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失踪

今回から話が大きく動きます!

「恐らく長時間日光を浴び続けたことによる軽い熱中症でしょう。あとは、過度なストレスですかね。まあ、元々体も弱いことですし、大事をとって一週間程は入院した方が良いかと」

 白衣を着た男が、ベッド横にいるオレと執事に告げる。

「......左様でございますか。分かりました。お礼申し上げます、先生」

 執事は深々と頭を下げる。

「ああ、いえいえ! そんな大層なことをした訳ではありませんので......では白峰さん? 何か不調があったら、気兼ねなくナースコールしてくださいね」

 医者はベッドに横たわる千歳に優しく声を掛けて部屋を去っていった。


「ごめんなさい。私としたことが、つい浮かれて皆様にご迷惑を......」

 千歳はオレ達に顔を向けて謝罪する。

「そう思ってるなら、お辛い時は無理せず仰ってください」

 執事はその謝罪に向けて忠告を返す。

「はい......ユウくん、本当に申し訳ありませんでした」

「オレのことを気にするより、自分のことに気を配ってくれ」

「......はい」


 千歳はしばらく悲しげに微笑んでいたが、やがて顔をオレとは反対側に向けて言葉を発した。

「無念ですね......今度この地へ戻ってきた時には目一杯ユウくんと遊ぶつもりだったのに。結局、昔と同じことになってしまいました」


 その言葉に返す言葉もなく、オレ達はただ沈黙を貫く。

 その時─────


「無事か!? 千歳ちゃん!!」

 病室のドアが開かれて、一馬と渡、そして桐花が駆け込んできた。

 先程、千歳が倒れ救急車でこの病院へと運ばれた後でオレがその旨を連絡したのだ。

「皆さん......ごめんなさい、ご心配をお掛けして。でも、この通り問題はありませんから」

 優しく微笑む千歳。

「問題ないって......白峰さん、貴女、現に倒れてるのよ? 何でこんなになるまで我慢なんかしたの?」

「それは......いえ、申し訳ありませんでした」

 一瞬チラリとオレを見たが、すぐに顔を逸らした。


「さて、じゃあオレはそろそろ帰るとするかな」

 オレは一人出口に向かって足を踏み出す。

「え!? ちょっとユウ!?」

 桐花がオレに声を荒げる。

 オレの冷淡な反応がさすがに見逃せないのだろうか。

「医者が言うにはあと一週間で治るらしいし、病人の元にいつまでもお邪魔してたら悪いだろ」

「でも!」

 なおも食い下がる桐花。

「いいから、お前らも早く帰るぞ。ほら、こっち来い」

 桐花の叫びを無視して、オレは三人に手招きする。一馬と桐花は、そんなオレの様子を訝しげに見ていた。

「そうだね。いつまでも此処にいたら白峰さんに迷惑かもしれないし、迅速にこの部屋を去ることにしようか」

 そこで、今まで黙っていた渡が口を開いた。

「ちょっと渡! アンタまで何を言って......!」

「そうだぜ二人共!! お前らには千歳ちゃんを思う気持ちは無いのか!?」

「いいから、ほらほら!」

 いつまでも反論を続ける二人の背中を渡が押す。二人は強制的に歩を進ませることとなり、すぐに病室の外へと退去させられた。

 続いて、オレもその場を立ち去る。

 ドアを閉める際、こちらを見ている千歳と目が合った。



..................



「ちょっとユウ! アンタどういうつもりなの!? そりゃあ、昨日振ったばかりの女の子なんでしょうけど、でも、さすがにあの態度は酷すぎるわよ!!」

 三階の病室を出て、オレ達は一階のロビーへと下りてきた。そこには大勢の人がいるわけだが、桐花はそんなことを気にも留めず、そこに着いた途端に怒りを露にした。

「お、おい桐花。ここで騒ぐのはさすがに......」

「一馬は黙ってて!!」

 珍しく一馬が制止の声を掛けるが、それでも桐花は止まらない。

「ねえユウ、アンタは何がしたいの? そんなに白峰さんのことが嫌いなの? 彼女を拒絶したのに家には泊めて、彼女に応えるつもりはないのに滝に連れていって......ねえ、アンタは何がしたいの?」

 桐花の表情は悲痛に満ちていた。

 千歳と同じ女として、オレの行為が理解できないのだろう。確かに端から見ていれば、オレの行動は女の子の気持ちを弄んでいるように映るかもしれない。


 オレが答えず黙っていると、しびれを切らした桐花がまたも声を荒げる。

「ねえ! 何とか言いなさいよ!!」

「何か理由があるんじゃないかな?」

 その声に言葉を返したのは、オレではなく渡だった。

 渡はオレをジッと見つめて言葉を続ける。

「確かにユウが理解しがたい行動をとってるのは事実だけど......でも、ユウは意味が無い行動をとるような人でもない。それは桐花も知ってるでしょ?」

「それは......」

「だからユウ、教えて欲しいんだ。君が一体どういう気持ちで動いているのか。白峰さんに素っ気なく接しながらも、完全に拒絶することをしないのは何故なのか。僕らの仲で隠し事は無しだよ?

僕らに協力できることがあれば、ちゃんと手伝うから......」

 渡はそう告げ、一瞬もオレと目を離そうとしない。先程までは騒いでいた桐花も、静かにオレを見据えている。


 まったく......。


「......はーあ。何でこんな面倒なことになっちまったのかなぁ」

 オレは誰かがいるはずもない天井を見上げてそうぼやく。

「いや、でもこれで良いのか......お前らからボロが出るなんてことは防がないとならないし」

「ボロが出る?」

 渡がオレに聞き返す。

 オレは視線を三人へと向け直し、言葉を続けた。

「今から言うよ。約束の話を......」



 そうして、オレは友人達へ全てを打ち明けたのだった。



...................



 オレの話を聞き終えた三人はオレに何か聞いてくる訳でもなくただただ俯くだけだった。

 オレの話で納得したのか、それとも何を言えば良いのか分からなかっただけなのかは知らないが、オレはそんな三人を尻目に、一人病院を出た。

 そして、今は自宅のベッドで寝転んでいる。

 

「言ってしまえば楽になるもんだな......」

 胸が軽くなっているのを感じる。

 思えば、初めからこうしていれば良かったのだ。何故、オレは今まで三人に何も事情を説明しなかったのか。

 そうしてしまえば、幾らか楽だっただろうに。

「もう十時か......」

 部屋の掛け時計に目をやると、針が夜の十時を指し示していた。

 川で解散宣言をしてから、知らぬ間に四時間以上経過してしまっていたらしい。

 ちなみに、あの子供達は病院に同行させず、そのまま母親が迎えに来た車に乗せて一足先に帰らせていた。

「さて、寝るとするかな......」

夏休みを満喫するコツは早寝早起きすることだったりする。それは今まで十回程の夏休みを過ごしてきたオレが得た教訓だ。

 明日は今日の分の埋め合わせのためにもダラけきった生活を送ろう。

 

 そう心に決め、オレは部屋の電気を消すため一旦ベッドから体を起こす。

 そしてスイッチに近づこうと一歩踏み出した瞬間、勉強机の上に置かれていたオレのスマホが鳴った。

 スマホを手に拾い上げ、届いたチャットを開く。


『千歳ちゃんが病院を抜け出した! 何か知らないか!?』


 開かれたチャットに映し出されたのは一馬からの決死の叫び。

 その叫びが瞳に飛び込んだ一秒後には、オレは部屋を飛び出していた。

「あ! ちょっと、アンタこんな時間にどこ行くの!?」

 一階へと下り、玄関を出る刹那に母親から声が掛かったが、無視して外に出る。

 出てすぐの所に母親のママチャリが置かれているのを発見した。

「ちょっと!? アンタどこへ......」

追いかけてきた母親が再び尋ねてくる。

「自転車借りるぞ!!」

 要件だけを伝え、オレは自転車に跨がりペダルを漕ぎ出す。

 ペース配分など気にしない。

 最初から全速力だ。


 風をその身で切りながら、オレはペダルを漕ぎ続ける。

「ちくしょお......何をしてんだアイツは!!」

 行く宛てなどないが、何かがオレを突き動かしていた。


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