入院
GW中に物語を完結させるつもりです!
意識が混濁していく。
徐々に狭まる視界に映るのは、オレが間一髪、突き飛ばした玲音の顔。
玲音は車道の隅でうずくまっている。
見たところかすり傷は所々にあるが、何とか救出に成功したらしい。
その代わりにオレが轢かれてしまったが。
安心を得たと同時に、オレは意識を閉ざした。
..................
「全く、何やってるのよアンタは」
ベッドの横から呆れた声を掛けてくる母親。
その顔には呆れと同時に悲痛が浮かんでいた。
そして、その横で大泣きしている子供が二人。
「ぐすっ、お兄ちゃん......お兄ちゃあああん......!」
その額に絆創膏を貼った玲音がベッドの上のオレに泣きすがってくる。
「あーー痛い痛い痛い痛い!! 体を揺らすな!右足骨折してるんだぞ!? ぬああ......」
吊るされている右足がユラユラと揺れる。
鈍い痛みが足を駆け巡る。
「あ! お兄ちゃん!」
パッとオレから離れる玲音。
そして、またも大泣きを始めた。
そんな二人を差し置いて母親がオレに声を掛ける。
「まあ、命が無事で何よりよ。幸いすぐに退院は出来るみたいだから、それまで大人しく療養してなさいよ?」
そして言葉を続ける。
「......どこか具合が悪かったり、気になることはない?」
ジッとオレの瞳を見つめてくる。その瞳は少々潤んでいるようだ。
「......久し振りに思い出したよ。十年前のこと」
そう言うと、母親は目を見開いた。
「十年前って、アンタ......」
「なあ、母親......何で今オレは生きてるんだろうな。アイツと同じ事がこの身に起きたってのに、何でオレは生きて、アイツは死んじまったんだろうな......」
母親から顔を背け、疑問を投げ掛ける。
母親は暫く何も言葉を発さなかったが、やがて静かに口を開いた。
「......さあ、何ででしょうね。きっと、あの子が守ってくれたんじゃない?」
そんな訳があるか。アイツに恨まれこそすれ、助けて貰えるいわれはない。
「......なあ、母親。オレのこと、恨んでるか?」
長年尋ねたかったことをようやく言葉に出来た。この際だから聞いておこう。
「......馬鹿ね。実の子供を恨む親がいるわけないでしょう?」
肩を竦めながら微笑む母親。
「......そうか。母親の愛は深いな......でも、オレは自分が憎いよ。殺してしまいたい程に」
「......アンタ、そろそろ自分を許してあげたら? あれはアンタのせいなんかじゃない。そんなこと、誰もが知ってるんだから」
「オレを許す権利は誰にも無いよ。唯一それを持ってるヤツは、もうとっくに死んじまってるし」
そこから生まれる沈黙。
その沈黙を破ったのは子供達だった。
「? ヤツって誰?」
「もしかしてお兄ちゃんの......」
そこまで言いかけたところで、母親が手を叩き強引に続きを遮った。
パンッと病室に響く乾いた音。
「はい! それじゃあ二人共、そろそろ帰ろうか。いつまでも此処にいたら迷惑だろうし」
そう言って、床に置いていた鞄を手に持つ。
オレに配慮してくれているのだろうか。
「ほら、行くわよ二人共」
そのまま颯爽と病室から出ていく母親。
「あ......えっと、じゃあねお兄ちゃん!」
「ありがとね、お兄ちゃん!」
二人もその後に続いて病室を出ていった。
途端に静かになる室内。
「ふーーー」
長い息が胸から込み上げ漏れていく。
あの二人と共にいると、すぐに体力が無くなっていく感覚がある。オレからエネルギーを吸いとっているのだろうか。
「......ちっ、夏休み序盤から入院生活かよ」
運が悪いな、オレも。
これからどうやって時間を潰そうか考えていると、扉がノックされた。
「はい」
短く返事を返すと、遠慮がちに扉が開かれていく。
「失礼します」
そこに居たのは四十歳前程の女性看護師だった。
「......!」
その顔には見覚えがある。十年前に見ている顔だ。
「久し振りね。元気......だったらこんな所には居ないか」
フフッと笑いながら先程まで母親が腰掛けていた椅子に座る。
「私のこと覚えてるかしら?」
「ええ......あじさい病院の人ですよね?」
「ピンポーン! 大当たり!」
人差し指をピッと立てて明るい声を出す看護婦。怪我人であるオレにこのテンションはしんどい。
「......で? 何か用ですか?」
「ええ、貴方の右足にギプスをはめる時にミサンガを取っちゃったから、返しに来たの」
それで来ちゃったってわけ、と看護婦は続けて微笑んだ。
そして、オレに手渡されるほどけたミサンガ。
受け取ったそれを、一先ず右手首に巻き付ける。
「この病院ってアイツがいる所ですよね?」
「千歳ちゃん? ええ、そうよ。私も昨夜の騒動の時にあの子を探しててね。その時は抜け出したのが千歳ちゃんって知らなかったんだけど、戻って来た時にバッタリ会ってね。すっかり綺麗になっててビックリしたわよ」
「向こうは貴女のこと覚えてたんですか?」
「そりゃあ勿論。会った時に昔話で随分盛り上がったわよ」
「そうですか......」
「そうそう。この病室に来る前に丁度千歳ちゃんに会ったんだけど、貴方がこの病院に運び込まれたって聞いて凄く驚いてたわよ?」
サラッとそう言ってのける看護婦。
「え? まさかオレの病室が何処か教えたりしました?」
それは困る。もし此処に押し掛けられたりでもすれば、どうすれば良いのか分からなくなってしまう。
「ええ、教えはしたんだけどね。でも、『今は尋ねるべきじゃないから』って言ってたわ」
なるほど。
オレの返答が貰えるまではオレと無闇に接触するべきではない、そう判断したのか。英断だな。
「ひとまず安心だな......」
「でも、千歳ちゃんも一途よね。十年越しに約束を果たしに来るなんて......正直な話、助かる確率は低いと思っていたから」
申し訳なさそうに俯く看護婦。
「よっぽどこの地に戻ってきたかったのね。未だにミサンガを手首に巻いていたし......それで? 残る問題は貴方が約束を果たすかどうかだけど......どうするつもりなの?」
なんとも分かりきった質問をしてくる。
「分かっているでしょう? オレは約束を果たすだけです」
「......そう」
そこまで聞くと看護婦は満足したのか、席を立ち、病室を後にしようと扉に近づいていく。
「千歳ちゃんのことを思いやるのは良いけど、でも、貴方自身のことも考えてね?」
そんな提案をして、開けた扉から廊下へと出ていった。
「オレ自身のことを......ね」
生憎、そんなことを考えている余裕は無い。そんなことよりも大事なことがある。
それは、必ずオレが解決しなければならない問題だ。いや、解決などしない。必ず隠し通すべき問題だ。
校内屋台大会。
オレの学校がその行事を開催するまで丁度一週間。その時に、全てのケリをつけなければならない。
窓から覗いた空は、オレの心境を現しているように曇り始めていた。
..................
そして一週間後、いよいよその日がやって来た。
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