の玄関の扉まで駆け、そしてインターホンを押すこともなく扉を開けた。

 そして家の中へ上がり、リビングへと入ったところで、彼の母と出会う。

「あら、千歳ちゃん......そんなに急いでどうしたの? 体はもう大丈夫なの?」

「あ、はい。体はもう大丈夫です......じゃなくて!」

「?」

「おばさん! 私に、絵本を見せてくれませんか!?」

 そう頼んだ途端、おばさんの表情は僅かに憂いを帯びた。

「......そう。でも、見てどうするの?」

 私に問うおばさん。

 その顔は、私を試しているようだ。

 ここで、答えを間違えてはいけない。

「救い......たいんです。彼に何があったのかは知らないけど、でも、それが私にしか出来ないことなら、私はやりたいんです......」

「............」

 おばさんは、私の顔をジッと見つめ続けている。

 まだ、不十分だ。

「ううん、それだけじゃない......私は、彼と約束しましたから。元気に、強くなって帰って来るって。彼が、私に何かを隠しているのは分かっています。多分、それが私のためでもあることも......でも、だからこそ! 私はそれを受け止めないといけないんです! でないと、私は強くなれていないことになるから!」

 私は強く訴える。

 それは、私の心から沸き上がる叫びだ。

「......そう。でも、本当に受け止めきれるの? アイツに拒絶されて、ただ泣いていただけの貴女が、本当に今度は泣くことなく、うちひしがれることなく、受け止めきれるの?」

 尚も続く尋問。

 その表情に悪意など感じられないが、その問いは私の深い所を射ぬいていく。


 でも、屈することはない。


「大丈夫です。もう、私には彼しかいないわけじゃないから。私が苦しんでいる時、傍に寄り添ってくれる人は、彼以外にもいますから。だから、きっと、受け止めきれます」


「......そう」

 その答えを聞いて、おばさんは優しく微笑んだ。問いの答えになっているかは分からないけど、でも、私の全てを晒し出したことで、彼女の心に届いたのだろうか。

「じゃあ持ってきてあげるから、ちょっと待っててね」

 声音がいつもの調子に戻ったおばさんは、リビングから廊下へと出ていく。

 その姿を見送り、私は大きく息を吐く。

「第一関門......突破かな」

 そんなことを思っていると、すぐにおばさんはリビングへと戻ってきた。

「はい。これよ」

 ダイニングテーブルに置かれたその絵本は、表紙に何も絵が描かれていない質素な物だった。

「昔、とある人から聞いた話と私の実体験を元に作った物よ」

 おばさんの説明を聞いてから、私はその絵本の手を掛ける。


 ......ここに、彼の秘密が。


 私は静かに表紙をめくった。



  ──────────────────────


 昔々ある所に、一人のお姫様がいました。

 そのお姫様は体が弱く、いつもお城に籠っていました。

 毎日をベッドの上で過ごす彼女は、寂しさを募らせていました。


 そんなある日、お姫様はお城を抜け出しました。

 退屈なお城の中に嫌気が差したお姫様は、城下に広がる町へと行ってみたくなったのです。


 そして、お姫様は一人の少年と出逢います。

 彼は、お姫様が一人寂しく過ごしているのを聞いて、彼女のお友達になると言いました。


 その少年はとても心優しく、それから毎日、お城にいるお姫様の元に現れては、お姫様とお話をし、遊び、共に時間を過ごしてくれました。


 それから程無く、お姫様は少年に恋心を抱くようになります。

 毎日が孤独な物だったお姫様にとって、少年の存在はとても大きなものでした。

 その少年と過ごす日々は、お姫様にとって掛け替えのない宝物となりました。


 しかし、幸せな日々は終わりを告げます。


 お姫様が遠くの地へ移り住むことになったのです。


 あと一月程で少年と別れることになったお姫様は、少年とある約束を交わします。


『いずれ私がこの地へ戻ってきたら、その時は私を幸せにして欲しい』


 その約束を、少年は快く受け入れてくれました。少年もまた、お姫様に恋心を抱いていたのです。


 そして、いつかの再会を誓いながら、お姫様は遥か遠くの地へ向かいました。


 しかし、その別れから暫くして、少年はこの世を去ってしまいました。


 不運な事故でした。


 少年は、息絶える直前にある者へ───


『双子の弟』に頼み事をします。


『いずれ、お姫様がこの地へ戻ってきたら、自分の代わりに彼女を幸せにして欲しい』


 その願いを聞き届けた弟は、しかし、どうすれば良いのか分かりませんでした。

 数年もの間、弟は考え続けました。


 考えに考え抜いた弟は、一つの結論を導き出します。


 これ以上、お姫様を悲しませないためにはこうするべきか。

 いや、もはやこれしかない。

 これ以上、お姫様を不幸にしないためには兄の死を隠すしかない。

 

 ならば、自分が兄と入れ替わってしまえば良い。


 顔が似ている自分が兄と入れ替わり、再会したお姫様にお別れを告げれば良い。

 お姫様は悲しむかもしれないが、それでも、兄の死を知るよりは、まだその悲しみは浅く済むだろう。


 そう弟は心に決めて、兄の代わりをすることに決めました。


 いずれお姫様が戻ってきた時、彼女を拒絶する─────そのために。

 

 

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